82 / 115
終章 王子様の決断
1.帰都命令
しおりを挟む
ディランはトーマスや秘密部隊のイチたちと共に、『隠れ里』に寝泊まりしながら事後処理に追われた。『隠れ里』の住民襲撃事件の捜査を終え、魅惑草が残っていないかの調査に移った頃、王都から至急の知らせがやってくる。
『今すぐトーマスとともに王都に戻れ』
チャーリーの直筆で書かれた文字には珍しく焦りがみえる。
「これって、本当にチャーリー殿下の文字か?」
「ま、間違いありません」
使者はトーマスに詰め寄られて青い顔をしている。ディランは魔法を使って調べてみたが、偽りはなさそうだ。
「トーマス、本物だよ。急ごう。兄上が焦るなんて嫌な予感しかしないよ」
ディランは、使者に掴みかかりそうなトーマスを魔法で止めた。悪事を犯していない人間相手に、力で真実を確かめようとするのはやめてほしい。
「何があったんだろうな?」
「新学期が始まっている時期だし、気になるよね」
ディランはトーマスと話しながら、出発の準備をする。事件は想定より早く片付いたが、それでも夏季休暇終了には間に合っていない。
「殿下の伝言はいつも簡潔すぎるんだよな。さっぱり、状況が分からない」
「トーマスだけじゃなくて、僕も呼び戻すって……まさか、エミリーに何かあったわけじゃないよね?」
「まぁ、戻ってみるしかないよな」
ディランが青くなると、トーマスがポンッと肩を叩く。確かに何も知らない二人で推測しあっていても意味がない。
「ディラン殿下、トーマス様。こちらの馬をお使いください」
「ありがとう」
ディランたちは準備を終えると、イチが用意してくれた馬に飛び乗る。最短の道を選んで、急いで王都を目指した。
馬を替えながら進み、王都に入ったのは出発してから2日目の深夜だった。王都に入るための門は閉められていたが、ディランたちのことは秘密部隊の人間が待っていた。チャーリーがこんな優しい気遣いをすることはないので、ディランは気を引き締める。
「何があったか説明してくれる?」
「我々は発言の許可を頂いておりません。到着すれば分かることです」
トーマスが拳を握ってディランを見たが首を振って止める。揉めている方が時間がかかる。
秘密部隊の一人に先導されて、ディランたちは暗くなった王都を馬で進む。王宮に向かっているのは分かるが、チャーリーの執務室やディランの私室がある方向ではない。この先にあるのは王宮に隣接しているシクノチェス国立病院だけだ。
「「……」」
トーマスも気がついたのだろう。いつになく険しい顔をしている。
しばらく馬を走らせて見えてきたのはやはり病院で、入口にはルークが近衛騎士に支えられるようにして待っていた。
「ルーク、何があったの? エミリーは!?」
ディランは馬から飛び降りてルークに駆け寄る。遠くから見たときから分かっていたが、ルークは体中に包帯を巻いている。近衛騎士に支えられていないと、一人では立っていることも難しい様子だ。
「ディラン、病院だから声を落とせ」
トーマスがディランに追いついてきて小声で諭す。
「殿下、申し訳ありません」
ルークはふらつきながらも、ディランの前に跪いて詫びる。悲痛な様子にディランの血の気がサッと引いた。
「殿下、エミリー様はご無事です。怪我もされてません」
付き添いの近衛騎士が、ディランの様子に気がついて慌てて説明をはじめる。エミリーはルークたちに守られて怪我はなかったが、念の為、この病院に入院中のようだ。
「ルーク、脅かさないでよ……。エミリーを守ってくれてありがとう」
「しかし、我々が至らないせいで、エミリー様に怖い思いをさせてしまいました」
ルークは頭を下げたままで顔は見えないが、それでも声から悔しさが伝わってくる。
「とにかく中に入ろう。ルークの部下たちも無事?」
「はい。入院中ですが、問題ありません」
ディランは跪いたままのルークに手を貸して立たせる。魔法で抱き上げてしまおうかとも思ったが、ルークに先回りして拒否されたので肩を貸してルークの病室まで送った。
『今すぐトーマスとともに王都に戻れ』
チャーリーの直筆で書かれた文字には珍しく焦りがみえる。
「これって、本当にチャーリー殿下の文字か?」
「ま、間違いありません」
使者はトーマスに詰め寄られて青い顔をしている。ディランは魔法を使って調べてみたが、偽りはなさそうだ。
「トーマス、本物だよ。急ごう。兄上が焦るなんて嫌な予感しかしないよ」
ディランは、使者に掴みかかりそうなトーマスを魔法で止めた。悪事を犯していない人間相手に、力で真実を確かめようとするのはやめてほしい。
「何があったんだろうな?」
「新学期が始まっている時期だし、気になるよね」
