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黒の魔術師と保健医と熱烈女子の休日①
しおりを挟む保健室から出た後感じた憂鬱さが何なのか、
多少気にはなったが、その後も授業をこなしている間に忘れてしまい、1日が過ぎた。
今日は休日なので、近所のカフェで本でも読もうと外に出る。
最近は本ばかり読んでいる。
教師になって半年経つが、魔術師団にいた頃とは指導の勝手が違う。
校長オススメの本を片っ端から買い漁り、
休日は大体それを読んで過ごしている。
家よりも外の方が気分転換にもなるので
ここ最近の休日は専らカフェが俺の居場所だ。
家から10分程のところにある店に到着し、扉を開けようと取手に伸ばした手が、すんでのところでピタっと止まる。
いつもは"OPEN"と書かれている札が、今は"CLOSE"となっている。
「はっ?」
なんと今日は閉店してしまっているらしい。
どうしたものかと逡巡するが、
ここに留まっていても仕方ない。
確か、駅前にも良さげなカフェがあったはずだと、足を伸ばすことを決めた。
駅前に近付くと、明らかに人の数が増える。
あまり近付くこともない場所なのでその賑やかさに気後れを覚える。
カフェが混雑していそうなら、今日はもう帰ろう。
そう思いながら、目当てのカフェを目指して人垣を縫うように進む。
「アドルフ先生!?」
突然、背後から呼びかけられ、驚きに足が止まる。
しかし何だか聞き覚えのある声に、振り返るのは危険だと頭の中で警報が鳴る。
俺は気づかぬフリをして、足早にその場を離れようと歩き出した。
が、数歩進んだ先で上衣の裾をガシッと掴まれてしまった。
「アドルフ先生、捕まえた♪」
ーあぁ、目眩がする。
全くもって振り返りたくはないが、捕まってしまった以上降参するしかない。
仕方なく後方に目線だけをくれてやると、
ソフィア・ブラウが俺の上位の裾を掴んだまま、ニコニコと笑っていた。
「はぁーー。なんでこんなとこにいるんだ?
」
「今日は家族で紅葉を見に行くって言ったでしょ?列車で今から行くのよ。こんなところで会えるなんて、なんだか運命感じちゃう。」
ー慣れないことをしたらこれか。ツイてないにも程がある。
「ねぇ、折角会えたんだし、先生も一緒に紅葉見に行きましょうよ!向こうにパパもママもいるの。紹介するわ!」
ブラウは掴んだままの上衣の裾をクイクイと引っ張り、後方を指し示す。
「悪いがこれから用があるんだ。時間が無いからこれで失礼する。じゃあな!」
俺はブラウを振り切ろうと、勢いよく足を一歩前に出した。
が、ガシッと再度裾を掴まれ、阻まれる。
「おい、手を離せ。急いでるって言ってんだろ。」
「なによ!挨拶するだけじゃない。逃げることないでしょ!?」
「何度も言うが、俺はお前の担任じゃない。ご両親に会わせるなら、先ずはマスケル先生にしろ。」
マスケル先生は防御魔術の教師で、こいつの担任でもある、
筋骨隆々な肉体がトレードマークのかなり熱血な先生だ。
「もう!アドルフ先生じゃないと意味ないの!ちょっと挨拶してくれるだけでいいから。ね?お願い!!」
ブラウは一歩も引く気は無いと、今度は俺の腕を掴もうとしてくる。
本当にしつこい。
俺は逃げるための経路を探すべく、キョロキョロと目線だけを動かし、周囲を探る。
と、数メートル先に思わぬ顔を見つけてしまう。
俺は少し迷ったが、背に腹は変えられないとその人物を大声で呼んだ。
「おい!ツァールト!!」
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