上 下
18 / 19

黒の魔術師と保健医と熱烈女子の休日①

しおりを挟む

保健室から出た後感じた憂鬱さが何なのか、
多少気にはなったが、その後も授業をこなしている間に忘れてしまい、1日が過ぎた。

今日は休日なので、近所のカフェで本でも読もうと外に出る。

最近は本ばかり読んでいる。

教師になって半年経つが、魔術師団にいた頃とは指導の勝手が違う。

校長オススメの本を片っ端から買い漁り、
休日は大体それを読んで過ごしている。

家よりも外の方が気分転換にもなるので
ここ最近の休日は専らカフェが俺の居場所だ。


家から10分程のところにある店に到着し、扉を開けようと取手に伸ばした手が、すんでのところでピタっと止まる。

いつもは"OPEN"と書かれている札が、今は"CLOSE"となっている。

「はっ?」

なんと今日は閉店してしまっているらしい。

どうしたものかと逡巡するが、
ここに留まっていても仕方ない。
確か、駅前にも良さげなカフェがあったはずだと、足を伸ばすことを決めた。


駅前に近付くと、明らかに人の数が増える。

あまり近付くこともない場所なのでその賑やかさに気後れを覚える。
カフェが混雑していそうなら、今日はもう帰ろう。

そう思いながら、目当てのカフェを目指して人垣を縫うように進む。


「アドルフ先生!?」


突然、背後から呼びかけられ、驚きに足が止まる。

しかし何だか聞き覚えのある声に、振り返るのは危険だと頭の中で警報が鳴る。
俺は気づかぬフリをして、足早にその場を離れようと歩き出した。

が、数歩進んだ先で上衣の裾をガシッと掴まれてしまった。

「アドルフ先生、捕まえた♪」

ーあぁ、目眩がする。

全くもって振り返りたくはないが、捕まってしまった以上降参するしかない。

仕方なく後方に目線だけをくれてやると、
ソフィア・ブラウが俺の上位の裾を掴んだまま、ニコニコと笑っていた。

「はぁーー。なんでこんなとこにいるんだ?


「今日は家族で紅葉を見に行くって言ったでしょ?列車で今から行くのよ。こんなところで会えるなんて、なんだか運命感じちゃう。」

ー慣れないことをしたらこれか。ツイてないにも程がある。

「ねぇ、折角会えたんだし、先生も一緒に紅葉見に行きましょうよ!向こうにパパもママもいるの。紹介するわ!」

ブラウは掴んだままの上衣の裾をクイクイと引っ張り、後方を指し示す。

「悪いがこれから用があるんだ。時間が無いからこれで失礼する。じゃあな!」

俺はブラウを振り切ろうと、勢いよく足を一歩前に出した。
が、ガシッと再度裾を掴まれ、阻まれる。

「おい、手を離せ。急いでるって言ってんだろ。」

「なによ!挨拶するだけじゃない。逃げることないでしょ!?」

「何度も言うが、俺はお前の担任じゃない。ご両親に会わせるなら、先ずはマスケル先生にしろ。」

マスケル先生は防御魔術の教師で、こいつの担任でもある、
筋骨隆々な肉体がトレードマークのかなり熱血な先生だ。

「もう!アドルフ先生じゃないと意味ないの!ちょっと挨拶してくれるだけでいいから。ね?お願い!!」

ブラウは一歩も引く気は無いと、今度は俺の腕を掴もうとしてくる。

本当にしつこい。

俺は逃げるための経路を探すべく、キョロキョロと目線だけを動かし、周囲を探る。

と、数メートル先に思わぬ顔を見つけてしまう。

俺は少し迷ったが、背に腹は変えられないとその人物を大声で呼んだ。

「おい!ツァールト!!」







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

夫は私を愛してくれない

はくまいキャベツ
恋愛
「今までお世話になりました」 「…ああ。ご苦労様」 彼はまるで長年勤めて退職する部下を労うかのように、妻である私にそう言った。いや、妻で“あった”私に。 二十数年間すれ違い続けた夫婦が別れを決めて、もう一度向き合う話。

【本編完結】若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!

はづも
恋愛
本編完結済み。番外編がたまに投稿されたりされなかったりします。 伯爵家に生まれたカレン・アーネストは、20歳のとき、幼馴染でもある若き公爵、ジョンズワート・デュライトの妻となった。 しかし、ジョンズワートはカレンを愛しているわけではない。 当時12歳だったカレンの額に傷を負わせた彼は、その責任を取るためにカレンと結婚したのである。 ……本当に好きな人を、諦めてまで。 幼い頃からずっと好きだった彼のために、早く身を引かなければ。 そう思っていたのに、初夜の一度でカレンは懐妊。 このままでは、ジョンズワートが一生自分に縛られてしまう。 夫を想うが故に、カレンは妊娠したことを隠して姿を消した。 愛する人を縛りたくないヒロインと、死亡説が流れても好きな人を諦めることができないヒーローの、両片想い・幼馴染・すれ違い・ハッピーエンドなお話です。

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*

音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。 塩対応より下があるなんて……。 この婚約は間違っている? *2021年7月完結

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

【完結】今夜さよならをします

たろ
恋愛
愛していた。でも愛されることはなかった。 あなたが好きなのは、守るのはリーリエ様。 だったら婚約解消いたしましょう。 シエルに頬を叩かれた時、わたしの恋心は消えた。 よくある婚約解消の話です。 そして新しい恋を見つける話。 なんだけど……あなたには最後しっかりとざまあくらわせてやります!! ★すみません。 長編へと変更させていただきます。 書いているとつい面白くて……長くなってしまいました。 いつも読んでいただきありがとうございます!

【完結】え、別れましょう?

水夏(すいか)
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」 「は?え?別れましょう?」 何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。  ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?  だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。   ※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。 ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

処理中です...