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黒の魔術師は偽りのデートをする
しおりを挟む午後からは何事もなく過ぎ去り、
下校時間を迎える。
帰り際、校長が職員室までやってきて、
"昨日の復習をしよう"と言ってきたが、
今日は大事な用があると言って断った。
「お!デートかい?そりゃあ邪魔しちゃ悪い。また今度にしよう。」
と言って、ニコニコしながら帰って行った。
勘違いだが、あっさり引いてくれたのはありがたい。
めんどくさいので特に訂正する必要はないだろう。
*
校門を抜け、坂を下った先にある、
列車の駅へと向かう。
列車は王国魔術師団謹製の魔石を使って稼働させる、市民の移動手段だ。
ちなみに俺は自分で飛んで移動出来るので、
ほぼ使用したことはない。
見慣れぬ駅前の光景に戸惑いながら、人垣の中、辺りを見回す。
と、丁度前方に、周りより頭ひとつ分ほど飛び出した、待ち合わせ相手のオリーブアッシュの横髪を見つける。
俺が近づくと、向こうもこちらに気づき笑顔で手を振ってくるので、片手を上げて返事をする。
「よぉ、久しぶりだな。」
「ほんと、久しぶりだね。アドルフが教師になって以来だから、半年振りくらいか。ちょっと背伸びたんじゃない?」
青い瞳をキラキラさせ、笑顔で冗談を言う長身のイケメンは
エミール・フォーゲル。
魔術師団時代の仲間だった男だ。
俺より2つ年上の25歳で、柔和な態度と、爽やかな笑顔から、
"魔術師団の貴公子"と呼ばれている。
魔術師団に入りたてで、愛想も無く、生意気なことばかり言っていた俺に、何故か毎日笑顔で話しかけて来て、いつの間にか仲良くなっていた。
俺が辞めてからも、何かと気にかけてくれていて、やっと今日都合を合わせて食事に来た。
「この歳で伸びるわけないだろ!いつまでも子供扱いすんじゃねぇ!」
「アハハ!まぁまぁ、そう怒らずにさ、まずは腹ごしらえしようよ!」
久々の再会だが、相変わらずの気安いやり取りに心が和む。
連れて行かれたのは、肉好きのエミールおすすめの店で、奴は手慣れた様子で骨付き肉やステーキを山ほど頼む。
二人とも腹が減っていたので、ガツガツと食らい、その後はお互いの近況報告をした。
昨日の笑顔の特訓について話したら、
やって見せろとうるさく強請られた。
ー誰がやるか!
その後も少し話しをして、翌日も仕事だからと、早めに解散することにした。
立ち上がったエミールが、ローブの内ポケットから、黒いビロードの小さな巾着袋を取り出す。
「はい、これ。」
袋を開けると4センチ程の大きさの魔石が入っていて、青や緑、赤など色とりどりに輝いている。
これは生活魔術用の魔石で、今日エミールに会う際持ってきてくれと、昼間通信用の魔具を繋いで頼んでいた。
値段はいくらか問えば、
「別にいいよ。ハンナちゃんに宜しく伝えて♪」
と、訳知り顔で言われる。
俺はこれをハンナにやるなんて、一言も言ってないが、感の鋭いエミールにはお見通しだったらしい。
流石に悪いので、この店の勘定は全て持つと言えば、既に店の支払いが済まされていた。
「お前が女の子にプレゼント渡す日がくるなんて、俺は純粋に嬉しいよ。俺の気持ちだと思って気にせず受け取って。」
と言うと、じゃあまたな、と飛行魔術の呪文を唱え、サッサと帰って行った。
全くもって勘違いだが、訂正する余地は無く、仕方がないので俺も帰ることにした。
エミールには通信で、「ありがとう」とだけ、送っておいた。
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