浮気されたので。我慢する事をやめました。

弌壱弐撥

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何事も「ごめん」で済む訳ではない。【閑話】フロイド フォゼ レクシェル/ルリエラ ザイゼル

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【フロイド フォゼ レクシェル】

母上からたくさん聞いた 不思議な言葉ことわざがあり、その中に〝総領の甚六〟て言葉がある。
長男長女は弟妹と比べ大事に育てられたから、おっとりしていると言われる意味だが愚兄アゼイルに当てはめると、と言う言葉がよく似合う。

愚兄の婚約者である筆頭公爵令嬢ルリエラ ザイゼル
派手な見た目とは裏腹に国の未来を支える為に常に努力している。

たまに顔を見かけるが、俺の顔を見ると、いつも下を向いて歩き、その姿にイライラしていた。

落馬して参加出来なかった〝お茶会〟でに選ばれなかった事に根に持っている訳じゃない。

ルリエラは努力家で勉強熱心だ。
自身で培った能力を自分自身に使わず愚兄アゼイルの尻拭いにしか使ってないからだ。

「知識の無駄遣いとはルリエラコイツみたいな人間を指すんだな」

俺はルリエラ ザイゼルが嫌いだ。 

だから思わず、母上がルリエラに声をかけた姿を見て、思わずきつい言葉を放ってしまった。

〝お母様、甘すぎなんだよ!こいつが決めて婚約したんだ!教育を受けるのは当たり前だろ〟と…

流石に、あの言葉は不味かったと思い後ろめたさから、数年経った今も時々、ルリエラあいつの様子を見る様にしていた。

しかし、あのパーティで愚兄が平民から子爵に成り上がった頭の中が湧いてる女に絆され婚約破棄宣言した。

「やっぱり年を重ねてもバカはバカだな…平民と違い身分のある者同士の婚約の意味すら知らないとは可哀想だが、この国は終わりだな。カッコつけて言ってるが、って宣言してる事すら理解してない。同じ親父の血が流れてると思うと詰んだな」

馬鹿げた三文芝居に呆れながら、無理矢理その場に立たされているルリエラの様子を見るが普段と違っていた。 

普段のあいつなら、自身を奮い立たせ傷付きながらでも状況を受け止めるだろうが違う行動をして俺は驚いた。

静かに状況を見ていたかと思うと給仕にトレーを借り、自身の姿を見て何やら慌てた後、気を失った。

ルリエラが倒れた後、パーティは収拾がつかないまま、お開きとなる。

どうせ、このパーティの状況は父上、母上、あのカリエス女狐に筒抜けだろう…まぁ俺の知った事じゃない。

〝殿下、ルリエラ嬢が目を覚ましました〟影から連絡が入る

「一応、ルリエラあいつの様子は気になるし、見に行くか…」

ザイゼル公爵家に着き先触れなしで出向いた事を詫び、そのままルリエラの部屋に向かうと侍女に止められたが気にせず扉を開る。

「ルリエラ嬢、大丈夫か?うわっ‼︎済まない」

下着姿のルリエラが視界に飛び込んだ。
慌てて扉を閉め準備が済むのを待ち、再び謝罪する。

「先程は、済まなかった。やっぱり、アイツ婚約破棄を言い渡したか…」

愚兄の行動パターンは手に取るように分かる。
諫言を言うものを嫌い、甘言を吐く奴にしか耳を傾けない。

ショックを受けているかと思いきやルリエラの表情がいつになく明るい気がする…話し方も…

「お前…ルリエラ嬢の姿をしているが本当は誰だ?事と次第によっては斬る」

敵を見据える低い声で問いかける。

「えっ?ちょっちょっと‼︎順追って話すから、その物騒なの仕舞ってよぉ~」

冷や汗をダラダラ流し焦りの表情でルリエラの〝なり〟をした奴はルリエラの体に入った経緯を話し出す。

「理由は分かった…で、貴様は誰だ」

「誰だって言われてもねぇ…そうだ‼︎」

と言って、いきなりベッド上に立ち、自己紹介をし出した。

「初めましてフロイド殿下。私は☆ニューハーフ ショーパブ〝Balon〟のムードメーカー、ボンバーちゃんよ‼︎ヨロシクね☆」

横のVサインにウィンク、小さな舌を唇からはみ出させ不思議なポーズに俺は固まった。

「何だ‼︎その巫山戯ふざけた挨拶は‼︎」

「〝誰だ〟って言われたから自己紹介したのに、その態度はないでしょ!」

ボンバーと名乗る奴はぷぅっと頬を膨らます。

今までの俺はの彼女の行動に戸惑う。

不覚にも一瞬、今まで、色んな女達が擦り寄って来たが揺らぐことは一切なかったのに…

ボンバーの名前は仮初の名で本当の名は規矩きくと言うらしい…

「私の名前ちゃんと由来はあるのよ!規矩って〝人の行動の基準〟や〝規則〟って意味があってね〝恥じない人間になりなさい〟って…私の両親…家系って公務員…ここで言うなら文官とか騎士?とにかく国を守る仕事をしているの。私を除いてね」

