7 / 12
ソフィーの新婚生活
7
しおりを挟む
ソフィーは邪魔にならないように端に立って、ウルフと話しているライを見ていた。壁を叩いたりして何か確認しているようだ。
【妻の微笑み】について話しているとき、冷静に説明しているつもりだったのに、ライが途中から慰めるように背中を擦ってくれていた。隠そうとしてもライにはソフィーの動揺が伝わってしまっていたのだろう。
その後もライは、ソフィーが落ち着くまで傍を離れようとはしなかった。ソフィーは嬉しかったが自分の未熟さでライに迷惑をかけるのは申し訳なく感じる。
ソフィーがやるべき事は終わったのだから先に帰ると言うべきだろう。その方がライは仕事に集中できる。ソフィーは分かっているのになんとなく一人になりたくなくて役にも立たないのにここにいる。
ソフィーが落ち込んでいると屋敷の玄関が開いて人が数人入ってきた。服装からいって王宮に務める文官のようだ。先頭の人物には見覚えがある。
(確か、子爵家の次男だったかしら?)
ソフィーは小さい頃から受けた教育が染み付いているため、一度会った人間の顔は忘れない。挨拶した程度ではあるが相手も覚えている可能性はある。視界に入らないように移動したほうがいいだろう。
「ライ殿、騒がしいようだが何かあったのか? 私には報告が来ていないが行き違いだろうか?」
子爵家の次男(?)がライに話しかけている。イライラしているのか声が大きい。
「どういう事か説明していただけるだろうか?」
玄関がまた開いて今度は壁を壊すための機材を持った騎士が入ってくる。ソフィーはヒヤヒヤしながら見守った。
「カムイ殿、報告が遅れて申し訳ない。書類の隠し場所が分かったので、壁を壊す準備をしている所だ。」
機材を見られて開き直ったのかライがはっきりと言った。
ソフィーはカムイという名前から子爵家の次男で間違いないと確信する。正体がバレたらまずいと焦るが動くと目立ちそうな状況でどうする事もできない。
「男爵家の関係者から聞き出したのか?」
カムイが鋭い視線をソフィーに向ける。騎士服を着ていないのはソフィーだけなので関係者だと思われたようだ。とりあえず、初対面だと思っているようなので少しホッとする。
「いや、ハイの絵に詳しい者に確認した。」
「ハイの絵に詳しい者? 何を言っているんだ。これだから、平民は困る。国立美術館が所持している作品以外は前国王陛下が個人所有していて、私的な部屋に飾られていると聞く。たとえ貴族といえども見ることができる絵ではない。詳しい者など存在しない画家だ。どんな理由で嘘をついているのか分からないがあなたは騙されているのではないか? それともあなたも一緒になって私を騙そうとしているのかな?」
ソフィーはライのことを悪く言われてカッと頭に血が登る。
「嘘などついていないわ。私はソフィ……」
「テオ!」
ライの鋭い声でソフィーは我にかえる。
「嘘ではないと言うなら説明してくれ。」
カムイがソフィーに向かって大股で歩いてくる。「私が説明する」とか「子供の言う事ですから」とかライとウルフが必死で止めてくれている。
これ以上、ライの足を引っ張りたくない。2人が止めている間にソフィーは深呼吸した。ソフィーにも生まれ持った矜持というものがある。
(この場を治めてみせる!)
「カムイ様、申し訳ありませんでした。私の話を聞いて頂けませんか? お時間は取らせません。」
ソフィーは背筋を伸ばして貴族令息のような気品溢れる謝罪の態度を取る。経験から貴族相手であればこういう態度が有効であることはわかっている。
ソフィーの予想通り、カムイは呆気に取られたような顔をして頷いた。
「私はテオと申します。クマゲラ公爵家で庭師をしていま……庭師をしている者の孫の兄弟です。」
庭師だというと本物のテオに迷惑がかかる可能性がある。ソフィーは慌てて軌道修正した。
【妻の微笑み】について話しているとき、冷静に説明しているつもりだったのに、ライが途中から慰めるように背中を擦ってくれていた。隠そうとしてもライにはソフィーの動揺が伝わってしまっていたのだろう。
その後もライは、ソフィーが落ち着くまで傍を離れようとはしなかった。ソフィーは嬉しかったが自分の未熟さでライに迷惑をかけるのは申し訳なく感じる。
ソフィーがやるべき事は終わったのだから先に帰ると言うべきだろう。その方がライは仕事に集中できる。ソフィーは分かっているのになんとなく一人になりたくなくて役にも立たないのにここにいる。
ソフィーが落ち込んでいると屋敷の玄関が開いて人が数人入ってきた。服装からいって王宮に務める文官のようだ。先頭の人物には見覚えがある。
(確か、子爵家の次男だったかしら?)
ソフィーは小さい頃から受けた教育が染み付いているため、一度会った人間の顔は忘れない。挨拶した程度ではあるが相手も覚えている可能性はある。視界に入らないように移動したほうがいいだろう。
「ライ殿、騒がしいようだが何かあったのか? 私には報告が来ていないが行き違いだろうか?」
子爵家の次男(?)がライに話しかけている。イライラしているのか声が大きい。
「どういう事か説明していただけるだろうか?」
玄関がまた開いて今度は壁を壊すための機材を持った騎士が入ってくる。ソフィーはヒヤヒヤしながら見守った。
「カムイ殿、報告が遅れて申し訳ない。書類の隠し場所が分かったので、壁を壊す準備をしている所だ。」
機材を見られて開き直ったのかライがはっきりと言った。
ソフィーはカムイという名前から子爵家の次男で間違いないと確信する。正体がバレたらまずいと焦るが動くと目立ちそうな状況でどうする事もできない。
「男爵家の関係者から聞き出したのか?」
カムイが鋭い視線をソフィーに向ける。騎士服を着ていないのはソフィーだけなので関係者だと思われたようだ。とりあえず、初対面だと思っているようなので少しホッとする。
「いや、ハイの絵に詳しい者に確認した。」
「ハイの絵に詳しい者? 何を言っているんだ。これだから、平民は困る。国立美術館が所持している作品以外は前国王陛下が個人所有していて、私的な部屋に飾られていると聞く。たとえ貴族といえども見ることができる絵ではない。詳しい者など存在しない画家だ。どんな理由で嘘をついているのか分からないがあなたは騙されているのではないか? それともあなたも一緒になって私を騙そうとしているのかな?」
ソフィーはライのことを悪く言われてカッと頭に血が登る。
「嘘などついていないわ。私はソフィ……」
「テオ!」
ライの鋭い声でソフィーは我にかえる。
「嘘ではないと言うなら説明してくれ。」
カムイがソフィーに向かって大股で歩いてくる。「私が説明する」とか「子供の言う事ですから」とかライとウルフが必死で止めてくれている。
これ以上、ライの足を引っ張りたくない。2人が止めている間にソフィーは深呼吸した。ソフィーにも生まれ持った矜持というものがある。
(この場を治めてみせる!)
「カムイ様、申し訳ありませんでした。私の話を聞いて頂けませんか? お時間は取らせません。」
ソフィーは背筋を伸ばして貴族令息のような気品溢れる謝罪の態度を取る。経験から貴族相手であればこういう態度が有効であることはわかっている。
ソフィーの予想通り、カムイは呆気に取られたような顔をして頷いた。
「私はテオと申します。クマゲラ公爵家で庭師をしていま……庭師をしている者の孫の兄弟です。」
庭師だというと本物のテオに迷惑がかかる可能性がある。ソフィーは慌てて軌道修正した。
3
お気に入りに追加
54
あなたにおすすめの小説

