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31.本性【アルフレート】
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部屋は一瞬静寂に包まれたが、カタリーナが先に動き出した。殺気を受けてアルフレートが後ろに飛ぶと、防御のために出した水の膜に短剣が二本刺さっている。
「剣も使えるのか」
「本当に厄介な男だね」
カタリーナが両手に新しい短剣を複数ずつ握りながら舌打ちをする。声色も変わっていて、とても聖女とは呼べない汚さだ。それに他国の訛りもある気がする。
「君の目的は何かな? クラウディアへの嫌がらせではないよね?」
「あんな頭の弱い女を相手にするわけねぇだろう? あんたがなぜ執着してるのか、さっぱり分からないよ」
お互いに距離を保ちながらゆっくり動く。カタリーナの短剣はアルフレートの呼び出しを受けて用意したのだろうか。先に手を出してくれて正直助かった。
「クラウディア殿下とは、ただの政略結婚だよ。この国ではフロレンツ殿下を敵に回すと生きていけないからね。ベンヤミン殿下と違って優秀な方だ」
アルフレートは水の膜に刺さったままの短剣を丁寧に土魔法で包みながら、揺さぶりをかける。カタリーナはベンヤミンの名前を出してもなんの反応もしなかった。
「ケッ、あんな執着だらけの気持ち悪い指輪をつけさせておいてよく言うよ」
「よく気がついたね。襲撃したときかな?」
「ああ、そうさ。こっちはそのせいであの女を仕留めそこねたんだからね」
正直カタリーナが指輪の効果に気づいていたことは意外だった。訓練を受けた魔法使いでなければ魔道具の感知は難しい。ただ、発動時なら不可能とは言えないだろう。あれだけ魔法が飛び交う中で冷静でいられた事を考えると、カタリーナを改めて警戒する。
「クラウディアはどこかな? 本当は王宮にいないよね?」
「あんたがこちらに付くって言うなら会わせてやるよ。下手な尋問に答えてやってるんだ。取引に応じな。可愛い婚約者を助けたいんだろう?」
カタリーナの言葉に、アルフレートの心臓が嫌な音をたてる。
「まさか、俺を脅すために……」
「あの女を襲う理由なんて他にあるかよ」
カタリーナがニヤリと笑う。クラウディアはアルフレートの執着する婚約者だったから襲われた。そういうことだ。
「ベンヤミン殿下の治世になったら、どちらにしろクラウディアの居場所はない。そんな取引に応じるわけないだろう?」
アルフレートは動揺を抑えながら言った。カタリーナは饒舌だ。興奮しているうちになるべく喋らせたい。
「あんな甘っちょろい餓鬼に仕えるかよ。バルバード帝国に来いって言ってるんだ」
「帝国? 俺に何をさせる気かな?」
「さぁ、それは国に帰ってから話してやるよ」
この状況なのでカタリーナの言葉を鵜呑みにするわけにはいかない。しかし、バルバード帝国に仕えているという主張は、言葉の訛りからも裏付けられる。『帰る』というのだから、カタリーナは帝国に住んでいたこともあるのかもしれない。
では、ピンタード候爵家が異世界から来たカタリーナを保護したという話はどうなのだろう。侯爵家は騙されただけなのだろうか? それとも、帝国と組み国王までも騙しているのだろうか?
「帝国とベンヤミン殿下は協力関係にあるんだよね?」
「だったらなんだい? あんな餓鬼の力が帝国内に及ぶわけねぇだろ? この国は泥舟だ。一緒に来たほうがあんたのためだぞ。こっちは親切で言ってやってるんだ」
「そうか」
アルフレートは言いながら、魔道具のステッキを取り出す。後は落ち着いてからの尋問で良いだろう。
カタリーナが口を再び開きかけたが、言葉を発する前に土魔法で全身を包んだ。苦しそうに藻掻くので、蹴り倒しながら口元だけ開けてやる。
「何しやがる!?」
「俺相手に油断し過ぎなんだよ。まさか、逃げられると思った? クラウディアを害した者となんて死んでも組まないし、生かしてなんておかない」
「てめぇ! あの女がどうなっ……」
アルフレートは片手で魔法を放ってカタリーナの声を消し去る。クラウディアはアルフレートの手の中にいるのだ。脅しに意味などない。
「捉えるつもりはなかったんだけどな」
本当は揺さぶりをかけて何らかの証拠を撮影するだけのつもりだった。泳がせた方が仲間がいた場合に捉えることが出来る。公爵家の密偵を学園の出入口に配置していたのに無駄となってしまった。今撮った映像をフロレンツに見せたら、確実にダメ出しされるだろう。どうも舌戦や裏工作は得意でない。
アルフレートはしばらく考えて、異空間から小瓶を取り出した。今なお何かを喋っているカタリーナの口の中に数滴垂らす。すぐに薬が効いて、カタリーナは苦しむことなく固まったように動かなくなった。
