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一章 役目を終えて【ミシュリーヌ】
第14話 弓
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ミシュリーヌの視界の先では、冒険者たちが馬車を守るように戦っている。
「絶対にここを通すな!」
「俺たちならできるぞ!」
叫び声で鼓舞し合っているが、ギリギリの戦いであることが見て取れる。統制された軍ではないのに、逃げる者がいないのが奇跡のようだ。
ミシュリーヌは弓を構えるが、こちらに気づいていない冒険者を避けるのは難しい。一度諦めて、馬車の御者台の上に立った。ここからなら魔獣の頭を狙えそうだ。
「ミーシャちゃん、隠れていないと危ないよ」
御者が声をかけてくれたが、ミシュリーヌは見ないままで「大丈夫です」と返事をする。魔獣に押されているところに向かって弓を構えた。
瞬きをすると、聖魔法でできた弓矢が出現する。ミシュリーヌが戦闘時に使う得意魔法だ。効果は違うが見た目は風魔法にもある技と似ているので、皆は風魔法使いだと判断するだろう。
「大丈夫。うまくできるわ」
ミシュリーヌは国内最強の魔導師に守られながらではあるが、魔獣に矢を射ったことが何度もある。弓なら馬上からだって当てられる。
『ミシュリーヌならできるよ』
オーギュストは最初こそ危険だからと難色を示したが、乳兄弟のジョエルや魔導師団の副団長の説得にあってからは、ミシュリーヌをいつも応援してくれていた。今日のような、万が一の状況を想定して練習してきたのだ。
オーギュストの声を思い出すと、手の震えがピタリととまる。
当たって!
ミシュリーヌは祈りながら矢を放った。真っ直ぐに進んだ光の矢は、熊の魔獣の頭部へと突き刺さる。殺傷能力のない矢だが、代わりに魔獣の中の魔素が浄化されていく。
魔素は魔獣の動力のようなものだ。狙い通り、激しく動いていた魔獣の動きが鈍くなった。そこに、冒険者の力強い一撃が入る。
ギャーー!
魔獣が悲痛な叫び声を上げていた。
ミシュリーヌはそれを聞いて、別の魔獣へと視線を移す。瞬きをして、再び矢をつがえた。まだ、暴れている魔獣がたくさんいる。そこからは無心で弓を引き続けた。
……
「良し! 他の魔獣に気づかれる前に、移動しよう!」
「誰か、回復薬を持ってきてくれ」
どのくらい時間がたっただろう。ミシュリーヌが次の魔獣を探していると、ヤニックたちの声が響く。
深呼吸して確認すると、動き回っている魔獣はもうどこにもいなかった。ただ、ピクリとも動かない冒険者もいて、血の気が引く。
「回復薬、お願いできますか?」
「俺が持っていこう」
馬車の中を振り返ると、商会の男性が回復薬の入った麻袋を持って立ち上がったところだった。それを確認して、ミシュリーヌは一番重症だと思われる冒険者のもとへと駆け出す。
魔素に侵されている者も軽症者の中に一人いるようだが後回しだ。数ヶ月後でも治療ができる魔素とは違い、出血を伴う怪我は一刻を争う。
「ミーシャさん、治せますか!?」
「何とかしてみせます!」
ミシュリーヌは全員を覆うようにに結界を張り直して、すぐに治療をはじめる。自力で動けない者の治療が終わると、馬車に乗り込むように指示された。
「ミーシャさん、休む時間もあげられなくて申し訳ない。暗くなる前に移動したいんだ」
「いいえ。この状況なら、当たり前の判断です」
商会は村には入らずに、ここから少し戻った広場で野営をすることに決めたらしい。魔獣を押し付けた村人は、罪人のように縛られている。自力で動けているようなので、回復薬が聞いたのだろう。
「また、野営だな。魔獣が来ないことを祈るしかない」
ミシュリーヌは暗い表情の冒険者たちとともに馬車に乗り込む。一回の襲撃で出会う数ではなかったから、精神的に堪えている者が多いのだろう。村を守るために、村人が魔獣を引き連れてきたせいだ。
「サビーヌさん、ありがとうございます。あなたは俺の命の恩人だ」
「良いんです。治ったみたいで良かったわ」