悪役令嬢になりそこねた令嬢
ぽよよん
恋愛
レスカの大好きな婚約者は2歳年上の宰相の息子だ。婚約者のマクロンを恋い慕うレスカは、マクロンとずっと一緒にいたかった。
マクロンが幼馴染の第一王子とその婚約者とともに王宮で過ごしていれば側にいたいと思う。
それは我儘でしょうか?
**************
2021.2.25
ショート→短編に変更しました。
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

【完結】伯爵の愛は狂い咲く
白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。
実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。
だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。
仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ!
そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。
両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。
「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、
その渦に巻き込んでいくのだった…
アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。
異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点)
《完結しました》
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
【完結】私たち白い結婚だったので、離婚してください
楠結衣
恋愛
田舎の薬屋に生まれたエリサは、薬草が大好き。薬草を摘みに出掛けると、怪我をした一匹の子犬を助ける。子犬だと思っていたら、領主の息子の狼獣人ヒューゴだった。
ヒューゴとエリサは、一緒に薬草採取に出掛ける日々を送る。そんなある日、魔王復活の知らせが世界を駆け抜け、神託によりヒューゴが勇者に選ばれることに。
ヒューゴが出立の日、エリサは自身の恋心に気づいてヒューゴに告白したところ二人は即結婚することに……!
「エリサを泣かせるなんて、絶対許さない」
「エリサ、愛してる!」
ちょっぴり鈍感で薬草を愛するヒロインが、一途で愛が重たい変態風味な勇者に溺愛されるお話です。

【完】まさかの婚約破棄はあなたの心の声が聞こえたから
えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
伯爵令嬢のマーシャはある日不思議なネックレスを手に入れた。それは相手の心が聞こえるという品で、そんなことを信じるつもりは無かった。それに相手とは家同士の婚約だけどお互いに仲も良く、上手くいっていると思っていたつもりだったのに……。よくある婚約破棄のお話です。
※他サイトに自立も掲載しております
21.5.25ホットランキング入りありがとうございました( ´ ▽ ` )ノ
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる