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黒の魔術師と保健医の勘違い
しおりを挟む翌日俺は、昼休みに保健室を訪ねる。
昨日エミールから貰った魔石を、ハンナに届けるためだ。
保健室のスライド式の扉をガラガラと開ける。
ハンナは奥にあるデスクに向かい、何か作業をしていたようだが、俺の姿を見とめると、
ハッとしたような顔を浮かべたあと、駆け寄ってくる。
だが、間近で見る彼女の顔に、昨日までの元気さは伺えない。
「どうした?体調悪いのか?」
「え?いえ、そんなことないですよ。」
と言っているが、笑顔にも元気がない。
「あんま無理すんなよ?変えの効くポジションじゃねぇんだから。」
と言うと、そうですね、と俯く。
なんだか世間話をする雰囲気でもなく、さっさと本題に入る。
「これ、やるよ。」
俺は懐から取り出した魔石入りの黒い巾着を渡す。
ハンナは両手で巾着を受け取り、何ですか?と首を捻っているので、開封を促す。
不思議そうな顔で巾着の口を広げて中身を取り出すと、途端に驚いた顔をした。
「わぁ!魔石だ!どうしたんですか?これ?」
「昨日エミールに言って作ってもらった。お前、持ってた方がいいだろ。」
と、言うと
「え!?わざわざですか!」
と、一気に不安そうにする。
俺はハンナが魔石の大きさと、そのおおよその値段にビビっているのだろう、と推察し、安心させるように言う。
「安心しろ。それエミールがくれたやつだから、タダでいい。」
「フォーゲルさんが?」
「うん。お前に宜しく伝えろ、てさ。」
「え?でも何だか申し訳ないです。流石に頂けないですよ。」
と眉を下げ、恐縮している。
「どうせあいつが自分で作ったもんだろ。俺がお前にあげるの分かってて用意したみたいだったし。気にしなくていいよ。もらっとけ。」
そう言うと、
目をパチパチと見開き俺を見つめる。
「それに俺もエミールも生活魔術用の魔石なんて使わないし、貰ってもらわなきゃ困る。」
そこまで言うと、納得したのか、
「すみません。では有り難く頂戴します。本当にありがとうございます。」
と、頭を下げた。
それからまじまじと魔石を見つめていたが、
突然相貌を崩し、ニヤニヤとした笑顔で見つめだした。
「何だよニヤニヤして。そんなに嬉しいのか?」
「え!?私、ニヤニヤしてましたか?スミマセン。嬉しくて、つい。」
そう言って、顔を真っ赤にさせている。
「まぁ、魔術師団の貴公子のお手製だもんな。女なら皆、そんな顔になるか。」
エミールは魔術師団の内外問わず、女性にモテる。
そんなヤツの手作り、と言われて嬉しくない女はいないだろう。
するとハンナは驚いたように
「え!?いや、違います!いや、違わないんだけど、、でも、これはそうじゃなくて!」
と、何故か焦ったように否定する。
そういえば、こいつは俺が教育係になるまでは、エミールに指導を受けていた。
エミールは俺とは違って、女に優しい。
特にこいつは手のかかる新人だったから、
エミールとは割とずっと一緒だったことを思い出す。
「何だ、お前エミールのことが好きなのか?」
と言うと、目をまん丸に見開いて、
「何でそうなるんですか!?」と声を上げる。
「何でって、、違うのか?エミールが作ったって言った途端、嬉しそうにしてたじゃねぇか。」
「全然違いますよ!私は、、、その、そうじゃなくて、、。」
と、何故か尻すぼみになっていく。
俺はそんなハンナを何故か見ていられなくて、
「じゃぁな、エミールにはお前から連絡しとけばいいよ。」
と言って、その場を後にした。
ハンナは慌てて「エルンストさん!?ちょっと!」とか言っていたが、構わず扉を閉める。
外に出た俺の心には、なんだか思いものがのしかかったような感じで、はぁー。と一つ、ため息が出た。
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