馬車の中では、冒険者の男性がサビーヌに何度も何度も頭を下げている。その男性は魔素に侵されていた軽症者だった。サビーヌの手にはからっぽの浄化薬の瓶が握られている。それを見て、ミシュリーヌは状況を察した。
「絶対にここを通すな!」
「俺たちならできるぞ!」
叫び声で鼓舞し合っているが、ギリギリの戦いであることが見て取れる。統制された軍ではないのに、逃げる者がいないのが奇跡のようだ。
ミシュリーヌは弓を構えるが、こちらに気づいていない冒険者を避けるのは難しい。一度諦めて、馬車の御者台の上に立った。ここからなら魔獣の頭を狙えそうだ。
「ミーシャちゃん、隠れていないと危ないよ」
御者が声をかけてくれたが、ミシュリーヌは見ないままで「大丈夫です」と返事をする。魔獣に押されているところに向かって弓を構えた。
瞬きをすると、聖魔法でできた弓矢が出現する。ミシュリーヌが戦闘時に使う得意魔法だ。効果は違うが見た目は風魔法にもある技と似ているので、皆は風魔法使いだと判断するだろう。
「大丈夫。うまくできるわ」
ミシュリーヌは国内最強の魔導師に守られながらではあるが、魔獣に矢を射ったことが何度もある。弓なら馬上からだって当てられる。
『ミシュリーヌならできるよ』
オーギュストは最初こそ危険だからと難色を示したが、乳兄弟のジョエルや魔導師団の副団長の説得にあってからは、ミシュリーヌをいつも応援してくれていた。今日のような、万が一の状況を想定して練習してきたのだ。
オーギュストの声を思い出すと、手の震えがピタリととまる。
当たって!
ミシュリーヌは祈りながら矢を放った。真っ直ぐに進んだ光の矢は、熊の魔獣の頭部へと突き刺さる。殺傷能力のない矢だが、代わりに魔獣の中の魔素が浄化されていく。
魔素は魔獣の動力のようなものだ。狙い通り、激しく動いていた魔獣の動きが鈍くなった。そこに、冒険者の力強い一撃が入る。
ギャーー!
魔獣が悲痛な叫び声を上げていた。
ミシュリーヌはそれを聞いて、別の魔獣へと視線を移す。瞬きをして、再び矢をつがえた。まだ、暴れている魔獣がたくさんいる。そこからは無心で弓を引き続けた。
……
「良し! 他の魔獣に気づかれる前に、移動しよう!」
「誰か、回復薬を持ってきてくれ」
どのくらい時間がたっただろう。ミシュリーヌが次の魔獣を探していると、ヤニックたちの声が響く。
深呼吸して確認すると、動き回っている魔獣はもうどこにもいなかった。ただ、ピクリとも動かない冒険者もいて、血の気が引く。
「回復薬、お願いできますか?」
「俺が持っていこう」
馬車の中を振り返ると、商会の男性が回復薬の入った麻袋を持って立ち上がったところだった。それを確認して、ミシュリーヌは一番重症だと思われる冒険者のもとへと駆け出す。
魔素に侵されている者も軽症者の中に一人いるようだが後回しだ。数ヶ月後でも治療ができる魔素とは違い、出血を伴う怪我は一刻を争う。
「ミーシャさん、治せますか!?」
「何とかしてみせます!」
ミシュリーヌは全員を覆うようにに結界を張り直して、すぐに治療をはじめる。自力で動けない者の治療が終わると、馬車に乗り込むように指示された。
「ミーシャさん、休む時間もあげられなくて申し訳ない。暗くなる前に移動したいんだ」
「いいえ。この状況なら、当たり前の判断です」
商会は村には入らずに、ここから少し戻った広場で野営をすることに決めたらしい。魔獣を押し付けた村人は、罪人のように縛られている。自力で動けているようなので、回復薬が聞いたのだろう。
「また、野営だな。魔獣が来ないことを祈るしかない」
ミシュリーヌは暗い表情の冒険者たちとともに馬車に乗り込む。一回の襲撃で出会う数ではなかったから、精神的に堪えている者が多いのだろう。村を守るために、村人が魔獣を引き連れてきたせいだ。
「サビーヌさん、ありがとうございます。あなたは俺の命の恩人だ」
「良いんです。治ったみたいで良かったわ」
馬車の中では、冒険者の男性がサビーヌに何度も何度も頭を下げている。その男性は魔素に侵されていた軽症者だった。サビーヌの手にはからっぽの浄化薬の瓶が握られている。それを見て、ミシュリーヌは状況を察した。
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