伏し目がちに少し淋しげに話す規矩の表情が印象的に残る…

規矩と会い会話を重ねる度、次第に思いが強くなっていく…外見は今まで嫌いだったルリエラなのに…俺は自分の気持ちに気付かないふりをしていた。

ーーーーーーーー

1ヶ月間、合同演習を終え国に帰ると王宮が騒がしい、状況証拠が揃い、愚兄、女狐、阿婆擦れが断罪されるんだろう…

「フロイド、帰って来て早々で悪いんだが、謁見の間に来てくれ」

「畏まりました。陛下」

「相変わらず可愛気が無いな…偶には父と呼べ」

広間に入り両親の側に立ち広間を見下ろすと1番にルリエラを探してしまう…あっ目が合った…思わず視線を逸らす。

次々と証拠を出され情報の取捨選択ができない者達は裁かれる中、あの阿婆擦れだけが往生際悪く喚く。

「ねえぇ!離せってば!私はヒロインよ‼︎何でこんな仕打ちされないといけないのよ‼︎ねぇ〰︎♡アズくん助けてぇ」

「メイナ…」

愚兄に助けを求めるが、当の本人も下された処分に戸惑ってる。

さらに阿婆擦れは喚き散らかした。

「だって納得いかないし‼︎誰1人死んでもないんだしぃ?ルリエラさんだって婚約破棄されても平気な顔してるじゃない‼︎」

怒りを露わにしたルリエラが阿婆擦れの前に立ち顔を平手打ちした。

ルリエラ?

「あんた‼︎いい加減にしなさいよ!貴女のした行動で、どれだけの人が傷付き周りに影響を与えてしまった事に自覚はないの?確かにになった人はいないわ。だけど心が壊れた人はいるのよ‼︎あんたにとっては、ただのゲーム感覚のつもりかもしれないけど、私達はこの世界で、きちんと生きているの‼︎それすらわからないの?」

