華村花音の事件簿

川端睦月

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百合の葯

サプライズプレゼント -5-

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 その両脇に並んだ参列者が、讃辞の言葉と共に二人に向かって花びらを投げかける。

「あれね、フラワーシャワーっていうの」

 花音が咲の耳元で囁いた。

「それこそ、本来は花の香りで場を清めるっていう厄除けなんだけど」
「厄除け……」
「でも、生花を使用するフラワーシャワーは禁止しているところが多いの」
「そうなんですか?」

 咲は花音を見上げた。

「生花を使用すると周りが汚れて、後片付けが大変だからね……だけど香りがないフラワーシャワーだと、厄除けにはならないよね」

 花音は肩を竦める。

「ちなみに、この花びらも造花ね」

 そう言って、花音はフラワーシャワーの花びらの入ったカゴを手渡した。

 たしかに、布製の造花のようだ。

「まぁ、造花のほうが撒いたときのヒラヒラ感が理想的でいいんだけどね」と花音は笑う。

 いつもの穏やかな笑顔にホッとする。

 咲はフラワーシャワーの花びらを構え、バージンロードの先を眺めた。参列者に祝福されながら亮介と文乃が近づいてくるのが見える。

 その目の端。前の席の男が、チェア装花に腕を伸ばすのが映った。その腕を別の手が掴み、捻り上げるのも。

 ──え?

 男の腕を捻り上げた手には見覚えがあった。ゴツゴツと骨張った大きな手。

 ──花音さんの手だ。

 一体なにが、とその手を辿って振り返ると、花音が冷ややかな瞳で男を睨みつけ、さらにギリギリと腕を捻り上げていた。

「……いっ」

 男は小さく声を漏らし、痛みに顔を歪める。

 幸い、周りは新郎新婦に夢中で騒ぎには気がついていないようだった。

「なにを企んでいるのかは知りませんが、ここには刑事も沢山います。止めておいた方が身のためですよ」

 花音が男の耳元で囁く。

「……知ってる」

 男が短く答えた。どこか揶揄うような口調からは余裕を感じた。

「それなら好都合です。とりあえず、彼らに身柄を確保してもらうことにしましょう」

 花音は男の腕を捻り上げたまま、ベンチの横へと引き連れていく。

 男は抵抗することなく大人しく従った。

「……いいのかなぁ」

 ポツリと呟く男の声が、かすかに聞こえた。

「なにが……」

 花音が男に聞き返すのとほぼ同時に、高周波のモーター音がどこからともなく聞こえてくる。

 咲は音の出どころを探し、辺りを見回した。

 どうやらそれは、先ほど男が手を伸ばしたチェア装花の付近で鳴っているようだ。

「いけないっ」

 花音が小さく叫び、男を突き放す。それから咲の元に駆け寄ると、力任せに抱き寄せた。

 それとほぼ同時に、チェア装花の陰からなにかが飛び出していく。

 それは一気に上昇し、シャンデリアスレスレの高さで止まった。

「……ドローン」

 ようやく姿を捉えることができたそれは、小型のドローンであることがわかった。下部にはアームが付いていて、小さな風呂敷のようなものを抱えている。

「自動操縦なんですよ、あのドローン」

 いつの間にか花音の背後に立った男が、自慢げに笑った。

「お前っ」

 振り返った花音が男に手を伸ばすが、すんでのところでかわされる。

「あれ、僕からのサプライズプレゼントです」

 男はそう言ってドローンを指差した。

 ドローンは亮介と文乃に近づき、二人の真上で停止する。それから一拍おいて、急激に高度を下げた。

 亮介と文乃は突然視界に入ってきたそれを不思議そうに見上げ、立ち止まった。

「逃げて下さいっ」

 花音が叫ぶ。しかし、チャペル内の騒音に掻き消され、二人には届かない。

 ドローンは二人の三〇センチほど上でピタリと止まると、そのアームを開く。

 瞬間、抱えていた風呂敷がアームからふわりと離れた。

 思わず息を飲んだ咲の目に映ったのは、色とりどりの花びら。光を透かしながら、ひらひらと軽やかに宙を舞う。

「……フラワーシャワー?」

 花音が驚きに目を細め、降り注ぐ花びらを見つめる。それからハッとして背後を振り返ると、すでに男は立ち去っていた。
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