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終章 王子様の決断
8.後継者候補
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静まり返った部屋の中で、ハリソンが躊躇いがちに口を開く。
「ディラン殿下、今回のことはチャーリー殿下がディラン殿下のために……」
「ハリソン、その話はいい」
チャーリーが怒鳴りつけるように言うので、ハリソンは途中で黙って頭を下げる。
『ディラン殿下のため』
そんなことを言われたら、気にならないわけがない。
「どういう事?」
「そんなことより、ディラン。お前がのんびりしているところをみると、何か策があるんだろう? 早く話せ」
「……分かりました」
誤魔化されたのは分かったが、これ以上聞いても無駄だろう。それにしても、チャーリーはいつでもディランの考えをお見通しだ。こちらは理解できないというのになんだか狡い。
もしディランに策がなければ、すぐにでもボードゥアンに手紙を書いて、ディランは今頃王都を出発している。いくら無駄骨でも、このような場合はそれが一番面倒がないからだ。チャーリーの弟を長年やってきたディランの逃げの一手だ。
「魔道士団長がご健在なのですから、今から後継者を増やせばいいのです」
「だから、該当者がいないと言っただろう」
「本気で言ってます? 僕がいるじゃないですか」
ディランの言葉に部屋が再び静まり返る。チャーリーも驚いた顔でディランを見ていた。ディランはその反応に心底驚く。
「……それは確かか?」
「本当にご存知ないんですね。僕の口から言わせたいだけかと思ってました」
ディランがチャーリーに勝てるのは魔力だけだ。それを懸念しているからこそ、まだ芽が出ていないような危険まで潰しているのだと思っていた。そうでないなら、チャーリーの行動の理由がますます分からない。
「魔力が強いとは思っていたが……そうか、魔道士団長になれるほどの魔力なのか」
「疑うなら、父上に聞いてみて下さい」
ディランの魔力の強さについて、公表しないことを決めたのは王太子だ。魔道士団長やボードゥアンは話さずとも知っているようだったし、チャーリーも聞いていると勝手に思っていた。
「分かった、信じよう」
「儀式の準備などは兄上にお任せしてもよろしいですか? トーマスのペースに合わせて帰ってきたので、魔力をかなり消費しているんです。睡眠をとって魔力を回復しないと追跡はできません」
「そんな言い方しないで下さいよ。ディラン殿下に合わせてペースをかなり落としたじゃないですか」
「トーマスを責めてるわけじゃないよ」
トーマスが不服そうに言うので、ディランは驚きながらも言い添える。ディランはぎりぎりだったが、トーマスとしては合わせてくれていたらしい。ディランが仮眠をとっている間もトーマスは動き回っていたはずなのに、今も疲れた様子はない。
「分かった。手続きはこちらで引き受けよう」
「師匠にも念の為連絡を入れておきます」
「ああ、そうしてくれ」
ディランが席を立つと、チャーリーの部下たちが呼び込まれて部屋に活気が戻ってくる。
ディランは王宮の自室に戻り、ボードゥアンへの手紙をしたためた。
書き終わった頃に秘密部隊の人間が軍事用の早い伝書鳥を連れてくる。ディランは魔法でさらに早く着くよう調整して空に放った。
ディランが魔道士団長候補になることも書き添えておいた。ディラン自身で決めたなら、心配はしてくれても、否とは言わないと分かっている。ボードゥアンが魔道士団長になりたいわけがない。他に候補ができるなら喜ぶだろう。
今回の件で、どうしてボードゥアンが魔道士団で自由が許されているのかもよく分かった。どうしても、ボードゥアンに魔道士団を辞めてほしくない理由が国にあったのだ。
この国の魔法の時代はもうすぐ終わる。それが良いことなのか、ディランには分からなかった。
「ディラン殿下、今回のことはチャーリー殿下がディラン殿下のために……」
「ハリソン、その話はいい」
チャーリーが怒鳴りつけるように言うので、ハリソンは途中で黙って頭を下げる。
『ディラン殿下のため』
そんなことを言われたら、気にならないわけがない。
「どういう事?」
「そんなことより、ディラン。お前がのんびりしているところをみると、何か策があるんだろう? 早く話せ」
「……分かりました」
誤魔化されたのは分かったが、これ以上聞いても無駄だろう。それにしても、チャーリーはいつでもディランの考えをお見通しだ。こちらは理解できないというのになんだか狡い。
もしディランに策がなければ、すぐにでもボードゥアンに手紙を書いて、ディランは今頃王都を出発している。いくら無駄骨でも、このような場合はそれが一番面倒がないからだ。チャーリーの弟を長年やってきたディランの逃げの一手だ。
「魔道士団長がご健在なのですから、今から後継者を増やせばいいのです」
「だから、該当者がいないと言っただろう」
「本気で言ってます? 僕がいるじゃないですか」
ディランの言葉に部屋が再び静まり返る。チャーリーも驚いた顔でディランを見ていた。ディランはその反応に心底驚く。
「……それは確かか?」
「本当にご存知ないんですね。僕の口から言わせたいだけかと思ってました」
ディランがチャーリーに勝てるのは魔力だけだ。それを懸念しているからこそ、まだ芽が出ていないような危険まで潰しているのだと思っていた。そうでないなら、チャーリーの行動の理由がますます分からない。
「魔力が強いとは思っていたが……そうか、魔道士団長になれるほどの魔力なのか」
「疑うなら、父上に聞いてみて下さい」
ディランの魔力の強さについて、公表しないことを決めたのは王太子だ。魔道士団長やボードゥアンは話さずとも知っているようだったし、チャーリーも聞いていると勝手に思っていた。
「分かった、信じよう」
「儀式の準備などは兄上にお任せしてもよろしいですか? トーマスのペースに合わせて帰ってきたので、魔力をかなり消費しているんです。睡眠をとって魔力を回復しないと追跡はできません」
「そんな言い方しないで下さいよ。ディラン殿下に合わせてペースをかなり落としたじゃないですか」
「トーマスを責めてるわけじゃないよ」
トーマスが不服そうに言うので、ディランは驚きながらも言い添える。ディランはぎりぎりだったが、トーマスとしては合わせてくれていたらしい。ディランが仮眠をとっている間もトーマスは動き回っていたはずなのに、今も疲れた様子はない。
「分かった。手続きはこちらで引き受けよう」
「師匠にも念の為連絡を入れておきます」
「ああ、そうしてくれ」
ディランが席を立つと、チャーリーの部下たちが呼び込まれて部屋に活気が戻ってくる。
ディランは王宮の自室に戻り、ボードゥアンへの手紙をしたためた。
書き終わった頃に秘密部隊の人間が軍事用の早い伝書鳥を連れてくる。ディランは魔法でさらに早く着くよう調整して空に放った。
ディランが魔道士団長候補になることも書き添えておいた。ディラン自身で決めたなら、心配はしてくれても、否とは言わないと分かっている。ボードゥアンが魔道士団長になりたいわけがない。他に候補ができるなら喜ぶだろう。
今回の件で、どうしてボードゥアンが魔道士団で自由が許されているのかもよく分かった。どうしても、ボードゥアンに魔道士団を辞めてほしくない理由が国にあったのだ。
この国の魔法の時代はもうすぐ終わる。それが良いことなのか、ディランには分からなかった。
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