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黒の魔術師は偽りのデートをする

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午後からは何事もなく過ぎ去り、
下校時間を迎える。

帰り際、校長が職員室までやってきて、
"昨日の復習をしよう"と言ってきたが、
今日は大事な用があると言って断った。

「お!デートかい?そりゃあ邪魔しちゃ悪い。また今度にしよう。」

と言って、ニコニコしながら帰って行った。

勘違いだが、あっさり引いてくれたのはありがたい。
めんどくさいので特に訂正する必要はないだろう。



校門を抜け、坂を下った先にある、
列車の駅へと向かう。

列車は王国魔術師団謹製の魔石を使って稼働させる、市民の移動手段だ。

ちなみに俺は自分で飛んで移動出来るので、
ほぼ使用したことはない。

見慣れぬ駅前の光景に戸惑いながら、人垣の中、辺りを見回す。

と、丁度前方に、周りより頭ひとつ分ほど飛び出した、待ち合わせ相手のオリーブアッシュの横髪を見つける。

俺が近づくと、向こうもこちらに気づき笑顔で手を振ってくるので、片手を上げて返事をする。


「よぉ、久しぶりだな。」

「ほんと、久しぶりだね。アドルフが教師になって以来だから、半年振りくらいか。ちょっと背伸びたんじゃない?」

青い瞳をキラキラさせ、笑顔で冗談を言う長身のイケメンは
エミール・フォーゲル。

魔術師団時代の仲間だった男だ。

俺より2つ年上の25歳で、柔和な態度と、爽やかな笑顔から、
"魔術師団の貴公子"と呼ばれている。

魔術師団に入りたてで、愛想も無く、生意気なことばかり言っていた俺に、何故か毎日笑顔で話しかけて来て、いつの間にか仲良くなっていた。

俺が辞めてからも、何かと気にかけてくれていて、やっと今日都合を合わせて食事に来た。

「この歳で伸びるわけないだろ!いつまでも子供扱いすんじゃねぇ!」

「アハハ!まぁまぁ、そう怒らずにさ、まずは腹ごしらえしようよ!」

久々の再会だが、相変わらずの気安いやり取りに心が和む。


連れて行かれたのは、肉好きのエミールおすすめの店で、奴は手慣れた様子で骨付き肉やステーキを山ほど頼む。

二人とも腹が減っていたので、ガツガツと食らい、その後はお互いの近況報告をした。

昨日の笑顔の特訓について話したら、
やって見せろとうるさく強請られた。

ー誰がやるか!


その後も少し話しをして、翌日も仕事だからと、早めに解散することにした。

立ち上がったエミールが、ローブの内ポケットから、黒いビロードの小さな巾着袋を取り出す。

「はい、これ。」

袋を開けると4センチ程の大きさの魔石が入っていて、青や緑、赤など色とりどりに輝いている。

これは生活魔術用の魔石で、今日エミールに会う際持ってきてくれと、昼間通信用の魔具を繋いで頼んでいた。
値段はいくらか問えば、

「別にいいよ。ハンナちゃんに宜しく伝えて♪」

と、訳知り顔で言われる。

俺はこれをハンナにやるなんて、一言も言ってないが、感の鋭いエミールにはお見通しだったらしい。

流石に悪いので、この店の勘定は全て持つと言えば、既に店の支払いが済まされていた。

「お前が女の子にプレゼント渡す日がくるなんて、俺は純粋に嬉しいよ。俺の気持ちだと思って気にせず受け取って。」

と言うと、じゃあまたな、と飛行魔術の呪文を唱え、サッサと帰って行った。

全くもって勘違いだが、訂正する余地は無く、仕方がないので俺も帰ることにした。

エミールには通信で、「ありがとう」とだけ、送っておいた。

















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