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44.魔女の診断

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 アルフレートが屋敷の扉を叩くと、魔女のギーゼラが自ら出てきた。クラウディアは師弟の再会を邪魔しないようにと気配を消していたが、二人共淡々としている。

「お久しぶりです。今は何人で暮らしているのですか?」

「最近弟子が一人加わったから四人だよ。紹介はその子の話が終わってからだね」

 ギーゼラがこちらを見るので、クラウディアは令嬢らしい挨拶をする。

「はじめまして、魔女様」

 名前は念の為名乗らない。ギーゼラには事前に王女であることを伝えてあるが、他の者へ明かすかはギーゼラの判断に任せるとアルフレートは言っていた。今はギーゼラ一人だが、うっかり弟子たちに聞かれては困る。王女の秘密は、聞かされると危険を背負うことになる。

「ああ、よろしく。ギーゼラと呼んでくれ」

「はい。ギーゼラ様。よろしくお願いします」


 客室に通されると、アルフレートがなれた様子でお茶を入れてくれる。公爵家では見ない姿に少し戸惑うが、ここではそうやって暮らしていたのだろう。お茶はリタが淹れたものと同じくらい美味しい。

「わたしゃ、まどろっこしい事は嫌いでね。結論から言うよ」

 向かいに座るギーゼラがじっくりとクラウディアを観察してから言う。

「ちょっと、師匠!」

「ギーゼラ様、お願いします」

 ここに来た理由は言うまでもない。アルフレートは慌てていたが、クラウディアがそれを制して頷いた。

「私の力では、姫さんを元に戻す方法はない。他の子らと同じように日々大人に成長していくのを待つしかないさ」

 ギーゼラには事前にアルフレートから状況を細かく伝えてもらっていた。それをもとに調べてくれたようだが、結論は他の者と変わらなかったようだ。

 分かっていたことだ。アルフレートの魔法使いとしての実力は、この森を出たときにはギーゼラを超えていたと聞く。全てを伝えられたアルフレートにできないならギーゼラにも難しい。一生子供のままではなく成長して大人になれるとお墨付きをもらっただけで御の字だ。

「ちゃんと調べてくださいよ。貴方なら出来ることがあるはずです!」

「アルフレート、落ち着きなさい。姫さんはもう覚悟が出来ているみたいだよ」

「クラウ……ディア」

 アルフレートが恐る恐るというようにこちらに視線を向ける。クラウディアは震えるアルフレートの手に自分の手を重ねた。大丈夫だと伝わるように微笑んで見せる。

「アルだって気づいていたのでしょ。だからこそ、カタリーナの尋問が終わった頃から、わたくしを安易に抱き上げなくなった。そうよね?」

 束の間なら楽しい年の差も、現実として続いていくとなると残酷だ。アルフレートは無意識だったのかもしれないが、カタリーナ拘束後の半年は婚約者らしい適切な距離感に戻っていた。

 抱き上げてクラウディアの小ささを確認するのが辛かったのもあるだろう。そんなアルフレートの弱さも愛おしい。

「俺は……」

「わたくしは大丈夫よ。だから、アルもゆっくりで良いから受け入れてちょうだい。それで、落ち着いたら婚約を……」

「それだけは絶対にさせない!」

 クラウディアの震えそうになった声をアルフレートが遮る。それを嬉しく感じてしまうのだから、クラウディアの決意も脆すぎる。

「俺の婚約者はクラウディアだけだ。これから先、妻になるのもクラウディア以外考えられない」

 嬉しくて涙が出そうになるが、クラウディアは王女でアルフレートは公爵だ。気持ちだけではどうにもならないこともある。

「ありがとう。でも、ごめんね」

「クラウディア!」

「アルフレート、冷静におなり。姫さんも今日は引いてやってくれるかい?」

 見かねたギーゼラが二人の会話に割って入る。

「分かりました。どちらにしろ、今の情勢では婚約解消も難しいもの。お兄様のところに帰ったときに相談しましょう」

「クラ……」

「疲れただろう。姫さんはこの部屋を使いな。弟子たちにはあんたの正体は伝えない。その髪ならアルフレートの親類で通るだろうが、何と呼ぼうかね」

 アルフレートの言葉をギーゼラが遮る。アルフレートは悔しそうな顔をしていたが、そのまま黙り込んでしまった。

「クララとでもお呼びください。しばらく、お世話になります」

「自分の屋敷だと思ってゆっくりしていきな。ゲルハルトからも頼まれているから遠慮はいらないよ」

「はい、ありがとうございます」

 ギーゼラはアルフレートを急かすようにして、二人で出ていってしまった。お互いに冷静になる時間が必要だ。クラウディアはギーゼラの対応に感謝して、カリンが戻って来るまでぼんやり過ごした。
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