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黒の魔術師は保健医を翻弄する

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扉を開けてこちらを覗きこんだのは、
ブラウではなく、ハンナだった。

「え!?」

てっきりブラウだと思い込んでいた俺に睨みつけられ、ハンナが驚きの声を上げる。

「ああ、なんだお前か!
てっきり別のヤツだと思って睨んじまった。悪い。」

ブラウで無かったことに安心し、息を吐く。

が、こいつもトラブルメーカーだったことを
思いだす。

ブラウに比べればこいつが可愛く見えてくるから不思議だ。

そういえば朝呼び止められ、ここを教えたことを思い出す。


「俺に何か用か?」

「用って言うか、ただ、エルンストさんとお話しがしたくて、、」

「ふーん。何の話し?」

「あ、えと、とりあえず座ってもいいですか?」

ハンナは俺の向かいの椅子を指して言う。

「どうぞ。てか、お前飯は済んだの?」

「あ、まだですけど、別にいいかなって。」

「いやいや、良くねぇだろ。俺のパンで良かったら食うか?」

メロンパンを差し出せば、ハンナは顔を赤らめ、いいんですか?と歯に噛んだように微笑む。

「好きなのか?」

「え?、、、え!?」

メロンパンを両手に持ったまま、何故か真っ赤な顔で驚いている。

「メロンパン、そんな好きだったんだな。」

「え?あ!メロンパン?あ、なんだ、そっか、、」

と、俯き恥ずかしそうにしている。

「別に恥ずかしがることじゃないだろ。」

俺はそんなハンナが可笑しくて、ハハと笑う。

顔を上げると、何か眩しいものでも見るかのようなハンナの瞳とかち合う。

俺が少しを首を傾げながら、どした?と問えば、また顔を赤らめて俯いた。

ー熱でもあんのか?


結局ハンナは、会わなかった間の俺のことが気にかかっていたようで、ここ半年の近況報告のようなことをした。

「てか、お前なんで魔術師団辞めたんだ?
どう考えてもそっちの方が合ってるだろ?」

そう言えば、敢えて聞いていなかったことに気が付き問いかける。

生活魔術は苦手で、攻撃魔術が得意な奴が保健医なんて、正直言って宝の持ち腐れだ。

「それは、その、、どうしても、この学校に来なければ、果たせない夢?が、ありまして、、」

「え?そうなのか?」

魔術師団時代、こいつは本当に有能な魔術師だった。本人も毎日楽しそうにしてみえたし、また別の夢を持ってたなんて、なんだか意外だ。

「そっか。夢があんのか。じゃあ簡単に魔術師団に戻れとは言えないな。
どんな夢か知らないけど、お前の思うようにやってみればいいんじゃねぇの?」

「はい!ありがとうございます!!頑張ります!!」

俺の言葉に、ハンナは花が咲き綻ぶような笑顔で答えた。


帰り際、扉の前で立ち止まったハンナが、振り返りながら尋ねる。

「あの、また昼休みにここに来てもいいですか?」

俺は少し逡巡して、通信用の魔具のアドレスを交換した。

俺のは左耳に着けたアメシストのピアスで、魔力を通してアドレスを知ってる相手となら通信出来る。

ハンナは左手の中指に嵌めた、ムーンストーンのリングのアドレスを教えてくれた。

「いつもここにいるとは限んねぇから、用があるなら連絡して」

というと、はい!と満面の笑みで頷かれた。
ー元気なヤツ。





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