71 / 72
番外編Ⅱ:婚約者が青龍であることを隠してる
24.竜人の考え
しおりを挟む
クリスティーナが身体を離すと、ブルクハルトは青龍の姿のままゴロンと芝生に寝転ぶ。クリスティーナは青龍のもふもふしたお腹に寄りかかるように座った。
【そういえば、治癒魔法教室は上手くいったのか? エッカルトがかなり気にしてたぞ】
「どうかしら? お茶会をしてる時間のほうが長かったのよね」
アデリーナとの約束も昨日やっと実現した。クリスティーナが辺境伯領にいるのも、実はそのためだ。アデリーナが紹介してくれた竜人の番の女性も合わせて五人に治癒魔法を教えたのだが……
「魔法契約は問題なく終わったわ。ただ、治癒魔法を習う条件が厳しすぎて練習ができないのよ」
治癒魔法の鍛錬は傷を治して経験を積むしかない。一般的には冒険者紹介所で本職が治療しないような軽い怪我を無料で治療するところから始める。
【エッカルトは、他の男に触れさせないなら大丈夫だって言ってたぞ】
「女性の冒険者なんて、ほとんどいないわよ」
【まぁな】
そもそも魔力の量が多くなかったので、経験を積んでも治癒魔法師と呼べるまでにはなれない。それでも、番の女性たちは夫のために、少しでも治癒魔法が使えるようになりたいと言ったので教えることにしたのだ。
治療は難しくても、痛みを和らげるくらいの治癒魔法は使えるようになる。クリスティーナもブルクハルトに使ったが、眠れるだけで回復は違ってくるだろう。
しかし、健気な妻を前に、竜人たちは他の男に触れるくらいなら、怪我で苦しむ方がマシだと口を揃えて言ったのだ。
「竜人さんが大きな怪我をすることも少ないし、ゆっくり覚えていけば良いのかも」
【そうだな。俺は出会う前だったから耐えられたけど、気持ちは分かる】
治癒魔法は経験を積めば、傷口に手をかざすだけで治療が可能だ。触れるのは最初の頃だけで、それも直接ではなく衛生面に考慮して専用の手袋を使う。その説明もしたが、反応は変わらなかった。
「竜人さんの番への態度って特殊よね。ハルトで知っているつもりになっていたけど、数倍は過保護だったわ」
【俺だって負けてないぞ。ティーナが嫌がるから我慢しているだけだ】
「そんなことで張り合わなくても良いわよ」
【俺がどれだけティーナを大切に想っているか覚えとけってことだ】
ブルクハルトは言いながら起き上がる。クリスティーナは急に背中の支えがなくなってよろめいた。後ろに転がる前に大きな手に引き寄せられて、脚の上に座らされる。
クリスティーナが見上げると、ブルクハルトは何故か満足そうな顔をした。クリスティーナが嫌がらずに鱗に覆われた脚の上に座っているからだろうか。青龍の脚はひんやりとしていて心地よい。
「私の我がままを通しちゃったけど、もしかして、今でも私が竜騎士団にいるのは嫌なの?」
クリスティーナだって、ブルクハルトの意向はできるだけ聞き入れたい。『できるだけ』というのが申し訳ないが譲れないこともある。
【そうでもないよ。今の状況が俺たちには良いのかもな。竜騎士団に入っていれば周りの奴らが気にかけてくれるし、ティーナが目を離した隙に何かやらかしていないか心配しなくて済む】
「私がいつも突拍子もない事をしてるみたいに言わないでよ」
【自覚ないのかよ】
クリスティーナは怒りつつも、頬が緩むのを抑えられなかった。ブルクハルトも現在の状況に不満がないと分かって嬉しい。クリスティーナがそんなことを考えいると、ブルクハルトが人間の姿に戻ってしまった。
「何で戻ったの? 今日は約束を忘れてたお詫びも兼ねているのよ。青龍のままでいてよ」
「久しぶりに時間が取れたのに、ティーナの希望だけが通るなんてずるいだろう? 俺だって約束を忘れるくらい忙しく働いてたんだぞ」
「忘れてたのに威張らないでよ。ちょっと、えっ!?」
グラリと揺れたと思ったら、クリスティーナはいつの間にかブルクハルトの右腕の上に座っていた。安定しない状態に、クリスティーナは慌ててブルクハルトの首につかまる。
クリスティーナは、ブルクハルトが立ち上がったのも、抱き上げられたのにも、まったく気づかなかった。ブルクハルトは身体強化魔法を使って移動したのだろう。
「ちょっと、こんなことで本気出さないでよ。動きが読めなくてびっくりしたでしょ」
「気づかれて反撃されたら危ないからな」
「だからって……」
クリスティーナは気づいたら抵抗しただろうか。文句を言いながらも拒否できなかったように思うが、言わないでおく。
ブルクハルトは、静かになったクリスティーナを不思議そうに見ていたが、すぐに空いている左手にバスケットを持って歩き出す。
「前に言ってたじゃないか。こんなふうに、抱き上げて欲しかったんだろう?」
「お姫様抱っこの話なら、全然違うからね」
「そうか? 同じようなものだろう」
自信満々に言われてクリスティーナは納得しかけるが、思い直して首を振る。今の状況は、恋人同士というより子供の頃の伯爵との思い出に近い。ブルクハルトに言ったら否定せずに笑われた。やはり、クリスティーナの感覚は間違っていないようだ。
【そういえば、治癒魔法教室は上手くいったのか? エッカルトがかなり気にしてたぞ】
「どうかしら? お茶会をしてる時間のほうが長かったのよね」