アルフレートは土魔法を解くことなくカタリーナを乱暴に異空間に放り込む。革袋を取り出して魔道具の宝石を回収すると、何事もなかったかのように談話室を出た。
「剣も使えるのか」
「本当に厄介な男だね」
カタリーナが両手に新しい短剣を複数ずつ握りながら舌打ちをする。声色も変わっていて、とても聖女とは呼べない汚さだ。それに他国の訛りもある気がする。
「君の目的は何かな? クラウディアへの嫌がらせではないよね?」
「あんな頭の弱い女を相手にするわけねぇだろう? あんたがなぜ執着してるのか、さっぱり分からないよ」
お互いに距離を保ちながらゆっくり動く。カタリーナの短剣はアルフレートの呼び出しを受けて用意したのだろうか。先に手を出してくれて正直助かった。
「クラウディア殿下とは、ただの政略結婚だよ。この国ではフロレンツ殿下を敵に回すと生きていけないからね。ベンヤミン殿下と違って優秀な方だ」
アルフレートは水の膜に刺さったままの短剣を丁寧に土魔法で包みながら、揺さぶりをかける。カタリーナはベンヤミンの名前を出してもなんの反応もしなかった。
「ケッ、あんな執着だらけの気持ち悪い指輪をつけさせておいてよく言うよ」
「よく気がついたね。襲撃したときかな?」
「ああ、そうさ。こっちはそのせいであの女を仕留めそこねたんだからね」
正直カタリーナが指輪の効果に気づいていたことは意外だった。訓練を受けた魔法使いでなければ魔道具の感知は難しい。ただ、発動時なら不可能とは言えないだろう。あれだけ魔法が飛び交う中で冷静でいられた事を考えると、カタリーナを改めて警戒する。
「クラウディアはどこかな? 本当は王宮にいないよね?」
「あんたがこちらに付くって言うなら会わせてやるよ。下手な尋問に答えてやってるんだ。取引に応じな。可愛い婚約者を助けたいんだろう?」
カタリーナの言葉に、アルフレートの心臓が嫌な音をたてる。
「まさか、俺を脅すために……」
「あの女を襲う理由なんて他にあるかよ」
カタリーナがニヤリと笑う。クラウディアはアルフレートの執着する婚約者だったから襲われた。そういうことだ。
「ベンヤミン殿下の治世になったら、どちらにしろクラウディアの居場所はない。そんな取引に応じるわけないだろう?」
アルフレートは動揺を抑えながら言った。カタリーナは饒舌だ。興奮しているうちになるべく喋らせたい。
「あんな甘っちょろい餓鬼に仕えるかよ。バルバード帝国に来いって言ってるんだ」
「帝国? 俺に何をさせる気かな?」
「さぁ、それは国に帰ってから話してやるよ」
この状況なのでカタリーナの言葉を鵜呑みにするわけにはいかない。しかし、バルバード帝国に仕えているという主張は、言葉の訛りからも裏付けられる。『帰る』というのだから、カタリーナは帝国に住んでいたこともあるのかもしれない。
では、ピンタード候爵家が異世界から来たカタリーナを保護したという話はどうなのだろう。侯爵家は騙されただけなのだろうか? それとも、帝国と組み国王までも騙しているのだろうか?
「帝国とベンヤミン殿下は協力関係にあるんだよね?」
「だったらなんだい? あんな餓鬼の力が帝国内に及ぶわけねぇだろ? この国は泥舟だ。一緒に来たほうがあんたのためだぞ。こっちは親切で言ってやってるんだ」
「そうか」
アルフレートは言いながら、魔道具のステッキを取り出す。後は落ち着いてからの尋問で良いだろう。
カタリーナが口を再び開きかけたが、言葉を発する前に土魔法で全身を包んだ。苦しそうに藻掻くので、蹴り倒しながら口元だけ開けてやる。
「何しやがる!?」
「俺相手に油断し過ぎなんだよ。まさか、逃げられると思った? クラウディアを害した者となんて死んでも組まないし、生かしてなんておかない」
「てめぇ! あの女がどうなっ……」
アルフレートは片手で魔法を放ってカタリーナの声を消し去る。クラウディアはアルフレートの手の中にいるのだ。脅しに意味などない。
「捉えるつもりはなかったんだけどな」
本当は揺さぶりをかけて何らかの証拠を撮影するだけのつもりだった。泳がせた方が仲間がいた場合に捉えることが出来る。公爵家の密偵を学園の出入口に配置していたのに無駄となってしまった。今撮った映像をフロレンツに見せたら、確実にダメ出しされるだろう。どうも舌戦や裏工作は得意でない。
アルフレートはしばらく考えて、異空間から小瓶を取り出した。今なお何かを喋っているカタリーナの口の中に数滴垂らす。すぐに薬が効いて、カタリーナは苦しむことなく固まったように動かなくなった。
アルフレートは土魔法を解くことなくカタリーナを乱暴に異空間に放り込む。革袋を取り出して魔道具の宝石を回収すると、何事もなかったかのように談話室を出た。
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