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29.手紙【アルフレート】

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 アルフレートは食事を終えて玄関に出ると、見送りに来たクラウディアの頬に口づけを残して馬車に乗り込んだ。恥ずかしそうに頬を染める彼女を見ていると、どうしても顔が緩んでしまう。考えるべき未来はとりあえず脇に寄けて、共に暮らす幸せを噛みしめる。

「アルフレート様、今日も王宮でよろしいですか?」

「ああ。向かってくれ」

 アルフレートはクラウディアが失踪して以来、毎日王宮に立ち寄っている。

 いつもどおり王宮に着くと高位貴族専用の窓口に馬車で乗り付け、案内された応接室に担当の者を呼び出した。

「公爵様。おはようございます」

 普通は侍従が王族に面会予約を取るために来る場所だが、連日アルフレートが訪れているので、担当者も驚かなくなっている。

「クラウディア殿下はまだ復学できないのだろうか?」

 王宮側は未だにクラウディアの失踪を認めていない。国王が揉め事を嫌っているだけなのか、側妃やその周辺がカタリーナと共犯なのか、理由は不明なままだ。

 公爵邸にクラウディアがいることはまだ知られたくない。アルフレートも王家の嘘を信じていて、毎日見舞いに来ている設定だ。

「はい。今朝もご登校されないとお聞きしております」

「そうか。それなら、これを殿下にお渡ししてほしい。見舞いの品だ」

 アルフレートは使用人の手を介して花と手紙を担当者に渡す。本当のクラウディアに渡るわけではないので、花は適当に買わせたものだ。

 ただ、手紙は小さな宝石で飾られた便箋にきちんと書いている。その宝石が追跡の役目を果たしており、手紙を隠している犯人の炙り出しに使っているのだ。すでに何人か突き止めており、手紙のいくつかが王女ユリアの手に渡っていることも把握している。主犯はユリアで決まりだが、関係者全員を排除してしまいたいので、しばらく続けるつもりだ。

、クラウディア殿下にお渡し致します」

「頼む」

 この者はクラウディアの不在や手紙の紛失を知らないのだろう。アルフレートはなんとも言えない気持ちになりながら王宮を出た。

「ふぅ」

 馬車に戻ると自然にため息が漏れる。いつもと変わらない登校だが、今日は流石にアルフレートも緊張していた。落ち着くためにクラウディアに渡されたネックレスに触れる。絶対にネックレスを傷つけたくないので、魔道具の魔法が発動しないように慎重に動く必要がある。

「到着しました」

 学園の馬車置き場につくと、御者を公爵家に帰してカタリーナの到着を待つ。聖女の護衛としてのいつもの日課だ。

 多くの生徒の登校を見届けたあと、王族の派手な馬車が三台入ってきた。アルフレートは目立つ位置に立って頭を下げる。前からベンヤミン、カタリーナ、ユリアの馬車だ。どの人物も尊敬していないが、このくらいのことは気にならない。

 アルフレートは馬が止まるのを待って真ん中の馬車に近づいた。出てきたカタリーナに手を貸してエスコートする。

「アルフレート様、おはようございます」

「おはようございます」

 カタリーナの純粋さを装った笑顔に、アルフレートも作られた微笑みを返す。アルフレートの差し出した手をとるのは手袋に覆われた手だ。クラウディアの手と違って女性特有の柔らかさがない気がする。毎日接していたのに興味がなかったせいで、重要な情報を取りこぼしていたようだ。

 そもそも、制服なのに手袋をつけていることが不自然だ。よく思い出してみれば前はつけていなかった気がする。クラウディアが放った闇魔法による傷が癒えていないのではないだろうか。

「聖女様。顔色が悪いようですが、お疲れですか?」

「そんなことないですよ。でも、アルフレート様に心配して頂けるなんて嬉しいです」

 カタリーナはにっこり笑いながらも、アルフレートを探るようにジッと見ている。アルフレートは憂いを帯びた表情を作り、その目と対峙した。

「お疲れでないようなら、後で私の相談に乗って頂けませんか?」

「構わないてすよ。珍しいですね」 

「聖女様のお力がどうしても必要なのです。護衛の立場で図々しいお願いをして申し訳ありません」

 アルフレートが縋るように視線を送ると、カタリーナは優越感に浸ったような醜い表情を一瞬だけ見せた。その後に心配そうな顔をされても滑稽だ。表情を取り繕うのになれていないのかもしれない。

「気になさらないで。放課後に二人で会いましょう」

「ありがとうございます」

 アルフレートが恭しく御礼を言うと、カタリーナは嬉しそうに笑う。クラウディアには、こんなに雑な作りの女と『イチャイチャ』していたと思われていたわけだ。クラウディアの純粋さを可愛く思うが、同時に心配にもなった。
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