アデリーナとの約束も昨日やっと実現した。クリスティーナが辺境伯領にいるのも、実はそのためだ。アデリーナが紹介してくれた竜人の番の女性も合わせて五人に治癒魔法を教えたのだが……
「魔法契約は問題なく終わったわ。ただ、治癒魔法を習う条件が厳しすぎて練習ができないのよ」
治癒魔法の鍛錬は傷を治して経験を積むしかない。一般的には冒険者紹介所で本職が治療しないような軽い怪我を無料で治療するところから始める。
【エッカルトは、他の男に触れさせないなら大丈夫だって言ってたぞ】
「女性の冒険者なんて、ほとんどいないわよ」
【まぁな】
そもそも魔力の量が多くなかったので、経験を積んでも治癒魔法師と呼べるまでにはなれない。それでも、番の女性たちは夫のために、少しでも治癒魔法が使えるようになりたいと言ったので教えることにしたのだ。
治療は難しくても、痛みを和らげるくらいの治癒魔法は使えるようになる。クリスティーナもブルクハルトに使ったが、眠れるだけで回復は違ってくるだろう。
しかし、健気な妻を前に、竜人たちは他の男に触れるくらいなら、怪我で苦しむ方がマシだと口を揃えて言ったのだ。
「竜人さんが大きな怪我をすることも少ないし、ゆっくり覚えていけば良いのかも」
【そうだな。俺は出会う前だったから耐えられたけど、気持ちは分かる】
治癒魔法は経験を積めば、傷口に手をかざすだけで治療が可能だ。触れるのは最初の頃だけで、それも直接ではなく衛生面に考慮して専用の手袋を使う。その説明もしたが、反応は変わらなかった。
「竜人さんの番への態度って特殊よね。ハルトで知っているつもりになっていたけど、数倍は過保護だったわ」
【俺だって負けてないぞ。ティーナが嫌がるから我慢しているだけだ】
「そんなことで張り合わなくても良いわよ」
【俺がどれだけティーナを大切に想っているか覚えとけってことだ】
ブルクハルトは言いながら起き上がる。クリスティーナは急に背中の支えがなくなってよろめいた。後ろに転がる前に大きな手に引き寄せられて、脚の上に座らされる。
クリスティーナが見上げると、ブルクハルトは何故か満足そうな顔をした。クリスティーナが嫌がらずに鱗に覆われた脚の上に座っているからだろうか。青龍の脚はひんやりとしていて心地よい。
「私の我がままを通しちゃったけど、もしかして、今でも私が竜騎士団にいるのは嫌なの?」
クリスティーナだって、ブルクハルトの意向はできるだけ聞き入れたい。『できるだけ』というのが申し訳ないが譲れないこともある。
【そうでもないよ。今の状況が俺たちには良いのかもな。竜騎士団に入っていれば周りの奴らが気にかけてくれるし、ティーナが目を離した隙に何かやらかしていないか心配しなくて済む】
「私がいつも突拍子もない事をしてるみたいに言わないでよ」
【自覚ないのかよ】
クリスティーナは怒りつつも、頬が緩むのを抑えられなかった。ブルクハルトも現在の状況に不満がないと分かって嬉しい。クリスティーナがそんなことを考えいると、ブルクハルトが人間の姿に戻ってしまった。
「何で戻ったの? 今日は約束を忘れてたお詫びも兼ねているのよ。青龍のままでいてよ」
「久しぶりに時間が取れたのに、ティーナの希望だけが通るなんてずるいだろう? 俺だって約束を忘れるくらい忙しく働いてたんだぞ」
「忘れてたのに威張らないでよ。ちょっと、えっ!?」
グラリと揺れたと思ったら、クリスティーナはいつの間にかブルクハルトの右腕の上に座っていた。安定しない状態に、クリスティーナは慌ててブルクハルトの首につかまる。
クリスティーナは、ブルクハルトが立ち上がったのも、抱き上げられたのにも、まったく気づかなかった。ブルクハルトは身体強化魔法を使って移動したのだろう。
「ちょっと、こんなことで本気出さないでよ。動きが読めなくてびっくりしたでしょ」
「気づかれて反撃されたら危ないからな」
「だからって……」
クリスティーナは気づいたら抵抗しただろうか。文句を言いながらも拒否できなかったように思うが、言わないでおく。
ブルクハルトは、静かになったクリスティーナを不思議そうに見ていたが、すぐに空いている左手にバスケットを持って歩き出す。
「前に言ってたじゃないか。こんなふうに、抱き上げて欲しかったんだろう?」
「お姫様抱っこの話なら、全然違うからね」
「そうか? 同じようなものだろう」
自信満々に言われてクリスティーナは納得しかけるが、思い直して首を振る。今の状況は、恋人同士というより子供の頃の伯爵との思い出に近い。ブルクハルトに言ったら否定せずに笑われた。やはり、クリスティーナの感覚は間違っていないようだ。
0
お気に入りに追加
261
あなたにおすすめの小説
私の敬愛するお嬢様は、天使の様な悪女でございます。
芹澤©️
恋愛
私がお仕えしておりますアリアナ様は、王太子殿下の婚約者で優秀な御令嬢でございます。容姿端麗、勉学も学年で上位の成績。そして何より天真爛漫で、そこが時折困りますが、それもまた魅力的な方でございます。
けれど、二つ年上の王太子殿下はアリアナ様ではなく、一般家庭出の才女、ミレニス嬢と何やら噂になっていて…私の敬愛するお嬢様に何たる態度!けれども、アリアナ様はそんな王太子殿下の行動なんて御構い無しなのです。それは純真さがさせるのか、はたまた…?
