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33.異空間【アルフレート】
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アルフレートは自分に寄りかかるように眠るクラウディアを見てため息をついた。向かいに座るゲルハルトは気にする様子もなく、カスタードパイを美味しそうに食べている。
「カスタードパイに何を入れたんですか?」
「鎮静剤だよ。君の魔道具すら反応しない軽いものだ。君のそばじゃなかったら眠らなかったんじゃないかな?」
ゲルハルトは悪びれる様子もなく淡々としている。確かにアルフレートが眠って良いと声をかけるまでは、クラウディアも頑張って起きていた。だが、特別に寄せられた信頼を確認できてもあまり嬉しくない。
「なぜ、このような事をなさったのですか?」
「分からない? アルフレートが話に集中できるようにしただけさ。僕を警戒するのはあまりに不毛だよ。僕もクラウディアも親類の情しか持っていない」
「……」
クラウディアは確実にゲルハルトに見惚れていた。親類の情だとしても、二人の関係を容認できるわけもない。
「まぁ、面白いから良いけどね。今日は大事な話があるみたいだからさ。我々は聖女……カタリーナ嬢を捕まえれば良いのかな?」
「はい。今朝まではそのつもりでした」
今朝、ディータに託してゲルハルトに手紙を出したときには、そのつもりで状況を報告していた。予定が狂った理由を詳しく説明するのが恥ずかしい。
「『そのつもりでした』?」
ゲルハルトは首を傾げている。アルフレートは見せた方が早いと異空間から乱暴にカタリーナを引っ張り出した。
「こういうことです」
「こういうことって……」
ゲルハルトはなんとも言えない表情で土魔法で固められたカタリーナを眺めている。アルフレートは言葉の続きを待たずにカタリーナを異空間に戻した。目を覚まさないと分かっていても、クラウディアの前にカタリーナを置いておきたくない。
「……僕の記憶が正しければ、異空間に生き物は入れられないはずだけど?」
「仮死毒を飲ませました。魔女が家畜を運ぶときに使っていたので、何とかなると思ったのですが、どうでしょう? 確認は牢に入れてからの方が良いですよね」
カタリーナが息を吹き返すかは、解毒剤を口に放り込んでみないと分からない。
「クラウディアの事になると君はちょっと怖いよ。僕とクラウディアは本当にただの叔父と姪だからね」
「分かってます。だから、文句も言えなくて困ってるんじゃないですか」
アルフレートが口を尖らせると、ゲルハルトがホッとしたように笑う。
その後は、カタリーナと争った記録映像を見せながら説明をした。
「六属性持ちって、こんなことも出来るんだね。異空間の保有といい、想像を超えるよ」
「子供の頃に死にかけるんですから、四属性の方が良いと思いますよ」
アルフレートは裕福な家庭だったから運良く生き残れただけだ。世の中に六属性持ちが少ないのは、そういうことだろう。
「まぁ、それを言われちゃうとね」
ゲルハルトはそう言いながら頭を掻く。映像記憶の魔道具を調べたそうにしていたが、アルフレートは無理やり話を戻した。クラウディアが襲われた日のことを回収してきたランプを見せながら説明する。
「……確かに野放しにはできないね。魔法師団の魔法牢で預かるよ」
「お願いします」
魔法師団には魔法を封印出来る檻のある牢屋が存在する。そこに入れておけば、カタリーナが魔法を使うことも誰かが魔法で口封じをすることもできない。
アルフレートは眠るクラウディアをディータとリタに任せて、ゲルハルトと二人で地下牢に向かった。すれ違う魔法使いたちはゲルハルトに敬意を払っているのがよく分かる。噂だけでなく本当に掌握しているのだろう。
「フロレンツとは連絡を取り合ってるの?」
「……」
「あっ、僕のこと警戒してる? 積極的な協力はしないけど邪魔もしないよ。権力がほしいなら、とっくに国王になってるよ」
ゲルハルトは廊下を歩きながら物騒な事を言う。ゲルハルトが国王になるということは現国王を……。ベンヤミンの陣営ではないとはっきり言ってくれた方が、アルフレートの心臓には良さそうだ。
「私が心配したのは、ゲルハルト様以外から情報が漏れる事ですよ」
