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保健医と黒の魔術師の過去①(ハンナside)

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私は魔術師団にいた頃、エルンストさんに救われた。

エルンストさんは"天才"と謳われる魔術師団きってのエリートで、

いつも冷静沈着で、正確無比な魔術を操り、戦場では負け知らず。

上層部や、国の重鎮から気に入られ、
"黒の魔術師"という異名で呼ばれていた。

だが、その綺麗な黒曜石のような瞳にはいつも温度は無く、
無言で隊員たちを見やる鋭い視線は、私にとって恐怖の対象でしかなかった。

私は普段からドジをすることが多かったので、絶対にエルンストさんと一緒の部隊に配属されたくないと、神にまで祈った。

だが、隊の割り当て表で自分の配属先を確認した私は絶望した。
同じ隊にアドルフ・エルンストの名前を見つけてしまったからだ。

新人は慣れるまでのフォローとして、一人一人に教育係が付く。

私は教育係までエルンストさんだったらどうしよう、と恐怖に震えたが、
私の教育係は彼ではなく、フォーゲルさんという、ニコニコした優しそうな男性でとても安心した。

フォーゲルさんは、私がミスをしても怒らず優しくフォローしてくれる大きな度量の持ち主で、いつも助けてくれた。

私は、そんな状況に罪悪感を感じつつも、隊での生活に慣れることに精一杯で、私を見る周りの女性魔術師の視線が日に日に厳しくなることに気付けなかった。

ある時から些細な異変が起こり始めた。
私が洗濯当番だった翌日、誰かのローブが無くなったり、
どこで破ってしまったのか記憶のない破れが見つかったり。

また、食事当番の際には、いつの間にか砂糖と塩が入れ替わっていて、それは悲惨な味付けになったり。

普段から生活魔術が苦手だった私は、そんな記憶は無かったが、自分のせいだと思うより仕方がなかった。

ただなんとなく変だな、と感じていたある日のこと、

練習中、味方の女性魔術師が誤って私に攻撃を向けてきた。

私自身も攻撃を放っている最中だったので、
自分に防御をかけるのが一歩遅れた。

ー当たる!

そう覚悟して目を瞑った、その時、
誰かが私に防御をかけて守ってくれた。


驚いて、その主を見ると、

温度のない厳しい目線を女性魔術師に向けるエルンストさんがいた。

私はとっさにお礼を言おうとしたが、
エルンストさんの視線は女性魔術師に向いていて、とても声を掛けられる雰囲気ではなかった。

女性魔術師は気まずそうに謝罪を口にし、
エルンストさんも無言で持ち場に戻っていってしまった。


その日の夜、私はエルンストさんの姿を探した。
昼間のお礼を言う為だ。

しかし、エルンストさんはフォーゲルさん達と会議をしているとの事で、結局その日お礼を言うことは叶わなかった。

明日会ったら必ずお礼を言おう、
そう思いテントに入って目を閉じた。


しかし翌朝、隊の配置換えが発表され、
私は昨日のお礼のことなど、頭から吹き飛んでしまった。

なんと私の教育係が、フォーゲルさんからエルンストさんに変更されたのだ。

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