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二章 誘惑の秘宝と王女の日記
13.助言
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一行は領地の玄関口に当たる街まで移動することになった。ディランは仲良く馬車に乗り込む兄妹を見届けて、ルークのもとへと向かう。
「ルーク、悪いけど相乗りさせてくれる? 魔法で体重を軽くするからさ」
「もちろんです。ああ……、殿下をお乗せするのは何年ぶりでしょう。これはカランセ伯爵家が作り出してくださった奇跡です」
ルークはお姫様にするようにディランに手を差し伸べる。冗談なのか本気なのかは分からないが気持ち悪い。
「なんか面倒だからいいや。後ろの馬車の御者台に乗ることにする。座る場所ありそうだし」
「え、ひどい! 期待したのに……」
ルークが失恋した乙女のような声を出すので、ディランはじっとりと睨む。ルークは満足そうにヘラヘラと笑って、ディランが座れるよう鞍を調節しはじめた。
「あの……ディラン殿下。よろしいでしょうか?」
遠慮がちに声をかけられてディランが振り向くと、伯爵軍の年配の騎士が立派な馬とともに立っていた。階級を表す飾りの数から、今いる中でレジーの次に権限のある人物だと分かる。
「うん、大丈夫だよ。何か用かな?」
「はい。私、カランセ伯爵軍のライアンと申します。良かったら、この馬をお使い下さい」
「え、でも……」
ライアンが連れている馬は毛並みもよく、他の馬に比べても貫禄がある。この騎士が大切にしている相棒だろう。
「私はレジー様の馬を使いますから心配いりません。レジー様の馬は人見知りなので難しいですが、私の馬なら初めての人間を乗せてもよく走ります」
「いいの? よく躾けられた軍馬みたいだけど」
「はい。ディラン殿下なら、コイツも喜んで乗せると思います」
ライアンが馬に視線を向けると、馬も心得たと言うようにディランに近づいてくる。
「お願いできるかな?」
ディランが馬に尋ねると、人懐っこい馬のようでディランの手に鼻を寄せてきた。ディランは馬をゆっくりと撫でて、信頼してもらえるように努める。
「じゃあ、乗せてもらおうかな。ありがとう」
「いいえ。お礼を言うのはこちらの方です。レジー様に代わりまして、非礼をお詫び致します。申し訳ありませんでした」
その言葉にディランは苦笑する。やはり、ライアンはレジーが心配でついてきたのだろう。
「それは気にしなくて良いよ。ちょっと手違いがあって、王家の方が先に非礼を働いちゃったんだ。きっと、伯爵も怒ってるよね」
「申し訳ありません」
ライアンはなんとも言えない顔をして、もう一度ディランに詫びる。
「エミリーお嬢様は、小さい頃から身体が弱く、伯爵は学院にも通わせない方針でした。でも、お嬢様がどうしてもと仰って……」
エミリーからも伯爵を説得した話は軽く聞いている。エミリーは小さい頃より体調が落ち着いてきたので、過保護すぎる伯爵から距離を取りたかったようだとライアンは話した。
「伯爵は渋々送り出したのです。だからこそ、学院に行かれて半年もせずに王家からの申し出があり困惑しておりまして……。お嬢様が男性を侍らせていたというのも、領地にいた頃のお嬢様からは想像もできない言葉だったものですから……」
「分かるよ。それについては色々とあったんだ。ずいぶん、伯爵から詳しく聞いているんだね」
「はい、他の者はここまでは知りません」
ライアンが離れた場所に整列する軍人に目を向ける。ディランもつられて見回すと、若者はまだ不満そうな顔をしていた。
「もしかして、伯爵からも僕を追い返すように言われた?」
「……」
「やっぱり、そんなんだね」
ディランはゆっくりと息を吐き出した。カランセ伯爵の説得は一筋縄ではいきそうにない。レジーの行動は暴走したで済ますことも可能だが、伯爵が軍を動かしたとなれば、王家に対する謀反に近い。ライアンは命令を違えても伯爵家を守ろうとしたのだろう。
「どうか、寛大なお心で伯爵の言葉をお聞きください。娘をただ想っているだけで、王家に対する忠誠は変わらないのです」
「伯爵が僕と会話してくれるか不安だけど……あなたの気持ちは分かったよ。領境まで迎えに来てくれてありがとう。案内よろしくお願いします」
「はい、ご案内致します」
ライアンは馬の手綱をディランに託すと、深々と頭を下げて軍のもとへと戻っていく。
「殿下、頑張って下さいね。応援してますよ」
「ありがとう」
