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番外編Ⅱ:婚約者が青龍であることを隠してる
2.王都へ
しおりを挟む数日後、クリスティーナは迎えに来たブルクハルトと共に馬車にゆられていた。
ティラノ王国の貴族は、王宮で行われるパーティに出席することで大人と認められる。二人とも今年が成人する年齢なので、成人を祝うパーティに出席するため、王都に向かっているのだ。
「迎えに来てくれてありがとう。本当の事を言うと、一人で王都に行くのは不安だったの」
普通なら家族と向かうべきところだが、ドリコリン伯爵もガスパールも竜騎士なので忙しい。
王都までは長旅だ。無理は言えないので、クリスティーナは一人で馬車に乗って向かうつもりでいた。もちろん、使用人たちはいるので、本当に一人というわけではない。何かあったときに、相談できる相手がいないのが不安だったのだ。
「伯爵に仕事が入った時点で、俺に言うべきだったと思うぞ」
「うん、ごめんね」
最近はブルクハルトも会う時間がないくらい忙しく働いている。だから、青龍になって向かうと思って遠慮してしまったのだ。馬車で行くより龍の方が断然早い。
「お父様に感謝しないといけないわね」
ドリコリン伯爵はクリスティーナの気持ちを汲んで、ブルクハルトに頼んでくれた。一人旅の不安も解消され、パーティ会場でしか会えないと思っていたブルクハルトとともに過ごせるのは嬉しい。
「俺も伯爵に感謝しないといけないな。今度同じようなことがあれば、遠慮せずに言えよ。ティーナに一人旅なんてさせたくない」
「うん、ありがとう」
クリスティーナが素直にお礼を言うと、ブルクハルトは安心したようにクリスティーナの髪を撫でる。ブルクハルトはいつでも優しい。今回も遠慮せずに相談するべきだったと分かっている。
それでも、どこか甘えきれなかったのには理由がある。
ブルクハルトは青龍の秘密について、未だにクリスティーナに話してくれていないのだ。
クリスティーナもブルクハルトに無理やり喋らせたいわけではない。でも、早く話してほしいというのが本音だ。長い付き合いなのに隠され続けている事実が、ブルクハルトに信頼されていないことの証明のように感じて、クリスティーナを不安にさせる。
それでも婚約者のいる他の貴族令嬢と同じように、成人してすぐに結婚することが決まっていたなら、こんな気持ちにはなっていないと思う。
ブルクハルトは、なぜか結婚の日取りを二年後に指定しているのだ。クリスティーナとの結婚をできるだけ先送りにしたいのだろうか? そうとしか思えなくて、心がざわつく。
『竜騎士になれば会えるんじゃないか?』
子供の頃、青龍に会いたいと言ったクリスティーナに、ブルクハルトはそんなことを言っていた。竜騎士になれば秘密を教えてもらえるかもしれない。あの頃もそんなふうに思っていたが、本当に竜騎士選定試験を受けることになるとは思わなかった。
「なんで話してくれないの?」
クリスティーナは無意識にボソリと呟く。ブルクハルトには聞こえなかったようで、不思議そうな顔でこちらを見ていた。聞こえなくて良かったような、聞こえていてほしかったような複雑な気持ちになる。
「どうした?」
ブルクハルトに問いかけられて、クリスティーナは小さく首を振る。クリスティーナは眠くなったふりをして、ブルクハルトの肩に寄りかかった。思いっきり甘えて安心したいのに、他に良い方法が思いつかない。
「ティーナ、眠いからって無防備すぎるぞ。今は俺しかいないから良いが、他の男に寄りかかるなよ」
「分かってるわよ」
ブルクハルトはズレた説教をしながら、クリスティーナの肩を抱く。クリスティーナが甘えたいと思っていることなんて想像もしていないのだろう。
「体調が悪いわけではないよな?」
「眠いだけよ」
クリスティーナは眠くもないのに瞳を閉じる。ブルクハルトはクリスティーナの感情に敏感で、困っているとすぐに気がついていつでも助けてくれる。それなのに何故かクリスティーナがブルクハルトに向ける特別な気持ちにだけは鈍感だ。
「寒くないか? 馬車に酔ったら、我慢せずにすぐ言えよ」
「うん。大丈夫」
ブルクハルトはひざ掛けを用意したり、甲斐甲斐しく世話をしてくれている。クリスティーナは自分の気持ちに気づいてほしいとまでは言えなくて、ブルクハルトの優しさに黙って甘えた。
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