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エディブルフラワーの言伝
エピローグ
しおりを挟む「よう、どうだった?」
部屋に戻ると、当然のように凛太郎が椅子に腰掛けていて、花音は大袈裟にため息を吐いてみせた。
「また、君か。いい加減、勝手に僕の部屋に入るのやめて欲しいんだけど?」
そう言って、持っていた紙袋をテーブルの上に置く。
「おっ。松菓堂のお菓子じゃんっ。食べていい?」
凛太郎は花音の返事も待たずに紙袋の中を漁る。
「懐かしいなぁ。よく祖母さんが買ってたよな」と箱を取り出し、大福へと手を伸ばした。
そんな凛太郎を呆れたように見下ろし、花音はユルユルと首を横に振った。
「ねぇ、僕に何か言うことない?」
「へっ? 言うこと?」
凛太郎は大福をパクリと齧り、花音を見上げた。
「え、なに? なんか不機嫌? 咲となんかあった?」
花音の険悪な様子に気づき、揶揄うように言う。
「お前……」
ユラリと花音の周りの空気が揺れた。花音は素早く凛太郎の後ろに回り込むと、その頭にヘッドロックをかける。
結構本気めのヤツで、凛太郎は「ギブ、ギブ」と慌てて花音の腕を叩いた。
しかし、花音は一向に力を緩めない。
「おいっ」
凛太郎は身体を捩り、なんとか花音の技から抜けだした。
「なんだよ、武雄っ。なに本気になってんだよ」
声を荒げ、首を回す。
「いや、君が咲ちゃんとイチャついてたのを思い出したら、腹が立って」
花音は悪びれもせずそう言って、肩を竦めた。
「はぁ? イチャつくってどこが?」
凛太郎は心外だと言うように花音を睨む。
「咲ちゃんと手を繋いだでしょ。咲ちゃんと料理を分け合ってたでしょ。それから、咲ちゃんに『あーん』をしてもらっていた」
対して、花音は冷静に指折り数えながら、事例を挙げていく。
「……なんだ、そのイチャモンは?」
凛太郎は軽い頭痛を覚え、額に手を当てた。
「それに『あーん』に関しては不可抗力だ」
勝手に苦手なトマトを口の中に入れられたのだ。あれを『あーん』にカウントするのなら、世の中の『あーん』はだいぶお手軽だ。
「でも腹が立つから、仕方ないでしょ」
花音はニコリと笑った。
「……よっぽど咲のことが好きなのな」
凛太郎は独りごち、頭を掻いた。
──こんなに感情を露わにする武雄は久しぶりに見た。
まぁね、と花音は満更でもなさそうに頷いた。
「で、付き合うことにでもなったか?」
その問いに花音は押し黙る。
「なんだ? 仲直りはしたんだろう? その勢いで告白の一つや二つ……」
「──無理……」
「へ?」
「無理だった」
花音は絶望的な顔で凛太郎を見つめた。
「咲ちゃん、僕のこと、『男』として見てないんだよ」
「男として見てない?」
「そう。『華村花音』として見てる。なのに『男』出して迫ったりしたら、また逃げられるよ」
両手を挙げ、ため息を吐く。
「それは……ご愁傷様なことで」
凛太郎は憐れみの目を花音に向けた。
まったくね、と花音は肩を竦め、
「……ま、ここは逃げられないように、ジワジワと包囲網を固めていくしかないよね。まずは悠太くんを味方につけて……」
──怖っ。
あれこれと算段する花音に、凛太郎は恐怖と咲への同情を覚えたのであった。
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