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ブルースターの色彩
華村ビルの人々 -2-
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「そういえば、凛太郎には何を言われたの?」
五階へと向かうエレベーターの中で花音が思い出したように尋ねる。
えーと、と咲は考えを巡らせた。貧乳って言われましたなんて、バカ正直に言えるわけがない。
「何を言われたとかはではないんですけど、態度が失礼で」
「それだけ?」
「はい」
「それだけで咲ちゃんが怒るなんて……」
花音は鋭い指摘をして、咲の顔を覗き込んだ。
「あと、『武雄の彼女?』って聞かれました。……武雄なんて知らないのに」
ふいっと視線を逸らし、咲は話題を変えた。それに花音が苦笑する。
「武雄は……」と花音が言いかけたとき、エレベーターが五階へと到着した。
エレベーターを降りると、打ちっぱなしのコンクリートの空間が現れた。少し離れたところに灰色の鉄製のドアがあり、そのドアを花音はマスターキーを使って開ける。
リフォームがされているようで、室内は白で統一されたナチュラルな仕上がりになっていた。
白木の板が床に貼られ、壁は白い珪藻土で塗り込められている。各部屋のドアはライトグレイの木製ドアが使われ、いいアクセントとなっていた。
「間取りは2LDKね」
そう言って花音は先に立って進み、左側にあるドアを開けた。
「ここはリビング。で、奥がキッチン」
海側にあるリビングの掃き出し窓からは、一面の海が臨める。
「料理をしながらでも海が見えるから、キッチンに立つのが楽しくなるよ」
「そうなんですか?」
花音の後を追い、キッチンのシンク前に立つ。カウンター越しに穏やかな海が広がっていた。
「ほんと、素敵ですね」
「そうでしょ」と花音が相槌を打つ。
「もしかして、花音さんもここに住んでいたことがあります?」
咲は花音を見上げ、尋ねた。
「どうして?」
「説明に実感がこもっていた気がして……」
「そう?」
「ええ」
「まぁ、説明するには部屋のことをきちんと知っておかないとね」と花音は笑った。
「どう? 咲ちゃん、ご満足頂けましたか?」
「ええ、とっても」
この部屋なら素敵な一人暮らしが満喫できそうだ。咲はまだ見ぬ新しい生活に思いを馳せたのだった。
*
「咲ちゃんはこのあと、真っ直ぐ家に帰るの?」
部屋の内見を終えてエレベーターを待っていると、花音が尋ねた。
そうですね、と咲は応じる。
「それなら、送っていくよ」
「えっ、大丈夫ですよ」
咲は手と首を大袈裟に振り、辞意を示した。そこへエレベーターのドアがゆっくりと開く。
「遠慮しないで。配達のついでだから」
花音はエレベーターに乗り込み、四階のボタンを押した。
「配達?」
「うん。ちょうど咲ちゃんの家のほうまで行くからさ」
でも、と咲は戸惑って俯いた。
──花音さんと車で二人っきりなんて、緊張してしまう。
「本当に遠慮しないで」との花音の言葉に顔を上げると、優しい視線にぶつかった。
「今日は僕もレッスンの予約が入ってないから、暇だし。──それに」
「それに?」
「咲ちゃんとドライブするのも楽しいかなって」
「えっ、ドライブ?」
花音はさらりと咲が反応に困ることを口にする。
じんわりと頬が熱を帯び、その熱が耳まで到達したころ、ポーンと四階への到着を告げる電子音が鳴った。
「じゃあ、僕は配達の準備をしてくるから。咲ちゃんは悠太くんの喫茶店で待っててね」
勝手に結論づけて、花音は一階のボタンを押し、エレベーターを降りた。取り残された咲は小さなため息をついて、閉じていくドアを見つめたのだった。
五階へと向かうエレベーターの中で花音が思い出したように尋ねる。
えーと、と咲は考えを巡らせた。貧乳って言われましたなんて、バカ正直に言えるわけがない。
「何を言われたとかはではないんですけど、態度が失礼で」
「それだけ?」
「はい」
「それだけで咲ちゃんが怒るなんて……」
花音は鋭い指摘をして、咲の顔を覗き込んだ。
「あと、『武雄の彼女?』って聞かれました。……武雄なんて知らないのに」
ふいっと視線を逸らし、咲は話題を変えた。それに花音が苦笑する。
「武雄は……」と花音が言いかけたとき、エレベーターが五階へと到着した。
エレベーターを降りると、打ちっぱなしのコンクリートの空間が現れた。少し離れたところに灰色の鉄製のドアがあり、そのドアを花音はマスターキーを使って開ける。
リフォームがされているようで、室内は白で統一されたナチュラルな仕上がりになっていた。
白木の板が床に貼られ、壁は白い珪藻土で塗り込められている。各部屋のドアはライトグレイの木製ドアが使われ、いいアクセントとなっていた。
「間取りは2LDKね」
そう言って花音は先に立って進み、左側にあるドアを開けた。
「ここはリビング。で、奥がキッチン」
海側にあるリビングの掃き出し窓からは、一面の海が臨める。
「料理をしながらでも海が見えるから、キッチンに立つのが楽しくなるよ」
「そうなんですか?」
花音の後を追い、キッチンのシンク前に立つ。カウンター越しに穏やかな海が広がっていた。
「ほんと、素敵ですね」
「そうでしょ」と花音が相槌を打つ。
「もしかして、花音さんもここに住んでいたことがあります?」
咲は花音を見上げ、尋ねた。
「どうして?」
「説明に実感がこもっていた気がして……」
「そう?」
「ええ」
「まぁ、説明するには部屋のことをきちんと知っておかないとね」と花音は笑った。
「どう? 咲ちゃん、ご満足頂けましたか?」
「ええ、とっても」
この部屋なら素敵な一人暮らしが満喫できそうだ。咲はまだ見ぬ新しい生活に思いを馳せたのだった。
*
「咲ちゃんはこのあと、真っ直ぐ家に帰るの?」
部屋の内見を終えてエレベーターを待っていると、花音が尋ねた。
そうですね、と咲は応じる。
「それなら、送っていくよ」
「えっ、大丈夫ですよ」
咲は手と首を大袈裟に振り、辞意を示した。そこへエレベーターのドアがゆっくりと開く。
「遠慮しないで。配達のついでだから」
花音はエレベーターに乗り込み、四階のボタンを押した。
「配達?」
「うん。ちょうど咲ちゃんの家のほうまで行くからさ」
でも、と咲は戸惑って俯いた。
──花音さんと車で二人っきりなんて、緊張してしまう。
「本当に遠慮しないで」との花音の言葉に顔を上げると、優しい視線にぶつかった。
「今日は僕もレッスンの予約が入ってないから、暇だし。──それに」
「それに?」
「咲ちゃんとドライブするのも楽しいかなって」
「えっ、ドライブ?」
花音はさらりと咲が反応に困ることを口にする。
じんわりと頬が熱を帯び、その熱が耳まで到達したころ、ポーンと四階への到着を告げる電子音が鳴った。
「じゃあ、僕は配達の準備をしてくるから。咲ちゃんは悠太くんの喫茶店で待っててね」
勝手に結論づけて、花音は一階のボタンを押し、エレベーターを降りた。取り残された咲は小さなため息をついて、閉じていくドアを見つめたのだった。
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