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百合の葯
百合の葯 -1-
しおりを挟むその後、挙式は無事に終えることができた。ドローンの一件もサプライズ演出ということになり、騒ぎにはならず、逆に挙式を盛り上げたようだった。
隣接するレストランで行われた披露宴もまた、とても素敵だった。少人数でアットホームな雰囲気は馴染みやすく、花音の元同僚たちの余興も大いに会場を沸かせてくれた。
──花音さんも無理やり参加させられていたけれど。
元同僚たちからすれば、花音は世話を焼きたくなるタイプのようだ。あれこれといいように揶揄われている花音に、咲はクスリと頬を緩めた。
咲からすればずいぶん大人な印象の花音も、元同僚から見ればまだまだ子供らしい。
新たな一面を垣間見れて、咲は嬉しくなった。
ただ、ドローンの一件以降、花音はどこか上の空である。
「……大丈夫ですか?」
結婚式の帰り道、無言でハンドルを握る花音に、咲は恐る恐る声をかけた。
「え?」
花音はハッとして、チラリと咲に視線を向ける。
「……ああ、ごめん。ちょっとボーっとしてた」
そう言って頭を掻いた。
「もしかして、あの人のこと、考えていました?」
咲の問いに花音はピクリと肩を震わせた。
「……あの人?」
それでも素知らぬ顔でとぼけてみせる。
きっと踏み込んで欲しくない話題なのだろう。
「──チャペルにいた男の人です」
しかし、咲は構わずに続けた。花音がかすかに息を呑む。
「もしかして、彼が二階堂悟、ですか?」
続けざまに尋ねる。
「……違うよ」
諦めたように花音はユルユルと首を振った。
「それなら、どうして花音さんはあの人のことあんなに……」
咲はチャペルでの花音を思い出し、ギュッと拳を握りしめた。
「──あんな顔で見ていたんですか? 私、花音さんがすごく遠くに感じて、怖かったです……」
──花音さんが離れて行くような気がして、怖かった。
花音は眉を顰め、小さく息を吐く。
「──咲ちゃんは、二階堂悟を知っているの?」
信号で車を停止した花音は、探るように咲を見つめた。
「……花音さんの『二階堂悟』と同一人物かは分かりませんが、名前だけは聞いたことがあります」
いつもとは違う様子の花音に戸惑いながら、咲は答える。
「父が告げた政略結婚の相手の名前が『二階堂悟』でした」
そう、と花音は頷く。
「……たぶん、同一人物だよ」
「そうなんですか?」
拍子抜けして、ポカーンと花音を見る。知っていたとしても、誤魔化されるかと思ったから意外な答えだった。
「うん。こんな近くに『二階堂悟』がそうそう沢山いるはずないからね。世の中って狭いよね」
そう言ってニコリと笑う。どこか煙に巻いたような笑顔だった。
だから、一つの疑念が頭を過る。
──本当に世の中が狭いだけなのだろうか?
数ヶ月前は赤の他人だった花音と、たまたま同じ知り合いがいるほど、世の中は狭いのだろうか。
──もしかしたら。
花音さんは、だから自分に近づいたのではないのだろうか?
二階堂悟に近づくために。
──でも、それなら、わざわざ自分を間に挟む必要はない。
知り合いなのだから、花音が直接、話をするなり、会いに行けばいい。
とはいえ、ブライズルームの一件から、二階堂悟を良く思っていないことは想像がつく。
だから、パイプ役として、自分が必要だったのだろうか?
チラリと花音を窺うと、いつもの穏やかな瞳とぶつかり、咲は慌てて目を逸らした。
──それでも。
フラワーアレンジメント教室を訪れたのは、自分の意志だった。それが、仕組まれたものであるはずがない。
花音に対する疑念とそれを否定する気持ちが入り乱れ、胸の中がざわつく。
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