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一章 役目を終えて【ミシュリーヌ】

第25話 浄化の旅

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 ミシュリーヌはオーギュストへの手紙をヤニックたちに任せようと思ったが、把握しておいてほしいと言われて先に説明を受けた。オーギュストが相手だと安心して丸投げしてしまうのは、ミシュリーヌの悪い癖だ。信頼しているといえば聞こえが良いが、オーギュストはどう思っていたのか分からない。それに……今のオーギュストはミシュリーヌが無条件に甘えて良い相手ではない。

 反省ね……

 ミシュリーヌはズキリと傷んだ胸を無視して、地図と向き合った。

 報告の手紙は別にしても、地図上の赤いバツの場所については知っておく必要がある。冒険者ギルドで問題視するような規模の襲撃が起きたのだ。当然のように魔素に侵された患者がいる。

 先に人を呼ぶなら、水晶の浄化が必要かどうかの判定は王都から駆けつけた魔導師団員が行ってくれるだろう。浄化が必要だと分かった場合も、聖女の力が必要となるのは、その後に行われる下準備が終わったあとだ。それまでに治療をなるべく進めておきたい。

「動けない患者も多いでしょうから、ぐるりと領内を回る必要がありそうですね。急いだほうが良い街はどこでしょう?」

「街道を東に進んだ先にある、この街だな」

 ギルド長が地図上のある街を指し示す。最初に被害が出たのが、ミシュリーヌ達の滞在する街で八ヶ月前。次に被害を受けた街がその場所で、七ヶ月前に襲撃されたらしい。

 七ヶ月前、六ヶ月前……

 ギルド長が指差す街を順に追っていくと、だいたい一ヶ月間隔で魔獣の襲撃が起きていることが分かる。

「四ヶ月前に何か対策をしたんですか?」

 途中から二ヶ月間隔に変わったことに気づいて、ミシュリーヌは勢いよく顔をあげた。五ヶ月前、四ヶ月前と続いて、次にあるのは二ヶ月前の日付だ。

「いや、襲撃頻度が減った理由は、よく分かっていない。魔獣が襲ってこないように対策が取れれば一番良いんだがな」

 ギルド長が悲しげな表情で指し示した赤いバツには、五日前の日付が刻まれていた。今回も二ヶ月間隔にはなっているが、喜べるようなことではない。

「やっぱり、また襲撃されたのか……」

 ヤニックが呟くように言った。重苦しい空気が部屋を包む。

「昨日、俺のところに報告が来た。死者は出ていないようだから安心しろ」

 ギルド長がヤニックの肩を乱暴に叩いた。慰めにしては痛そうだ。ヤニックは肩を擦っている。

「次は俺も参加する」

「参加?」

 ミシュリーヌは首を傾げる。フリルネロ公爵領は王都周辺の王領に次ぐ広さを誇る。襲撃の知らせを受けても、現場に駆けつけるのは難しい気がする。

「あの街に冒険者を集めていたから、被害が想定より少なくて済んだんだ」

「どうして襲撃が起こる場所が分かったんですか?」

 ミシュリーヌは言ってから赤いバツを目で追って気がついた。襲撃は、第三都市から一定の距離を保ってぐるりと一周するように作られた街道沿いで起こっている。

「聖女の浄化の旅をなぞっている!?」

 第三都市の南に位置するこの街から、反時計回りに半周。赤いバツのある場所には、ミシュリーヌも襲撃が起こったのと同じ順番で訪れたことがあった。

「その通りだ」

 ミシュリーヌたちの行った浄化の旅では、水晶を浄化する前に、領地をグルリと回って魔獣を間引きしていた。

 水晶を浄化すれば魔素が減り魔獣が大人しくなるが、効果があるのは領地を覆う程度の広さのみだ。隣接する領地に逃げ出す魔獣もいる。隣接領に常駐する騎士を増やして対応するが、国民感情もあるので事前準備を大切にしていた。

「口が悪いやつの中には、『浄化の旅で何か仕掛けてあったんじゃないか?』なんて言うやつもいる」

「そんなこと……」

 ミシュリーヌは浄化の旅の過酷さを思い出して暗い気持ちになった。ミシュリーヌは守られるばかりだったが、騎士も魔導師も命がけで戦っていた。

「もちろん、今は信じちゃいない。冷静に考えれば、聖女様を陥れようとしているって方がしっくりくる」

「神殿にミーシャや『聖女様』を近づけたくない理由の一つだな」

 ヤニックの言葉にギルド長が同意するように付け足す。信じてくれる人もいる。ミシュリーヌはそれが嬉しかった。

「あれ? 聖女様の旅の順路って、非公開じゃなかったか?」

「えっ!?」

 ニコラの言葉にミシュリーヌはドキリとする。思わず叫んでしまって、慌てて口元を抑えた。

「地元の俺等はみんな知ってるけど、ミーシャはよく知ってたな。もしかして……」

「ミーシャもとして参加していたんだよな?」

「は、はい!」

 ニコラの疑問を遮るようにヤニックが声をあげる。ミシュリーヌは慌てて同意して何度も頷いた。

「へ~。その時、ミーシャは何歳だったんだ? 神官って小さいときから働かされているんだな。てっきり、ミーシャもこの辺りの出身だから知っているのかと思ったぜ」

 ニコラはミシュリーヌの動揺に気づいてなさそうだ。

 本当は浄化の旅は危険なので見習いの同行は許されていない。ミシュリーヌは嘘をついたことを心の中で謝罪した。
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