華村花音の事件簿

川端睦月

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三本のアマリリス

三本のアマリリス -4-

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「協力?」

 花音は法月の意図を汲みきれず、眉根を寄せる。

「あいつの悪事の証拠集めです」

 床に転がる二階堂を蔑んだ目で見つめ、法月が言った。

「あいつ、ずる賢いだけあって、証拠隠滅には長けていますからね──だから、兄さんのときも……」

 ギュッと握った拳が小刻みに震えた。

「でも、鬼柳さんのおかげで、いいものが集まりました。なんたって銃刀法違反に殺人未遂ですもんね。それと誘拐と……」

 そう言って、申し訳なさそうに咲を見る。

「咲さんには怖い思いをさせてしまいました。申し訳ありません」と謝辞を述べた。

「でも、兄さんの事件のとき、警察がきちんとあいつを捕まえていたら、こんなことにはならなかったんだけど」

 チラリと花音を見、嫌味ったらしく言う。元警察官だった花音への当てつけだ。

「まあ、今回は映像として証拠を残したし、後ろ盾がなくなった今、あいつも逃げ切ることはできないだろうけど」と目を細め、二階堂を威嚇する。

 監視カメラの多さはそのためだったのか、と花音は納得した。

「あと、高木さんがあなたに『ごめんなさい』って言ってました」

 不本意そうに法月が告げる。

「高木さんが?」

 森林公園の一件で、高木の素性を調べて分かったのだが、彼女は法月の兄の元婚約者だった。

 二階堂綾子の秘書を勤めながら、悟に復讐する機会を探っていたらしい。

 だから花音が二階堂家の内情を探ることを申し出たとき、快く引き受けてくれたのだ。

 綾子を告発できたのは高木の働きがあってこそだった。

「そういえば、高木さんはどこに……」

 花音の問いに、「安全な場所にいます」と法月は答えた。

「高木さんは、あなたの提案では二階堂悟までは罰せられない、と思ったそうです」

 たしかに、自分たちの作戦は綾子に狙いを定めたもので、二階堂までには手が及ばなかった。

「だから、あなたの作戦に便乗して、あいつを陥れようと画策しました──ただ、咲さんを利用したのは良くなかったと反省してましたね。恋人を利用される悔しさは彼女が一番知っていますからね」

 二階堂に法月の兄を紹介したのは、高木だという話は聞いていた。そのせいで彼を巻き込み、死なせてしまったと後悔していたのも。

 チラリと咲を窺うと、彼女は大きく頷いた。

「気にしないでください」

 花音は笑顔を繕う。

「咲ちゃんも無事だったわけですし、二階堂が捕まったのなら万事解決です」
「ですよね。元々は警察がきちんと仕事しなかったせいですからね」

 法月は再び嫌味を言い、ニヤリと笑った。よほど警察への恨みは深いらしい。

「それと、これっ」

 法月は背後から取り出した日本刀を床の上を滑らせ、花音へと渡した。

「?」

 花音はそれを取り上げ、首を傾げる。それは、今持っている刀とよく似ていた。

「本物のほうです」

 法月はニヤリと笑う。

「大事にならないように模造刀とすり替えておきました。目の前で人が死ぬのはごめんですから」

 なるほど、と花音が手にしていた刀を法月に投げ返す。

 たしかに本物の日本刀だったら、アマリリスで防ぎ切れたかは疑問だった。

 それを受け取り、それじゃ、と法月は背を向ける。

「二階堂のこと、お願いします──今度こそきちんと法で裁いてくれないと、俺が彼の命を奪うことになりますから」

 そう呟いて、手すりの上からひらりと階下に飛び降りた。
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