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一章 田舎育ちの令嬢

24.王都観光

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 翌日、何故かディランはシャーロットに呼び出されて、町人姿で王都の街を歩いていた。王太子に会わないことにはお墓にいけないので時間はあったのだが、面倒くさそうなので気が進まない。ただ、シャーロットには、最近いろいろお願いしているので、断ることもできなかった。

「遅いわよ。ディラン!」

「急に呼び出しておいて、それはないよ」

 ディランを待っていたのは、護衛を2人従えたシャーロットと、居心地悪そうに小さくなっているエミリーだった。

「エミリー、おはよう」

「おはようございます」

 2人とも町娘風の服を着ているが、街に馴染んでいるエミリーとは違い、シャーロットは、いかにもお忍び中のやんごとなき御方といった雰囲気だ。街ゆく人の注目を一身に集めているが、その視線を気にしているのはエミリーだけだ。

「で、どうしたの?」

「今日はエミリーと2人でお買い物に行くのよ。ディランはエミリーの護衛たから、よろしくね」

「そういうことね。分かったよ」

 ディランはなんとも言えない気持ちになるが、エミリーのためだと思って承諾する。どこの世界に王子を護衛にする人間がいるのか。シャーロットには呆れそうになるが、エミリーの状況を考えると妥当な判断とも言える。

「ディラン殿下、申し訳ありません」

「気にしないで。シャーロットに振り回されるのはなれてるからね」

「まあ! わたくしがいつディランを振り回したというの?」

「……さあ、いつだろうね」

 ディランは面倒くさくなって、シャーロットの発言を適当に流す。どうやってここまで来たのか聞いたら、シャーロットはついてきていることを信じて姿の見えないエミリーと寮から歩いて来たそうだ。ディランの姿を見つけて隠蔽を解いたらしい。

「今度から寮の前まで迎えに行くから、遠慮せずに声かけてよ」

「外で待ちあわせをするのが醍醐味なのよ。ディランは分かってないわね」

 ディランはエミリーに話しかけたのだが、横からシャーロットが出てきてクスリと笑う。

「エミリー、何を買いたいの?」

「えっと……」

「今日は王都を歩いたことがないエミリーを案内するのよ。まずは、お忍び用の服を買いに行きましょう!」

 シャーロットがエミリーの手を取って歩き出す。ディランはシャーロットの護衛とともに後に続いた。シンビジウム公爵家の護衛は、流石に優秀でエミリーに影響されることはない。

「この店にするわ」

「了解」

 ディランは、シャーロットたちが選んだお店に一緒に入り、男がいないことを確認して一人店を出る。女性だけが集まるお店は居心地が悪い。

 そんなディランのもとへ3人の男が音もなく忍び寄ってきた。無駄のない動きに日差しの中を歩いたことがないような真っ白な肌。如何にも怪しげだ。

「よろしいですか?」

 男の一人が身分証をこちらに差し出す。ディランはそれを見て、戦闘態勢を解いた。チャーリーがシャーロットに内緒で護衛としてつけている近衛騎士団の秘密部隊のようだ。

「うん、護衛方法について知りたいのかな?」

 リーダー格の男が遠回しにエミリーの状態について聞いてくる。きっと魔道士なのだろう。一般人なら魅了にかからなくても、エミリーから発せられる魔力には気づかない。

「何かあれば、僕はエミリーを守って逃げるから、シャーロットのことは任せていいかな?」

「畏まりました」

 秘密部隊の者たちは納得した様子で姿を消した。

(うん、僕の事も一緒に守りますとかはないんだね。知ってた)

 これでは、ディランは本当にただの護衛だ。楽しそうなエミリーの顔をお店の窓越しに見て、心を落ち着かせる。

 結局、ディランは護衛に徹することにして、何かあったときのため、自分の取るべき行動に考えを巡らせた。


「そろそろ休憩でもしない?」

 ディランが声をかけたのは、10軒目のお店を出たときだった。シンビジウム公爵家の護衛は両手一杯に買い物袋を抱えている。

 明らかに戦闘ができるような体制ではなく、秘密部隊が隠れて護衛しているからといって油断しすぎだとディランは思う。

「そうね。エミリーはどういったカフェに行きたいのかしら?」

「シャーロット様の行きたいお店についていきますよ」

「わたくしでは決められないわ。エミリー、お願い」

 シャーロットは護衛からカフェのリストを受け取って、エミリーと2人で相談を始める。

 ディランは、護衛の実力が心配になったので、その隙にシャーロットへ殺気を放ってみた。
 
(想像以上だな……)

 ただの試しのはずが、ディランは20近くの目に一斉に睨まれた。一歩でも動いたら殺されそうだ。念の為に言っておくが、ディランはこの国の王子だ。

 もちろん、シャーロットとエミリーは気づいていない。

 ディランは吹き出した汗をハンカチで拭くと、敵意がないことを必死でアピールした。
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