華村花音の事件簿

川端睦月

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イースターエッグハント

魔女の館 -1-

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「とてもおしゃれな造りですね」

 ルネサンス風の木造建築物の横。職員駐車場で荷物を降ろしながら、しげしげとそれを眺める。

 白いペンキ塗りの壁にくすんだ赤色の屋根で、窓の上部に装飾を施した双子窓が印象的な建物だ。

「そうなんだ。中は改装してるけど、外観は当時のままだから、趣があるよね」
「そうですね」

 咲は頷く。

「でも、幼い頃はこの建物が苦手だったんだ」

 花音は懐かしそうに目を細め、呟く。

「苦手?」
「そう。今でこそ明るい雰囲気になってるけど。当時はカフェもなかったし、手入れもそんなに行き届いてなくて。暗くて古臭いだけの建物だったの」
「そうなんですか?」

 今の雰囲気からはとても想像できない。うん、と花音が頷く。

「だから僕は『魔女の館』って呼んでいたんだ」と笑う。

「魔女の館……」

 そう言われると、なんだか不気味な雰囲気も漂ってくるから不思議だ。咲は小さく肩を震わせた。

「あれ、怖がらせちゃった?」と花音が笑いながら、咲の顔を覗き込む。

 間近に迫った花音の瞳が真っ直ぐに咲を捉え、思わず視線を逸らした。

「だ、大丈夫です」

 顔の火照りと早まる鼓動を抑えながら、答える。

 いきなりのドアップは心臓に悪いから、やめてください、と心の中でぼやいた。

「──あ、そうだ」

 花音は思い出したように声を上げる。

「さっきのコサージュは持ってる?」
「あ、ここに」

 咲はクルリと半回転し、ショルダーバックの前面にあるポケットを見せた。そこに先程のコサージュを差し込んだのだ。

「バッグもいいけど、やっぱりコサージュは身体につけた方が厄除けになるんじゃない?」と花音はポケットからコサージュを抜き取る。

「ちょっと失礼っ」

 花音はそう言うと、咲の羽織っていたカーディガンの襟元を左手で掬い上げた。屈み込んだ花音の柔らかい黒髪が、咲の頬に触れる。それが思いの外くすぐったかったのだが、勝手に髪に触れるわけにもいかず、咲は堪えながら、花音の様子を窺った。

 長い黒髪に隠れる横顔は相変わらず整っていて、非の打ち所のないイケメンだ。花音が動くたびに香る、コサージュとはまた違ったフローラル系の芳香も心地がいい。

「よし、できた」

 コサージュを留め終えた花音が後退り、遠目に咲を眺める。

「うん、バッチリ」と花音は満足そうに笑い、「これで魔女の館に潜入しても大丈夫っ」と片目を瞑った。

「もう、花音さんったら……」

 咲はクスリと笑い、花音を見上げた。穏やかな春の日に照らされた花音は、少年のような無邪気な笑顔で咲を見下ろしていた。
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