大きな瞳からポタポタと涙を流しながら訴える様に阿婆擦れに話す姿に胸が騒めき今すぐ駆けつけて抱きしめたい衝動が起きる…

重症だ。俺はに惚れてる事を認めるしかなかった。

全てが片付き、俺は不服ながら立太子され王太子となった。

「フロイドの婚約者を探さないとな」

「いえ。父上、私の伴侶は既に決めてます」

「ん?今〝父上〟と言ったのか?」して、どこの令嬢か?」

「ルド…フフフ。意外と鈍いのね。ほら、フロイド早く捕まえに行ってらっしゃい。アゼイルとの婚約解消され、あの子を伴侶にって国内外から縁談が殺到してるのよ」

「ルリエラ嬢か‼︎」

両親に挨拶をそこそこに済ませ、俺は直ぐにザイゼル公爵家へ向かった。

絶対に離さないよ規矩。

  ⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘

【ルリエラ ザイゼル】


「君がルリエラ?名前も顔も可愛いね」

キラキラと輝くブロンドに空の様に緑がかった青い瞳の王子様に褒められ、その言葉が嬉しくて幼い私は、彼の婚約者になる事を決めた…

しかし、決めてからは苦痛と涙の連続だった…

〝ルリエラ様、国母とはの役割を果たします毅然としなさい〟

〝淑女らしく背筋を伸ばし凛とした佇まいを意識しなさい〟

〝淑女として頭のてっぺんから足の爪先、所作に至るまで音を立てず静かに隙を見せてはいけません〟

〝ダンスは淑女としてマナーの一環です各国の舞踊を踊り熟さないのは国の恥です〟

行きたく無い、開きたく無い〝お茶会〟も、値踏みする様に見られて、まるで針の筵。

「ルリエラ様、また、作法を間違えられましたね、掌をお出しなさい」

若しくは

「机に手を置き、腰を高く上げなさい」

間違えたら容赦なく教育係をされる婦人の鞭が飛び、掌や私の、お尻を叩く。

大好きなことを我慢し痛みに耐え、幼かった私のアゼイル様に抱いた恋心は直ぐに粉々に潰えた。

いつの間にか私の中にあったのは王太子妃、後に王妃となり、アゼイル様を支え、安寧な国を作り守る事に変わっていった…

彼が出来ないところは私が補えば良い…そう考えて王妃教育も5年過ぎた。

「毎日、王宮へ足を運び王妃教育、お疲れ様。ルリエラ嬢」

凛とした表情に屈託の無い笑顔で茶褐色のに赤い瞳の女性が話し掛ける…

ミシャル王妃陛下。

「王妃陛下に於きましては、ご機嫌…「堅苦しい挨拶はいいわ楽にしなさい」

私の言葉を被せる様に話、自室に案内された。

「私も2年だったけど詰め込み王妃教育、辛かったわ~。こんなに幼いのに朝早くから夜遅くまで、頑張ってるわねルリエラ嬢。今は辛いことばかりだけど、いずれ貴女の武器になるから…頑張って」

側室カリエス様とは違い、経験したから言える王妃陛下の言葉が温かく涙する。

「辛いよね…時々、息抜きにきなさい…ね。但し、あの穀潰しカリエス妃には内緒でね」

自身の人差し指を唇にあてウィンクして優しく微笑む。

「お母様、甘すぎなんだよ!こいつが決めて婚約したんだ!教育を受けるのは当たり前だろ」

「フロイド!やめなさい」

王妃陛下に似た容姿に瞳は国王陛下やアゼイル様と同じ色を持つフロイド第二王子。

彼の言葉が私の胸に深く突き刺さる。

「王妃陛下、フロイド殿下が、仰られる通りです…決めたのは私でございます」

私は、数日前にアゼイル様とカリエス様の話を偶然に聞いてしまったのだ…


ーーーーーーーー

「アゼイル。私が、どれだけの思いをして、お前を王太子になる様に仕向けたか分かってない様ね…あのお茶会だってフロイドを参加させない様にして、やっとここまで来たのに…お前は、学園で他の令嬢達との噂が絶えない。もうすぐしたら、ルリエラ嬢が学園に入学するのに改めなさい」

「大丈夫ですって母上。ルリエラあれは私に夢中ですから。私だって母上に言われたからルリエラあれに近付いただけです。あんな人形みたいな見た目だけの令嬢より私を求めてくる女達の方がマシです」

「アゼイル、滅多な事を言うんじゃありません」

慌てて口を閉ざす様にカリエス様はアゼイル様の口を塞いだ。

私は何も知らないまま、この人達に踊らされていたことを知ってしまう…

ーーーーーーーー

「ルリエラ、すまない…愚かな私を許してくれないか?君が学園を卒業したら、私達は夫婦になるじゃないか…君は私を支えることが務め、私は結婚したら君だけのものだ」

一辺倒の謝罪の台詞を言い、許しを請うアゼイル様…

幾ら潰えた恋心であってもは、まだ僅かに残っており、その台詞を耳にする度に許していた。

   〝最後には私の元に戻ってくる〟

その思いだけを藁にでも縋る様な想いだけで、いつ切れてもおかしくない擦り切れた心の糸をアゼイル様は意図も簡単に鋏を入れ、私の心を切り落とした…

「今、此処で私、レクシェル王国、王太子アゼイル フェン レクシェルはザイゼル筆頭公爵令嬢、ルリエラ ザイゼルと婚約破棄を宣言する‼︎そして、メイナ パンジー子爵令嬢と婚約する」

アゼイル様は高台からパンジー嬢を抱きしめ侮蔑めいた表情で私を見下ろしたのだ。

ザーッと一気に体の血液が冷え下に降りていく感覚が私の身体を支配し、今までの努力を全否定された気分だった…

 〝?

