華村花音の事件簿

川端睦月

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三本のアマリリス

三本のアマリリス -2-

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 監視カメラの映像では、外を警備する人物は確認できなかった。その代わり、リビングには数人の人が集まっている。車の台数的に、この別荘にいる人間はそれで全てなのだろうと予想できた。

 そして、その中に二階堂と法月青の姿もあった。

 二階堂に恨みを持っている法月が、いまだに彼と一緒にいる理由は分からない。

 が、少なくとも大人しく従っているだけではなさそうだ、と花音は思った。

 それどころか、彼は二階堂を操っている可能性がある。

 ──あの招待状……

 必要最低限の情報で意図を伝えるあの手法は、二階堂では考えつかないだろう。

 花音は木陰に隠れつつ、別荘へと近づいた。咲がいるのはバルコニーのある二階の部屋だから、雨樋伝いに侵入できるかもしれない。

 別荘の背後に周り、そこから部屋のある右手側へと移動する。やはりバルコニーへと通じる雨樋があり、それを登ると案外簡単に咲の部屋へは辿り着いた。

「今なら、咲は一人っきりだ」

 右耳に付けたワイヤレスイヤホンを通して、凛太郎が言う。

 監視カメラの映像を確認して状況を伝えてくれているのだ。

「わかった」

 花音は頷き、窓を覗いた。

 部屋の中に、椅子に座る咲の姿が確認できた。ちょうど窓に背を向けて座っているので、こちらには気づいていない。

 花音は軽く窓ガラスを叩き、咲ちゃん、と小声で呼びかけた。

 驚いて振り返った咲が、花音の顔を認め、椅子から立ち上がる。そのまま花音に近寄り、窓を開けた。その窓を潜り部屋の中へと入る。

「花音さんっ」

 途端に咲が抱きついてきた。咲にしては珍しく積極的で、それが彼女の心細さを物語っているようだった。花音は咲を抱き寄せる。

「大丈夫だった、咲ちゃん?」

 背中を摩り、尋ねる。

「あ、はい……大丈夫です」

 咲はコクリと頷いた。

 それから我に返ったのか、ゆっくりと身体を離し、ごめんなさい、と呟いた。

「またご迷惑をおかけして」

 バツが悪そうに俯く。

「全然っ」

 花音は咲の顔を覗き込み、ニコリと笑った。

「咲ちゃんが無事でよかったよ」

 ポンポンと咲の頭を撫でた。

「イチャついてるところ悪いが……」

 イヤホン越しに凛太郎のうんざりした声が聞こえてきた。

「いや、してないしっ」

 花音はあたふたと否定する。

「え?」

 それに咲がキョトンとして花音を見つめた。

「ああ、ごめん」

 花音は耳にかかる髪を捲り、イヤホンをトントンと叩いてみせた。

「──凛太郎と話してた」
「え? 凛太郎さん? 凛太郎さんもいるんですか?」

 意外そうな顔をする。

「うん。咲ちゃんが心配だからって……」

 そうなんですね、と咲が嬉しそうに頷く。なんだか面白くない。

「で、なに、凛太郎?」

 だから、つい邪険に聞き返してしまう。

「二階堂がくる」

 しかし、凛太郎は至って冷静に告げた。

「それ、もっと早く……」

 花音がぼやくのを、

「お前がイチャついてるからだろうが」

 凛太郎が言葉を被せ、遮る。それと併せて階段を登る足音が聞こえてきた。

「咲ちゃんは外に避難して」

 花音は咲の手を取ると、バルコニーへと咲を押しやった。

「花音さんは?」

 心配そうに咲が花音を見上げる。

「大丈夫」と返し、花音は窓を閉じた。

 と同時に、二階堂が部屋へとなだれ込んでくる。その中に法月の姿は見えない。

 二階堂を守るように黒いスーツの男が二人、前を囲った。

「よくきたな、鬼柳……」

 二階堂が男らの後ろから睨みを利かせ、吠える。

 花音はそれを冷めた目で受け流し、

「ご招待いただき、ありがとうございます」

 胸に手を当て、深々とお辞儀をした。

 その態度が気に食わなかったのだろう。ギリギリと奥歯を噛み、二階堂は苦々しく花音を睨みつけた。
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