【完結】ソフィーの新婚生活

五色ひわ

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ソフィーの新婚生活

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 ソフィーは邪魔にならないように端に立って、ウルフと話しているライを見ていた。壁を叩いたりして何か確認しているようだ。

 【妻の微笑み】について話しているとき、冷静に説明しているつもりだったのに、ライが途中から慰めるように背中を擦ってくれていた。隠そうとしてもライにはソフィーの動揺が伝わってしまっていたのだろう。

 その後もライは、ソフィーが落ち着くまで傍を離れようとはしなかった。ソフィーは嬉しかったが自分の未熟さでライに迷惑をかけるのは申し訳なく感じる。

 ソフィーがやるべき事は終わったのだから先に帰ると言うべきだろう。その方がライは仕事に集中できる。ソフィーは分かっているのになんとなく一人になりたくなくて役にも立たないのにここにいる。

 ソフィーが落ち込んでいると屋敷の玄関が開いて人が数人入ってきた。服装からいって王宮に務める文官のようだ。先頭の人物には見覚えがある。

(確か、子爵家の次男だったかしら?)

 ソフィーは小さい頃から受けた教育が染み付いているため、一度会った人間の顔は忘れない。挨拶した程度ではあるが相手も覚えている可能性はある。視界に入らないように移動したほうがいいだろう。

「ライ殿、騒がしいようだが何かあったのか? 私には報告が来ていないが行き違いだろうか?」

 子爵家の次男(?)がライに話しかけている。イライラしているのか声が大きい。

「どういう事か説明していただけるだろうか?」

 玄関がまた開いて今度は壁を壊すための機材を持った騎士が入ってくる。ソフィーはヒヤヒヤしながら見守った。

「カムイ殿、報告が遅れて申し訳ない。書類の隠し場所が分かったので、壁を壊す準備をしている所だ。」

 機材を見られて開き直ったのかライがはっきりと言った。

 ソフィーはカムイという名前から子爵家の次男で間違いないと確信する。正体がバレたらまずいと焦るが動くと目立ちそうな状況でどうする事もできない。

「男爵家の関係者から聞き出したのか?」

 カムイが鋭い視線をソフィーに向ける。騎士服を着ていないのはソフィーだけなので関係者だと思われたようだ。とりあえず、初対面だと思っているようなので少しホッとする。

「いや、ハイの絵に詳しい者に確認した。」

「ハイの絵に詳しい者? 何を言っているんだ。これだから、平民は困る。国立美術館が所持している作品以外は前国王陛下が個人所有していて、私的な部屋に飾られていると聞く。たとえ貴族といえども見ることができる絵ではない。詳しい者など存在しない画家だ。どんな理由で嘘をついているのか分からないがあなたは騙されているのではないか? それともあなたも一緒になって私を騙そうとしているのかな?」

 ソフィーはライのことを悪く言われてカッと頭に血が登る。

「嘘などついていないわ。私はソフィ……」

「テオ!」
 
 ライの鋭い声でソフィーは我にかえる。

「嘘ではないと言うなら説明してくれ。」

 カムイがソフィーに向かって大股で歩いてくる。「私が説明する」とか「子供の言う事ですから」とかライとウルフが必死で止めてくれている。

 これ以上、ライの足を引っ張りたくない。2人が止めている間にソフィーは深呼吸した。ソフィーにも生まれ持った矜持というものがある。

(この場を治めてみせる!)

「カムイ様、申し訳ありませんでした。私の話を聞いて頂けませんか? お時間は取らせません。」

 ソフィーは背筋を伸ばして貴族令息のような気品溢れる謝罪の態度を取る。経験から貴族相手であればこういう態度が有効であることはわかっている。

 ソフィーの予想通り、カムイは呆気に取られたような顔をして頷いた。

「私はテオと申します。クマゲラ公爵家で庭師をしていま……庭師をしている者の孫の兄弟です。」 

 庭師だというと本物のテオに迷惑がかかる可能性がある。ソフィーは慌てて軌道修正した。




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