華村花音の事件簿

川端睦月

文字の大きさ
上 下
9 / 105
チューリップはよく動く

エピローグ

しおりを挟む

 田邊咲から、入居の申し込みがあったのは、それから一週間後のことだった。あまりの行動の早さに、かなり切羽詰まった状況であることがうかがえる。

「それじゃ、近いうちに契約手続きに来てよ。悠太くんのケーキを用意しておくからさ」

 花音はそう言って電話を切った。

 スマホをテーブルの上に置き、フゥと息をつく。

 ──計画は、思ったより順調に進んでいる。

 なのに、なぜかモヤモヤと心の中は晴れない。

 ふいに、金属的な音を鳴らして、アンティークのドアが開いた。

「凛太郎……」

 目つきの鋭い、長身の男がドアから顔を覗かせる。

「君も悠太も、なんで勝手に入ってくるかな」
「だったら鍵をかけろ」

 ぶっきらぼうに凛太郎が言って、「頼まれてた資料」と手にしていたクリアファイルをテーブルの上に投げた。

 反動で、写真が数枚飛び出る。その中の一枚に、田邊咲の写真があった。穏やかな笑みを浮かべている。

 ありがとう、と礼を述べ、花音はファイルを引き寄せた。

「……お前、その子を巻き込むつもりか?」

 凛太郎の問いに、別に、と花音はそっぽを向いた。

 呆れたようにため息をつき、まぁ、いい、と凛太郎はつぶやいた。

「だが、ばあさんの名前を汚すことだけはするなよ、武雄」

 そう言い捨て、部屋を立ち去った。

「わかってるよ……」

 凛太郎が去ったドアを感情のない目で見つめ、花音は独りごちた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

死に戻り令嬢は千夜一夜を詠わない

里見透
キャラ文芸
陰謀により命を落とした令嬢は、時を遡り他人の姿で蘇る。 都を騒がす疫病の流行を前に、世間知らずの箱入り娘は、未来を変えることができるのか──!?

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

掃除屋(暗殺者)のわたしが生き返ったら、部屋の掃除をしろと言われました

もさく ごろう
キャラ文芸
命を落とした掃除屋(暗殺者)の珠。ハシルヒメは珠が普通の掃除屋だと思い込み、神社を掃除(清掃)させるために自分のもとに生き返らせてしまう。 掃除屋(暗殺者)が知識を身につけながら掃除(清掃)をする。ほんのりファンタジーな掃除の物語。 (※この作品はフィクションです。カクヨムとノベルアップ+にも投稿しています)

混迷日記2024【電子書籍作家の日々徒然】

その子四十路
エッセイ・ノンフィクション
高齢の母と二人暮らし。 電子書籍作家『その子四十路』のまったく丁寧じゃない、混迷に満ちた暮らしの記録。 2024年10月〜

皇帝の寵妃は謎解きよりも料理がしたい〜小料理屋を営んでいたら妃に命じられて溺愛されています〜

空岡
キャラ文芸
【キャラ文芸大賞】参加中です!投票いただけたら幸いです! 後宮×契約結婚×溺愛×料理×ミステリー 町の外れには、絶品のカリーを出す小料理屋がある。 小料理屋を営む月花は、世界各国を回って料理を学び、さらに絶対味覚がある。しかも、月花の味覚は無味無臭の毒すらわかるという特別なものだった。 月花はひょんなことから皇帝に出会い、それを理由に美人の位をさずけられる。 後宮にあがった月花だが、 「なに、そう構えるな。形だけの皇后だ。ソナタが毒の謎を解いた暁には、廃妃にして、そっと逃がす」 皇帝はどうやら、皇帝の生誕の宴で起きた、毒の事件を月花に解き明かして欲しいらしく―― 飾りの妃からやがて皇后へ。しかし、飾りのはずが、どうも皇帝は月花を溺愛しているようで――? これは、月花と皇帝の、食をめぐる謎解きの物語だ。

宝石のような時間をどうぞ

みつまめ つぼみ
キャラ文芸
 明るく元気な女子高生の朝陽(あさひ)は、バイト先を探す途中、不思議な喫茶店に辿り着く。  その店は、美形のマスターが営む幻の喫茶店、「カフェ・ド・ビジュー・セレニテ」。 訪れるのは、あやかしや幽霊、一風変わった存在。  風変わりな客が訪れる少し変わった空間で、朝陽は今日も特別な時間を届けます。

【完結】非モテアラサーですが、あやかしには溺愛されるようです

  *  
キャラ文芸
疲れ果てた非モテアラサーが、あやかしたちに癒されて、甘やかされて、溺愛されるお話です。

闇黒の悪役令嬢は溺愛される

葵川真衣
恋愛
公爵令嬢リアは十歳のときに、転生していることを知る。 今は二度目の人生だ。 十六歳の舞踏会、皇太子ジークハルトから、婚約破棄を突き付けられる。 記憶を得たリアは前世同様、世界を旅する決意をする。 前世の仲間と、冒険の日々を送ろう! 婚約破棄された後、すぐ帝都を出られるように、リアは旅の支度をし、舞踏会に向かった。 だが、その夜、前世と異なる出来事が起きて──!? 悪役令嬢、溺愛物語。 ☆本編完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。

処理中です...