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黒の魔術師と保健医と熱烈女子の休日②
しおりを挟む「おい!ツァールト!!」
声が届いたのだろう。
驚いた表情を浮かべたハンナが、こちらに顔を向ける。
「こっちだ!ツァールト!」
俺は手をチョイチョイと動かしてハンナを手招く。
目を最大限に見開き驚きに固まっていたハンナだが、一瞬の後、小走りでこちらにやってきた。
「え?ツァールト先生!?何で??」
後ろからブラウの驚く声が聞こえるが、それを無視して、ハンナの到着を待つ。
俺の尋常ならざる雰囲気に気付いているのだろう、ハンナは不安そうな面持ちでこちらを伺っていたが、ふと驚いたような表情に変わる。俺の後ろにいるブラウの存在に気付いたようだ。
俺とブラウの顔を交互に見やりながら側へとやって来る。
俺はハンナに余計なことを言われては困ると、先手を打って喋り出す。
「悪いなツァールト、待たせて。すぐに待ち合わせ場所に行きたかったんだが、たまたまブラウに会ってな。あ、もしかしたら知らないか?2年生のソフィア・ブラウだ。」
二人の女性はお互いを不思議そうな目で見合っている。
これ幸いと、俺は尚も畳み掛ける。
「ブラウ。俺は今日ツァールト先生と勉強会をするんだ。もう時間だから、悪いけどこれで。じゃあまた学校でな。」
二人の女性のお互いを見合う視線が、一気に俺へと注がれる。
が、気にしちゃいられないと、
俺はハンナの背中に手を回し、共に逃げるように誘導する。
が、しかし、相手もしつこかった。
「ちょっと待ちなさいよ!二人はどういう関係なの!?」
ブラウが怒りの形相をとって聞いてくる。
「どういう関係って、職場の同僚に決まってるだろ。」
「職場の同僚が休日に二人っきりで会う理由は何よ!?二人は付き合ってるってこと??」
「そんなわけないだろ!勉強会をするだけだ!ほら、これが証拠だ。」
俺は小脇に抱えていた教育関係の本をブラウに見せる。
ブラウは本のタイトルを確認すると、「そ、そう。ほんとなのね。」と虚を突かれたような顔をした。
「当たり前だろ。しかし、確かに男女二人は怪しまれても仕方ないな。今度から気をつけるよ。と言うかお前、ご両親が心配してるんじゃないか?もう行った方が良い。じゃあな、また学校で。」
俺は一気にそう捲し立て、再度ハンナの肩に手を回しブラウに背を向け歩き出す。
ブラウは「え!?ちょっと!」と叫んでいたが、今度は追っては来なかった。
暫くハンナを連れて歩き、駅の向こう側まで避難する。
俺は背後を確認し、ブラウが着いてきていないことがわかると、はぁ~。と息を吐き出した。
まったく、心臓に悪い。
そこで、そう言えばハンナもいたことを思い出す。
ハンナは未だ不思議そうな面持ちで俺を見上げていた。
「悪かったな、ツァールト。巻き込んで。
あいつがあんまりにもしつこくて困ってたんだ。何も言わず合わせてくれて助かったよ、ありがとう。」
俺は謝罪と感謝の意を述べてハンナに頭を下げる。
「い、いえ、そんな!大したことはしてないです。」
ハンナは両手をブンブン振って否定しているが、本当に助かったのは事実だ。
「いや、マジで助かったよ。マジでありがとう。てか、お前時間大丈夫か?何か予定あったんだろ?俺のせいでゴメンな。」
日曜日の昼前に駅前にいたのだ。予定があったのだろうと尋ねると、
「いえ、ちょっとブラブラしようかなって出てきただけなので、時間は大丈夫です。お役に立てたなら良かった。」
そう言って、ニコニコと微笑んでいる。
「なんだ、そうなのか。ふーん、、
じゃあ、何か食いにでも行くか?」
俺は自分でも理由はわからないが、何故だかハンナを食事に誘っていた。
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