魔王が識りたかったもの

香月 樹

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第一章 旅立ち

#12 決別

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夜が明けた。
今日も朝から太陽が強く照りつけ、ますます暑くなりそうだ。

町の方からは暫く騒がしい声が聞こえていたが、
夜も更けた頃にはそれも収まり、あの騒ぎが嘘のように静まり返っていた。

昨夜はあの後、町外れのあの川まで歩いて戻り、川に架かる橋の下で一晩やり過ごした。

生を終え、再び生を始めた川ではあるが、存外涼しくて心地よく、
とりあえず出発の準備が整うまでの場繋ぎ的な拠点にしていた。

(シュッと移動できれば良かったんだけどな。。。)

魔族の身体だった頃には、別の場所に瞬時に移動するなんて訳はなかったが、
現在は、魔力があるとは言え物理的な肉体を持つためそれも叶わない。

あの騒動の中消えたように見えたのは、
人族では感知出来ないよう魔力を使って気配を絶ち、尚且つ闇で目眩しをしたに過ぎない。

(魔力があるとはいえ、何でも出来る訳では無いからな。
特に今は以前の1/10程度しか魔力が無いし、物理的な肉体も弊害になっている。
何が出来て何が出来ないか少しずつ検証しなければな。)

「それにしても夕べは少し目立ち過ぎたかな。。。」

魔王は昨夜の騒動を少し反省していた。
本当は少し町中で情報を集め、出発の準備をして目的地へ向かうつもりだった。

(かなりの人数に顔を見られてしまったからな。
今更町中を歩き回り、人に話しを聞くのは得策ではないな。よし、それならば。。。)

直接目的地へ向かうのを止め、顔が知られていないであろう王都を一旦目指す事にした。

王都ならばここから馬車で1日ほどの距離だし、
ここより人も多いから情報も集めやすいだろうと考えた。

王都を目指すにあたり、取り急ぎ解決しなければいけない事を頭の中で整理する。

1.まずはこの服装をどうにかする。血にまみれたボロボロな服装は流石に怪しすぎる。
2.数日分の食糧と、当面の旅の資金を稼ぐ。
3.王都へ向かう馬車をどうにかする。

さしあたってこれくらいが現在直面している問題だ。

食料と資金については、昨日のうちに例の店からくすねた分でどうにかなるだろう。
実は爆発させる前に魔力を使って、ある程度の食料と、金を根こそぎ盗み出していたのだ。

(ふよふよ浮いていたが、陽もだいぶ傾いて暗かったし、きっと誰にも気づかれなかっただろう。。。)

そう自分に言い聞かせ、次は服装の問題に取り掛かる事にした。

魔王は町の中心から少し離れた民家を順に回り始めた。
もちろん人族にわからないよう気配を消したが、目眩ましは使わなかった。
陽が高く明るいうちに闇を使うと逆に目立ちかねないからだ。

(夜や陽の当らない場所だと、「気配断ち」+「闇での目眩まし」の効果は抜群なんだが。)

暫く民家の様子を見て回っていると、ある1軒の民家に差し掛かった。
他の民家より一回り大きく、町の中では裕福な方に見える。

裏庭に回ると広めの庭があり、大きな木が1本とその横に大事に世話された花壇があった。
庭の中央辺りにはたくさんの洗濯物が干されており、風が吹く度に揺れている。

(よし、狙い通りだ。)

これだけ晴れた日であれば、恐らく洗濯物を干しているだろうと考えたのだ。

そして、裕福な家であれば1着くらい盗まれても大して痛手にはならず、
また、裕福な家の服であれば小ぎれいなものであろうから、
王都へ入る時、身なりの問題で揉める事を回避できそうだと思ったのだ。

魔王は自分の身体に合いそうな服を物色し始め、
目に留まった小ぎれいな服を手にとり、乾いている事を確認してから着替えた。

そして、今まで着ていた血にまみれたボロボロな服を、庭の向こうに広がる草むらに放り投げた。

服を放り投げた先を暫く眺めていたが、
これまで生きる事のみを目的として生きてきた、孤児としての自分に決別しているようだった。


【これまでの魔力検証結果】
・ある程度の大きさの物まで魔力で動かせる。(最大は未検証)
・ある程度の爆発を起こせる。(最大は未検証)
・物体を別の物体に変えれる。(一部分(腕)のみ検証済)
・気配を消す。(特殊な能力で見破られない限り100%)
・闇を使って目眩まし。(特殊な能力で見破られない限り100%)
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