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黒の魔術師は怒りを忘れる
しおりを挟む「で?この箱はどこに仕舞うんだ!?」
「あ、はい。あちらの棚の上に。」
薬瓶が収納されている棚の上にスペースがあり、
そこに風の魔術の出力を少しだけ高め
箱を乗せる。
「スミマセン。何から何まで。
本当にありがとうございます!」
ハンナは勢いよく頭をさげ、礼を言う。
一つに結んだアッシュブロンドの長い巻き髪が、
バサッと彼女の横顔に落ちた。
「もういいよ。
だが、魔術に頼れないなら、
踏み台を使うとか、
もっと収納を工夫するとか、
やり用があるだろ。」
「仰る通りですね。
ちょっと工夫してみます。」
彼女は眉を下げながら、そう答える。
「じゃあ、俺はもう帰るから。お疲れ!」
今度こそ立ち去ろうと扉に向かう。
しかし
「あ、ちょっと待って下さい!」
何故か彼女に引き止められる。
これ以上何があるというのか、
お願いだから、もう帰らせてくれ。
振り返りるのをためらう俺の背後に
いつのまにか彼女が近づいて来ていた。
「疲れてらっしゃるようなので、
ヒーリングの魔術をかけさせて貰いますね?」
そう言うが早いか、
彼女は光の呪文を唱えながら
俺の肩に手をかざした。
直ぐに、体中がポカポカと温かくなり、
張り詰めていた体が解れる。
10秒ほどで、彼女の手が俺の体から離れる。
「はい。終わりました。いかがですか?」
正直、何を勝手なことを、
と思っていたのだが、
体が軽く、頭もスッキリしている。
「あぁ、体が軽い、、。ありがとな。」
俺は首に左手を当て、
左右に一度ずつ頭を振ってその軽さを確認し、
礼を言う。
相変わらず治癒魔術の腕前はピカイチだな。
180を超える男の体を
たった10秒ほどで癒すなど、
なかなか出来る芸当ではない。
「今日は本当にありがとうございました。」
俺の肩ほどの高さから、
彼女がニッコリと笑いながら礼を言う。
「あぁ。こっちこそ、ヒーリングありがとう。
次から気をつけろよ。
じゃあな。」
そう言って、今度こそ本当に
扉を開けて家路に着いた。
あれほど怒りを覚えていたのに、
そんなことはすっかりと忘れてしまっていた。
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