ディランはトーマスと話しながら、出発の準備をする。事件は想定より早く片付いたが、それでも夏季休暇終了には間に合っていない。
「殿下の伝言はいつも簡潔すぎるんだよな。さっぱり、状況が分からない」
「トーマスだけじゃなくて、僕も呼び戻すって……まさか、エミリーに何かあったわけじゃないよね?」
「まぁ、戻ってみるしかないよな」
ディランが青くなると、トーマスがポンッと肩を叩く。確かに何も知らない二人で推測しあっていても意味がない。
「ディラン殿下、トーマス様。こちらの馬をお使いください」
「ありがとう」
ディランたちは準備を終えると、イチが用意してくれた馬に飛び乗る。最短の道を選んで、急いで王都を目指した。
馬を替えながら進み、王都に入ったのは出発してから2日目の深夜だった。王都に入るための門は閉められていたが、ディランたちのことは秘密部隊の人間が待っていた。チャーリーがこんな優しい気遣いをすることはないので、ディランは気を引き締める。
「何があったか説明してくれる?」
「我々は発言の許可を頂いておりません。到着すれば分かることです」
トーマスが拳を握ってディランを見たが首を振って止める。揉めている方が時間がかかる。
秘密部隊の一人に先導されて、ディランたちは暗くなった王都を馬で進む。王宮に向かっているのは分かるが、チャーリーの執務室やディランの私室がある方向ではない。この先にあるのは王宮に隣接しているシクノチェス国立病院だけだ。
「「……」」
トーマスも気がついたのだろう。いつになく険しい顔をしている。
しばらく馬を走らせて見えてきたのはやはり病院で、入口にはルークが近衛騎士に支えられるようにして待っていた。
「ルーク、何があったの? エミリーは!?」
ディランは馬から飛び降りてルークに駆け寄る。遠くから見たときから分かっていたが、ルークは体中に包帯を巻いている。近衛騎士に支えられていないと、一人では立っていることも難しい様子だ。
「ディラン、病院だから声を落とせ」
トーマスがディランに追いついてきて小声で諭す。
「殿下、申し訳ありません」
ルークはふらつきながらも、ディランの前に跪いて詫びる。悲痛な様子にディランの血の気がサッと引いた。
「殿下、エミリー様はご無事です。怪我もされてません」
付き添いの近衛騎士が、ディランの様子に気がついて慌てて説明をはじめる。エミリーはルークたちに守られて怪我はなかったが、念の為、この病院に入院中のようだ。
「ルーク、脅かさないでよ……。エミリーを守ってくれてありがとう」
「しかし、我々が至らないせいで、エミリー様に怖い思いをさせてしまいました」
ルークは頭を下げたままで顔は見えないが、それでも声から悔しさが伝わってくる。
「とにかく中に入ろう。ルークの部下たちも無事?」
「はい。入院中ですが、問題ありません」
ディランは跪いたままのルークに手を貸して立たせる。魔法で抱き上げてしまおうかとも思ったが、ルークに先回りして拒否されたので肩を貸してルークの病室まで送った。
0
お気に入りに追加
126
あなたにおすすめの小説
王命を忘れた恋
水夏(すいか)
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
【完結】今夜さよならをします
たろ
恋愛
愛していた。でも愛されることはなかった。
あなたが好きなのは、守るのはリーリエ様。
だったら婚約解消いたしましょう。
シエルに頬を叩かれた時、わたしの恋心は消えた。
よくある婚約解消の話です。
そして新しい恋を見つける話。
なんだけど……あなたには最後しっかりとざまあくらわせてやります!!
★すみません。
長編へと変更させていただきます。
書いているとつい面白くて……長くなってしまいました。
いつも読んでいただきありがとうございます!
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
【完結】どうして殺されたのですか?貴方達の愛はもう要りません
たろ
恋愛
処刑されたエリーゼ。
何もしていないのに冤罪で……
死んだと思ったら6歳に戻った。
さっき処刑されたばかりなので、悔しさも怖さも痛さも残ったまま巻き戻った。
絶対に許さない!
今更わたしに優しくしても遅い!
恨みしかない、父親と殿下!
絶対に復讐してやる!
★設定はかなりゆるめです
★あまりシリアスではありません
★よくある話を書いてみたかったんです!!
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる