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9.美加子

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 最近どうも美加子の様子がおかしい。どうおかしいのかと言うと、彼女がツレない態度をとるのだ。

 朝教室で会って声を掛けても、一言挨拶を返してくるだけで目も合わせてくれない。

 それはただの私の考え過ぎなのかもしれない。

 私と同じで、美加子はもともと愛想の良い女の子ではない。

 それを言うと、麻世もまたそうなってしまうので、私たち3人組は全員が無愛想だということになってしまう。

 無愛想な者たち同士、美加子がツレない態度なのは当たり前のことなのかもしれないけど、それにしてもここ最近の彼女の態度は特に酷い。

 まず会話に入ってこない。そして毎日一緒に食堂で3人仲良くお昼ご飯を食べていたのに、美加子はある日突然お弁当を持ってきて、自分の席で1人で食べるようになったのだ。

 マイペースな性格の麻世に一応相談してみたのだけど、やっぱり「考え過ぎじゃない?」と一言返されただけだった。

 結局どうすることもできなくなり、私1人だけが悶々とする日々を送ることになった。

 そんなある日、私はついに我慢できなくなり、美加子にきついことを言ってしまったのだった。

 朝登校して教室の自分の席に着こうとした時、いつものように広瀬さんが私に声を掛けてきてくれた。

 最近仲良くなったこともあり、私は挨拶を返した後、しばらく彼女と会話を楽しんだ。

 すると広瀬さんは、席に着こうとする美加子に気がついて「おはよう」と声を掛けたのだ。

 けれどもそんな広瀬さんに対し、美加子はダンマリを決め込み、ついには無視したのだった。

 怪訝そうな顔を見せる広瀬さんに対し、私は「今日はちょっと体調が優れないみたい」とフォローを入れて何とかその場をやり過ごした。

 けれども広瀬さんは少し寂しそうな顔で自分の席の方へと戻って行ったのだった。

 それから私は遠くで速水君と楽しそうに会話をしている広瀬さんをしばらく眺めた。

 「余計なことしないで」

 突然、美加子はそう言った。

 「え?」

 私は思わず美加子の顔を見た。

 「私、あの女が嫌いなの」

 美加子は広瀬さんを見ている。

 理由は知ってる。周りに見せびらかすようにして、いつも仲睦まじく速水君と接する彼女の姿。美加子がそれを見て面白いはずがない。それは私も同じ。

 「誰にでも良い子ちゃんの顔をする八方美人の女。私の嫌いな女。あの女と仲良くするなら私、アンタたちとの今後のことも考えるから」

 眼鏡の奥から顔をのぞかせる美加子の鋭い眼光。

 美加子の気持ちは痛いほど分かる。正直な気持ち、私も速水君にいつもベッタリの広瀬さんが憎い。

 でもそれは仕方のないことだ。広瀬さんは速水君のことが好きだから、自分の気持ちに素直に行動しているだけだ。

 速水君もまた広瀬さんのことを快く思うからこそ、それを受け入れているのだ。

 広瀬さんに全く悪気は無いし、速水君にも誰を好きになるかは選ぶ権利がある。

 私だって二人の仲が悪くなればいいのにって、思うことはある。でも、それは違うから我慢するしかないのだ。

 「そういうのやめてよ……」

 私は美加子の顔を睨み返した。

 「そういうの、迷惑だよ……。アンタの勝手な好き嫌いで、私と麻世の行動を制限しないで……」

 つい腹が立ってしまい、私は美加子にきついことを言ってしまった。

 「え?」

 驚きを隠せないでいる美加子。

 「私、今のアンタのこと、何か嫌い……」

 私は美加子にそう告げると、自分の席に着いてから彼女に背中を向けた。

 それからその日は美加子とは一切喋ってない。

 けれどもその翌朝、美加子の方から私に喋り掛けてきた。

 「昨日はごめん。まだ怒ってる?」と美加子。

 私は正直まだ彼女に怒っていたので、ただ黙って頷いた。

 「私があの人のことを嫌いなのは、どう努力しても変えられない。けど、だからと言ってアンタと麻世にあの人に対してどうこう言うのは違うよね。反省してる。ごめん……」

 眼鏡の奥からうっすら見える美加子の目は、心なしか涙で少し滲んでいるように見える。

 「馬鹿……」
 
 私は一言だけ返した。

 「え?」

 彼女は珍しくおどけながら笑った。

 「私もごめん。ついカッとなってアンタに酷いこと言っちゃった。ごめんね」

 私もまた美加子に素直に謝った。

 「馬鹿……」

 美加子もまた笑いながら同じ言葉を返してきた。

 「私たち、馬鹿者同士だね」

 私が笑いながら美加子にそう言うと、「馬鹿はアンタだけでしょ」と彼女はそう返してきた。

 「うるさい」と私が言い返すと、ついおかしくなってしまい、2人で声を出して笑ってしまった。

 やっといつもの美加子に戻ってくれた。

 「今日は弁当持ってきてないからさ、また食堂でお昼ご飯一緒に食べよう?」

 美加子のその言葉を聞いた瞬間、私たちはまた元の3人組に戻ることができたのだと実感したのだった。
 
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