ディランは、ルークの茶化しているとしか思えない励ましを笑顔で流す。カランセ軍が動き出したのを確認して、ライアンから借りた馬に飛び乗った。
「ルーク、悪いけど相乗りさせてくれる? 魔法で体重を軽くするからさ」
「もちろんです。ああ……、殿下をお乗せするのは何年ぶりでしょう。これはカランセ伯爵家が作り出してくださった奇跡です」
ルークはお姫様にするようにディランに手を差し伸べる。冗談なのか本気なのかは分からないが気持ち悪い。
「なんか面倒だからいいや。後ろの馬車の御者台に乗ることにする。座る場所ありそうだし」
「え、ひどい! 期待したのに……」
ルークが失恋した乙女のような声を出すので、ディランはじっとりと睨む。ルークは満足そうにヘラヘラと笑って、ディランが座れるよう鞍を調節しはじめた。
「あの……ディラン殿下。よろしいでしょうか?」
遠慮がちに声をかけられてディランが振り向くと、伯爵軍の年配の騎士が立派な馬とともに立っていた。階級を表す飾りの数から、今いる中でレジーの次に権限のある人物だと分かる。
「うん、大丈夫だよ。何か用かな?」
「はい。私、カランセ伯爵軍のライアンと申します。良かったら、この馬をお使い下さい」
「え、でも……」
ライアンが連れている馬は毛並みもよく、他の馬に比べても貫禄がある。この騎士が大切にしている相棒だろう。
「私はレジー様の馬を使いますから心配いりません。レジー様の馬は人見知りなので難しいですが、私の馬なら初めての人間を乗せてもよく走ります」
「いいの? よく躾けられた軍馬みたいだけど」
「はい。ディラン殿下なら、コイツも喜んで乗せると思います」
ライアンが馬に視線を向けると、馬も心得たと言うようにディランに近づいてくる。
「お願いできるかな?」
ディランが馬に尋ねると、人懐っこい馬のようでディランの手に鼻を寄せてきた。ディランは馬をゆっくりと撫でて、信頼してもらえるように努める。
「じゃあ、乗せてもらおうかな。ありがとう」
「いいえ。お礼を言うのはこちらの方です。レジー様に代わりまして、非礼をお詫び致します。申し訳ありませんでした」
その言葉にディランは苦笑する。やはり、ライアンはレジーが心配でついてきたのだろう。
「それは気にしなくて良いよ。ちょっと手違いがあって、王家の方が先に非礼を働いちゃったんだ。きっと、伯爵も怒ってるよね」
「申し訳ありません」
ライアンはなんとも言えない顔をして、もう一度ディランに詫びる。
「エミリーお嬢様は、小さい頃から身体が弱く、伯爵は学院にも通わせない方針でした。でも、お嬢様がどうしてもと仰って……」
エミリーからも伯爵を説得した話は軽く聞いている。エミリーは小さい頃より体調が落ち着いてきたので、過保護すぎる伯爵から距離を取りたかったようだとライアンは話した。
「伯爵は渋々送り出したのです。だからこそ、学院に行かれて半年もせずに王家からの申し出があり困惑しておりまして……。お嬢様が男性を侍らせていたというのも、領地にいた頃のお嬢様からは想像もできない言葉だったものですから……」
「分かるよ。それについては色々とあったんだ。ずいぶん、伯爵から詳しく聞いているんだね」
「はい、他の者はここまでは知りません」
ライアンが離れた場所に整列する軍人に目を向ける。ディランもつられて見回すと、若者はまだ不満そうな顔をしていた。
「もしかして、伯爵からも僕を追い返すように言われた?」
「……」
「やっぱり、そんなんだね」
ディランはゆっくりと息を吐き出した。カランセ伯爵の説得は一筋縄ではいきそうにない。レジーの行動は暴走したで済ますことも可能だが、伯爵が軍を動かしたとなれば、王家に対する謀反に近い。ライアンは命令を違えても伯爵家を守ろうとしたのだろう。
「どうか、寛大なお心で伯爵の言葉をお聞きください。娘をただ想っているだけで、王家に対する忠誠は変わらないのです」
「伯爵が僕と会話してくれるか不安だけど……あなたの気持ちは分かったよ。領境まで迎えに来てくれてありがとう。案内よろしくお願いします」
「はい、ご案内致します」
ライアンは馬の手綱をディランに託すと、深々と頭を下げて軍のもとへと戻っていく。
「殿下、頑張って下さいね。応援してますよ」
「ありがとう」
ディランは、ルークの茶化しているとしか思えない励ましを笑顔で流す。カランセ軍が動き出したのを確認して、ライアンから借りた馬に飛び乗った。
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