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45.魔女との暮らし

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 クラウディアは翌日から、ギーゼラに闇魔法を教えてもらうようになった。身を守るために使うには強すぎるので、関係のない周囲を巻き込みかねない。力を調節できるようになるためだ。

「微調節ができるようになったら、闇魔法で数年分だけ身体の時間ときを進めることは出来ませんか?」

 光魔法は時間を戻す作用で傷を治す。クラウディアはその光魔法を攻撃として受けたため、過去の幼い姿へと戻った。クラウディアが持つ闇魔法には時を進める効果がある。打ち消しあったからこそ、生まれる前に戻らず生き残れたのだ。記憶などに影響がなかったのも、本能的にそちらを優先して守ったからではないかと推測されている。

「無理だね。あれはどうみても人を殺すための魔法だ。研究しても調節は難しい」

「そうですか」

 全ての悩みを吹き飛ばせるかと思ったが、やはり無理らしい。分かっていても僅かな可能性を探ってしまうのだから、クラウディアもアルフレートにあまり強くは言えない。

 ギーゼラは上手くいっても死なないだけ、つまり老婆の姿になってしまうだろうと釘を指すように詳しく説明してくれた。


「それにしても、一つ一つの魔法の威力が強くて驚くよ」

 襲撃により強化された闇魔法はギーゼラにとっても珍しいもののようで、この修行は研究の手伝いも兼ねている。王都にいるゲルハルトにもその事を話したようで、自分に闇魔法がなく高位魔法を教えられない事を悔しがっていたようだ。魔法使いは皆、未知のものが好きらしい。

「なぜ、こんな魔力を手に入れたのか、お話出来れば良いのですけど……」

「わたしゃ、聞きたいとは思わないよ。人智を超えた力だ。クララに必要だったから与えられただけさ」

 ギーゼラがそんなふうに言ってくれたのは有り難かった。話したい内容でもないし、話して良い内容でもない。ギーゼラはある程度推定出来ているのかもしれないが、その後もこの話に触れようとはしなかった。


 アルフレートはというと、到着時には揉めたものの、その日の夕食の場に現れたときには表面上いつもの雰囲気に戻っていた。クラウディアがギーゼラに魔法を習う間は、昔ともに暮らしていた妹弟子に王都や魔法師団のことを教えてあげている。数年後にはギーゼラのもとを卒業する予定なのだそうだ。

 魔法使いは貴重で取り込もうとする貴族は多い。ディータが公爵家にいるのも、そんな邪な目的で近づいてくる貴族との間の盾になるためだ。妹弟子に丁寧に教えていることに他意はきっとない。

 それでも、妹弟子は本来のクラウディアより少し若いくらいの綺麗な女性だ。楽しそうな二人を見るとクラウディア以外と結婚するアルフレートを想像してしまってモヤモヤする。未練ばかり残る自分にもがっかりした。

 
 きちんとアルフレートと話し合えないままときは立ち、王都からの知らせが徐々に来るようになった。送り主は王弟ゲルハルトで、魔法を使うと早く安全に決まった人物と連絡を取ることができる。フロレンツが書いた手紙や報告を魔法で届けてくれているのだ。

 何通目かの手紙が届いた日、神妙な様子のアルフレートがクラウディアの部屋にやってきた。部屋にはカリンを含め三人だけ。さらに外に話が漏れないよう、アルフレートが魔法をかける。

「クラウディア。国王陛下がご病気で亡くなられたようだ」

「思ったより早かったわね」

 クラウディアは予想していた言葉にあっさりと返事をした。この家で防音してまで話さなければならないことなど他にはない。

「手紙の中にこれも入っていた」

 アルフレートが机の上に広げたのは今日付けの新聞だ。すでに発表されていたらしい。

『国王陛下崩御』
『聖女カタリーナは国王の治療を拒否』

 そんな見出しがデカデカと書かれている。

「クラウディア……」

 隣に移動したアルフレートがクラウディアの手を躊躇いがちに握る。心配そうなアルフレートには申し訳ないが、そんなに感情は揺さぶられていない。

 母を死に追いやるきっかけを作り、国民を苦しめ続けた人だ。親子としての関わりもない。それより、国王をフロレンツの心労の方が心配だった。

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