アルフレートは防音魔法を使いながら周囲を見回す。どう考えても人払いされていない。
「神経質だね。大丈夫だよ」
ここはゲルハルトの掌握している魔法師団だ。何を言っても外に漏れない自信があるのだろう。ただ、部下は自分の安全のためにも知りたくないと思う。
「フロレンツ殿下には、事ある毎に報告をあげています。向こうからの返事に有用な情報はありませんでしたので、行動は詠めませんが……」
「フロレンツは慎重だからね。でも、安心したよ。魔法師団では『聖女様』を預かれても、裁くことは難しい」
「そうですよね。ご迷惑おかけします」
実際に魔導師団が何らかの罰を与えようとしたら、国王が動く可能性もある。それは国内の対立を意味し、ゲルハルトが長年守ってきた平和を壊すことになるだろう。
「別に構わないよ。僕らの仕事だからね」
ゲルハルトはそう言いながら地下牢に続く階段を降りていく。魔導師団の地下深くにある牢には三重の檻が作られていた。檻の中に入る前から魔法が使いにくいような感覚がある。歴代の魔法師団長による縛りは強力だ。
「カタリーナを出しますね」
アルフレートは檻の外でカタリーナを出して、引きづるようにして檻の中に入れた。真ん中の檻の中では何人たりとも魔法は使えない。
アルフレートは異空間から出しておいた薬をカタリーナの口の中に入れて檻を出る。ゲルハルトが三重になっている檻のうち、中心に近い扉を魔法で封印した。
「アルフレートも封印に参加すると良い」
「分かりました」
ゲルハルトに言われて、アルフレートは二つ目の扉に魔法をかける。三つ目の扉はゲルハルトの側近が魔法で封印していた。これで三人が揃わなければ、カタリーナを外には出せない。
「生きてたみたいだよ」
檻の中に視線を向けるとカタリーナがケホケホと咳をしていた。アルフレートの土魔法も檻の影響で解かれているので、カタリーナが動くたびに土がボロボロと落ちていっている。
「本当に腕が真っ黒だね」
「クラウディアの魔法が一番謎です」
「尋問のついでに、ちょっと調べるくらいは許されるよね」
ゲルハルトが側近とともに悪い笑みを浮かべる。魔法使いは研究熱心な者が多い。嫌な予感はしていたが、アルフレートは檻を開けるために何度も呼び出されることになった。尋問の方がついでだった気がしなくもない。
「カスタードパイに何を入れたんですか?」
「鎮静剤だよ。君の魔道具すら反応しない軽いものだ。君のそばじゃなかったら眠らなかったんじゃないかな?」
ゲルハルトは悪びれる様子もなく淡々としている。確かにアルフレートが眠って良いと声をかけるまでは、クラウディアも頑張って起きていた。だが、特別に寄せられた信頼を確認できてもあまり嬉しくない。
「なぜ、このような事をなさったのですか?」
「分からない? アルフレートが話に集中できるようにしただけさ。僕を警戒するのはあまりに不毛だよ。僕もクラウディアも親類の情しか持っていない」
「……」
クラウディアは確実にゲルハルトに見惚れていた。親類の情だとしても、二人の関係を容認できるわけもない。
「まぁ、面白いから良いけどね。今日は大事な話があるみたいだからさ。我々は聖女……カタリーナ嬢を捕まえれば良いのかな?」
「はい。今朝まではそのつもりでした」
今朝、ディータに託してゲルハルトに手紙を出したときには、そのつもりで状況を報告していた。予定が狂った理由を詳しく説明するのが恥ずかしい。
「『そのつもりでした』?」
ゲルハルトは首を傾げている。アルフレートは見せた方が早いと異空間から乱暴にカタリーナを引っ張り出した。
「こういうことです」
「こういうことって……」
ゲルハルトはなんとも言えない表情で土魔法で固められたカタリーナを眺めている。アルフレートは言葉の続きを待たずにカタリーナを異空間に戻した。目を覚まさないと分かっていても、クラウディアの前にカタリーナを置いておきたくない。
「……僕の記憶が正しければ、異空間に生き物は入れられないはずだけど?」
「仮死毒を飲ませました。魔女が家畜を運ぶときに使っていたので、何とかなると思ったのですが、どうでしょう? 確認は牢に入れてからの方が良いですよね」
カタリーナが息を吹き返すかは、解毒剤を口に放り込んでみないと分からない。