私の中では王太子殿下の好感度はごっそり削られているのですが…私は何処までもお嬢様について参ります!!
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
いつかの空を見る日まで
たつみ
恋愛
皇命により皇太子の婚約者となったカサンドラ。皇太子は彼女に無関心だったが、彼女も皇太子には無関心。婚姻する気なんてさらさらなく、逃げることだけ考えている。忠実な従僕と逃げる準備を進めていたのだが、不用意にも、皇太子の彼女に対する好感度を上げてしまい、執着されるはめに。複雑な事情がある彼女に、逃亡中止は有り得ない。生きるも死ぬもどうでもいいが、皇宮にだけはいたくないと、従僕と2人、ついに逃亡を決行するのだが。
------------
復讐、逆転ものではありませんので、それをご期待のかたはご注意ください。
悲しい内容が苦手というかたは、特にご注意ください。
中世・近世の欧風な雰囲気ですが、それっぽいだけです。
どんな展開でも、どんと来いなかた向けかもしれません。
(うわあ…ぇう~…がはっ…ぇえぇ~…となるところもあります)
他サイトでも掲載しています。
時間が戻った令嬢は新しい婚約者が出来ました。
屋月 トム伽
恋愛
ifとして、時間が戻る前の半年間を時々入れます。(リディアとオズワルド以外はなかった事になっているのでifとしてます。)
私は、リディア・ウォード侯爵令嬢19歳だ。
婚約者のレオンハルト・グラディオ様はこの国の第2王子だ。
レオン様の誕生日パーティーで、私はエスコートなしで行くと、婚約者のレオン様はアリシア男爵令嬢と仲睦まじい姿を見せつけられた。
一人壁の花になっていると、レオン様の兄のアレク様のご友人オズワルド様と知り合う。
話が弾み、つい地がでそうになるが…。
そして、パーティーの控室で私は襲われ、倒れてしまった。
朦朧とする意識の中、最後に見えたのはオズワルド様が私の名前を叫びながら控室に飛び込んでくる姿だった…。
そして、目が覚めると、オズワルド様と半年前に時間が戻っていた。
レオン様との婚約を避ける為に、オズワルド様と婚約することになり、二人の日常が始まる。
ifとして、時間が戻る前の半年間を時々入れます。
第14回恋愛小説大賞にて奨励賞受賞
「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~
卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」
絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。
だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。
ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。
なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!?
「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」
書き溜めがある内は、1日1~話更新します
それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります
*仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。
*ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。
*コメディ強めです。
*hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!
異世界で王城生活~陛下の隣で~
遥
恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。
グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます!
※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。
※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。
悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています
窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。
シナリオ通りなら、死ぬ運命。
だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい!
騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します!
というわけで、私、悪役やりません!
来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。
あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……!
気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。
悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!
この度、青帝陛下の番になりまして
四馬㋟
恋愛
蓬莱国(ほうらいこく)を治める青帝(せいてい)は人ならざるもの、人の形をした神獣――青龍である。ゆえに不老不死で、お世継ぎを作る必要もない。それなのに私は青帝の妻にされ、后となった。望まれない后だった私は、民の反乱に乗して後宮から逃げ出そうとしたものの、夫に捕まり、殺されてしまう。と思ったら時が遡り、夫に出会う前の、四年前の自分に戻っていた。今度は間違えない、と決意した矢先、再び番(つがい)として宮城に連れ戻されてしまう。けれど状況は以前と変わっていて……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる