華村花音の事件簿

川端睦月

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三本のアマリリス

三本のアマリリス -3-

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「行けっ」

 顎をしゃくり、二階堂は二人の男に命じる。

 男たちはジリジリと花音との間合いを詰めた。

 最初に飛び出してきたのは、花音の左側にいたサングラスの男だ。勢いよく殴りかかってきたのを、花音は後ろに反って交わし、蹴りで男の足を払った。サングラスの男はバランスを失い、豪快に床へと倒れ込む。

 それを見ていた右側の太めの男が無策に飛びかかってくる。花音は身をかがめ、その懐に入ると、腹部を目がけ拳を突き上げた。太めの男は呻き声とともにうずくまる。

 その間に、サングラスの男が体勢を立て直し、背後から襲いかかってきた。が、花音は身を反転させ、股間を蹴り上げた。サングラスの男はもんどり打って身を丸めた。

「役立たずがっ」

 あっさりとやられた男たちを蔑み、二階堂が罵声を浴びせる。

「まぁ、いい……」と不敵な笑みを浮かべ、二階堂は手にしていた日本刀を身体の前に突き出した。ゆっくりと鞘から刀身を引き抜く。切っ先が光を集め、ギラリと怪しく光った。

 花音はそれを迎え撃つべく、アマリリスの花束を中段に構えた。

「なんだ、それ?」

 二階堂が可笑しそうに口を歪めた。しかし、花音は揶揄うように笑った。

「お前にはこれで充分だよ」

 チッと忌々しげに二階堂が舌打ちをする。

「馬鹿にしやがって」

 刀を振り上げ、花音に斬りかかった。

「花音さんっ……」

 窓越しにそのようすを眺めていた咲はギュッと目を瞑った。

 ガツンっとが激しくぶつかり合う鈍い音に、咲は恐る恐る目を開ける。

「え?」

 飛び込んできた光景に、思考が一瞬止まった。

 アマリリスの花束が、刀を受け止めている。

 ──花束で日本刀を受け止めた?

 いまいち理解できない状況に咲は呆然とそれを眺めた。

 二階堂自身も驚いているようだった。圧倒的に有利と思っていたものが、反撃にあい、逃げ腰になっている。

 花音は刀を花束で受け止めたまま、二階堂を押し戻し、薙ぎ払った。体勢を崩した二階堂はその場に尻もちをつく。

 手から刀がこぼれ落ち、カランと乾いた音を立てる。

「くそっ」

 二階堂が再び刀を握り締めようとしたところを、花音がその刀身を踏みつけ、二階堂の喉元に花束を突きつけた。

「まだ、やるつもりですか?」

 低い声で問う花音を前に、二階堂はガックリとうなだれた。

「物わかりが良くて助かります」

 その腕を、花音は花束の紐を解き、縛り上げる。

 窓越しにそれを眺めていて咲はホッと息を吐いた。

 その肩を、誰かが叩く。

「咲さん」
「ヒャァッ」

 驚いて悲鳴を上げると、花音がこちらを見、血相を変えてバルコニーへと飛び出してきた。

「咲ちゃんっ」と手を取り、胸の中へと抱き寄せる。

 そのまま咲を左腕で抱え込み、右手に持った日本刀を真正面に構えた。

「なんのつもりだ、法月っ」

 花音の鋭い声が響いた。

 ──法月?

 チラリと後ろを窺えば、確かに法月の姿がそこにはあった。

「なんのつもりって……」

 法月は肩を竦め、懐から小型のナイフを取り出す。それを正面に構え、花音の頭を目がけ放った。

「うあっ」

 花音の頬を掠めたナイフは、後ろから襲いかかろうとしていた太めの男の右肩に突き刺さる。

 花音は後ろを振り返ると、膝をついた男を勢いのまま蹴り倒した。

「さすがですね、鬼柳さん」

 パチパチと手を叩き、法月がニコリと笑う。

 それから、「本日はご協力下さり、誠にありがとうございました」と恭しく頭を下げた。
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