「クラウディアの事になると君はちょっと怖いよ。僕とクラウディアは本当にただの叔父と姪だからね」
「分かってます。だから、文句も言えなくて困ってるんじゃないですか」
アルフレートが口を尖らせると、ゲルハルトがホッとしたように笑う。
その後は、カタリーナと争った記録映像を見せながら説明をした。
「六属性持ちって、こんなことも出来るんだね。異空間の保有といい、想像を超えるよ」
「子供の頃に死にかけるんですから、四属性の方が良いと思いますよ」
アルフレートは裕福な家庭だったから運良く生き残れただけだ。世の中に六属性持ちが少ないのは、そういうことだろう。
「まぁ、それを言われちゃうとね」
ゲルハルトはそう言いながら頭を掻く。映像記憶の魔道具を調べたそうにしていたが、アルフレートは無理やり話を戻した。クラウディアが襲われた日のことを回収してきたランプを見せながら説明する。
「……確かに野放しにはできないね。魔法師団の魔法牢で預かるよ」
「お願いします」
魔法師団には魔法を封印出来る檻のある牢屋が存在する。そこに入れておけば、カタリーナが魔法を使うことも誰かが魔法で口封じをすることもできない。
アルフレートは眠るクラウディアをディータとリタに任せて、ゲルハルトと二人で地下牢に向かった。すれ違う魔法使いたちはゲルハルトに敬意を払っているのがよく分かる。噂だけでなく本当に掌握しているのだろう。
「フロレンツとは連絡を取り合ってるの?」
「……」
「あっ、僕のこと警戒してる? 積極的な協力はしないけど邪魔もしないよ。権力がほしいなら、とっくに国王になってるよ」
ゲルハルトは廊下を歩きながら物騒な事を言う。ゲルハルトが国王になるということは現国王を……。ベンヤミンの陣営ではないとはっきり言ってくれた方が、アルフレートの心臓には良さそうだ。
「私が心配したのは、ゲルハルト様以外から情報が漏れる事ですよ」
アルフレートは防音魔法を使いながら周囲を見回す。どう考えても人払いされていない。
「神経質だね。大丈夫だよ」
ここはゲルハルトの掌握している魔法師団だ。何を言っても外に漏れない自信があるのだろう。ただ、部下は自分の安全のためにも知りたくないと思う。
「フロレンツ殿下には、事ある毎に報告をあげています。向こうからの返事に有用な情報はありませんでしたので、行動は詠めませんが……」
「フロレンツは慎重だからね。でも、安心したよ。魔法師団では『聖女様』を預かれても、裁くことは難しい」
「そうですよね。ご迷惑おかけします」
実際に魔導師団が何らかの罰を与えようとしたら、国王が動く可能性もある。それは国内の対立を意味し、ゲルハルトが長年守ってきた平和を壊すことになるだろう。
「別に構わないよ。僕らの仕事だからね」
ゲルハルトはそう言いながら地下牢に続く階段を降りていく。魔導師団の地下深くにある牢には三重の檻が作られていた。檻の中に入る前から魔法が使いにくいような感覚がある。歴代の魔法師団長による縛りは強力だ。
「カタリーナを出しますね」
アルフレートは檻の外でカタリーナを出して、引きづるようにして檻の中に入れた。真ん中の檻の中では何人たりとも魔法は使えない。
アルフレートは異空間から出しておいた薬をカタリーナの口の中に入れて檻を出る。ゲルハルトが三重になっている檻のうち、中心に近い扉を魔法で封印した。
「アルフレートも封印に参加すると良い」
「分かりました」
ゲルハルトに言われて、アルフレートは二つ目の扉に魔法をかける。三つ目の扉はゲルハルトの側近が魔法で封印していた。これで三人が揃わなければ、カタリーナを外には出せない。
「生きてたみたいだよ」
檻の中に視線を向けるとカタリーナがケホケホと咳をしていた。アルフレートの土魔法も檻の影響で解かれているので、カタリーナが動くたびに土がボロボロと落ちていっている。
「本当に腕が真っ黒だね」
「クラウディアの魔法が一番謎です」
「尋問のついでに、ちょっと調べるくらいは許されるよね」
ゲルハルトが側近とともに悪い笑みを浮かべる。魔法使いは研究熱心な者が多い。嫌な予感はしていたが、アルフレートは檻を開けるために何度も呼び出されることになった。尋問の方がついでだった気がしなくもない。
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