長年アゼイル様の為に耐え抜きとして国を支えるべく積み上げたものが一気に崩れ私の心は壊れてしまった。

「いゃーーー‼︎」

私は頭を抱え崩れ倒れる…

もう疲れた…消えて無くなりたい…生きていたくない…

私は仄暗い闇に堕ちていった…

「んもぅ、ここは、どこよぉ?」

1人立ち尽くしていると女性としては、かなり長身でがっしりとした体躯、野太い声だけど優しく、性別が不明な人が現れた…

「貴女、ルリエラちゃん?ごめんねぇ。分かんないうちに、貴女の体に入り込んじゃって…大丈夫?…って大丈夫じゃなさそうね…」

崩壊寸前の私に彼女は声をかけてきた…

私はの気力と勇気を振り絞り話しかけた…

「あの…初対面の貴女に、こんなことを申し上げていいのか分かりませんが、私の話を聞いてくださいますか?」

彼女は私を見て腕組みしていた片方の手を顎に当て考えた後、微笑んだ。

「心におりを残すのは良く無いわ‼︎喋っちゃいなさい‼︎オネェさんが聞いてあげるから、ここに座りなさいよ…ね?」

バン!バン!と地面を叩き、半ば強引に彼女に手を引かれ横に座らされると優しく頭を撫でられる…

彼女の名前は矢車規矩やぐるまきくさん。

「ねぇルリエラちゃん、私は見ての通り、元は男よ!LGBTセクシャルマイノリティって分かるぅ?」

「セク…??」

「ん〰︎そぉねぇ…私この世界に来たばかりだから、よく分かんないけど、私はこの言葉嫌いだけど語彙力が無いから仕方ないとしてには男が女を好きになって女は男を好きになって恋をするのがじゃない?だけどLGBDセクシャルマイノリティは、ザックリ分けると女同士、男同士や、はたまた両方の人もいるし心と身体の性が不一致の人達を指すの。ちなみに私は後者の不一致ね…私は心だけでなく身体も女になりたかったから手術したんだけど、命落としちゃったみたいなの。だけど後悔はしてないわよ‼︎自分で決めた事だから」

聞いただけで大変なのに規矩さんはサラリと笑顔で話した…

「はい」

そう言ってパンと手を叩いた後

「私の話はここでおしまいっ。ルリエラちゃん、私達しかいないから話しちゃいなさい♪」

規矩さんは私の話に耳を傾けた。

私はアゼイル様との出会いから王妃教育の厳しさ、貴族達の値踏みの視線に耐え、自身を律し何度も裏切るアゼイル様を只管、信じていたが、先程のパーティーで突き放された事…思い返すだけでポロポロと涙が止まらなかった…

「孤軍奮闘て言うのかしら?辛かったわね…ルリエラちゃん…」

「幼かったとは言え私が、お茶会の意味を理解していなかった為に、アゼイル様を選んでしまったから…」

誰かに自分の努力を認めてもらいたかったわけではない…だけど辛かった…

「結果がどうであれ、自分の〝初恋〟を粗末に扱っちゃダメよ‼︎ルリエラちゃん。恋ってものは〝好き〟になってしまったら止まらないものだから…」

規矩きくさん…ありがとうございます」

「やぁだぁ本名じゃなくて〝ボンバー〟で良いって」

「私が早く気付いていれば家族にもフロイド様にも迷惑をかけずに済んだのに」

「あ~あ泣かないの、泣かないの。ルリエラちゃんは一生懸命、頑張っていたのはみんな知っているから…今はゆっくり休みなさい」

私は話し終えた後、心が軽くなった…

「ありがとうございます。規矩さん。私、規矩さんに出会えて良かった…」

「ルリエラちゃん?ちょっと(汗)ちょっと待って」

「私、もう疲れてしまって…また立ち直って生きる事は無理みたい」

どんどん私の身体は風に舞う花びらの様に散り始める。

「規矩さん…私の身体を差し上げます。私の話を聞いてくれてありがとうございます」

「ルリエラちゃん…今度は周りばかりではなく、自分自身をちゃんと愛してあげて…」

「規矩さん、本当に本当にありがとうございました…」

私は意識体のだけの姿になり、誰にも見えなければ話しかけたりする事は出来なかったけど、王太子妃教育で奪われた時間を取り戻すかの様に、あちこち見回った…

改めてと学んだ。

今まで得た事ない充足感と〝また生きたい〟と思ったと同時に体が光り出した…

「?」

ーーーーーーーー

「王太子妃様、女の子でございます」

「ありがとう…こちらへ…私に抱かせてちょうだい」

柔らかく温かな、そして懐かしい顔の女性が覗き込み微笑んだ。

「あら。また会えたわね。ルリエラちゃん。今度は私が貴女を幸せにする番ね」

遠くからドタバタと慌ただしい音を立てて、勢いよくドアが開き、私を抱く女性に声をかけた。

「規矩ー‼︎大丈夫か?」

そう言って私ごと、抱きしめた主は何とフロイド様だった…

どういう経緯で2人が結婚したか、分からないが幸せそうな顔を見ると互いに愛し合っている事に私は喜びを感じた。
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