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第29話 焚き火
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私達は夕食を終えて、焚き火を眺めながらのんびりとお茶を飲む。いや、本当にのんびりしているのは、隣に座るアランだけかもしれない。私は近すぎるアランの存在にドギマギして、心からのんびりしているとは言い難かった。
それもこれも、いつもなら焚き火を挟んで向かいに座るアランが、なぜか同じ丸太に隣り合って座っているせいだ。いや、隣に座ることはあったかもしれないが、とにかく距離が近い。寒い季節でもないし、理由はよく分からない。
「つくね、美味しかったな。ミンチ肉にするの大変だっただろう?」
「そんなことないわ。口に合ったなら良かった」
「また食べたいな。今度は手伝うよ」
アランはニコニコと話しかけてくれるが、私の返事はどうしてもおざなりになってしまう。
せっかく二人きりなのに、これでは駄目だ。
私はこの状況を打開するために、ゲームの知識を引っ張り出すことにした。ヒロインが野営をした際に、隣に座る攻略対象者に取る行動はただ一つ。
私は意を決して、アランの肩にもたれ掛かるように頭を乗せる。アランの肩に緊張が走るのを感じた。
「……」
私のせいで、楽しそうに喋っていたアランまで黙り込んでしまった。魔獣たちの遠吠えがやけに響く。これでは緊張が二倍になっただけだ。
よく考えたら、ヒロインが野営をするのはゲーム終盤、災害龍に相対する直前だ。私はなんて大胆な行動をとってしまったのだろう。内心焦るが、今更どうすることも出来ない。
「つ、月が綺麗だな」
私がオロオロしていると、アランが台詞でも読むかのように言って私の肩を抱く。ゲームの攻略対象者の一人と同じような行動なのに、私は予想もしていなくて、心臓が驚くほど早くなる。
「ほ、本当ね」
私は何とか返事をした。アランは前世の有名な作家なんて知らないはずだから、深い意味はないのだろう。
月は薄い雲に覆われていてよく見えないが、そこにあることだけは分かる。アランと寄り添って見ているのだから、今までで一番綺麗な月であることは間違いない。
私は煩く鳴る心臓の音を意識しないために、あれこれと頭の中で考えてみたが、効果はなさそうだ。逃げ出してしまいたいが、加護の外は魔獣だらけでどうしようもなかった。
「ジャンヌ」
優しく呼ばれて視線を向けると、焚き火に照らされたアランは、いつになく熱の籠もった瞳でこちらを見ていた。アランの大きな手が私の髪を弄び、耳に優しくかける。
アランがゆっくりと近づいて来るので、私は静かに瞳を閉じた。
パチパチ カコン
静寂の中で薪が倒れる音が響く。驚いて目を開けると、アランがハッとしたように私から距離をとった。
「ごめん、ジャンヌ」
アランは呟くように言ったが、火の弱くなった焚き火の前では表情までは読み取れない。アランは何に謝ったのだろう。口づけしようとしたことなら、謝ってほしくはなかった。
私は、アランが薪を焚べ直して火を安定させるのを黙って見つめていた。
「俺、ジャンヌにまだ話せていないことがあるんだ。街に帰ったら全部話すから、俺に時間をくれるか?」
作業を終えたアランがこちらを見ずに言う。アランが苦しそうに言うので、胸騒ぎがしてしょうがない。
「構わないわよ」
本当は不安だから、今すぐ話してほしい。でも、振り返ったアランの顔が緊張で強張っていて本音は言えなかった。ここは安全な街の中とは違う。動揺させてアランを危険に晒したくはない。
「ありがとう。怖がらせるような話ではないから安心して良いからな」
「分かったわ」
そんなことを言われても、このタイミングで放たれた言葉に安心できるはずもない。
「そろそろ先に休ませてもらうわね」
今日の見張りはアランが先だ。私は少し早いがテントの中に移動して、そのまま眠れない夜を過ごした。
それもこれも、いつもなら焚き火を挟んで向かいに座るアランが、なぜか同じ丸太に隣り合って座っているせいだ。いや、隣に座ることはあったかもしれないが、とにかく距離が近い。寒い季節でもないし、理由はよく分からない。
「つくね、美味しかったな。ミンチ肉にするの大変だっただろう?」
「そんなことないわ。口に合ったなら良かった」
「また食べたいな。今度は手伝うよ」
アランはニコニコと話しかけてくれるが、私の返事はどうしてもおざなりになってしまう。
せっかく二人きりなのに、これでは駄目だ。
私はこの状況を打開するために、ゲームの知識を引っ張り出すことにした。ヒロインが野営をした際に、隣に座る攻略対象者に取る行動はただ一つ。
私は意を決して、アランの肩にもたれ掛かるように頭を乗せる。アランの肩に緊張が走るのを感じた。
「……」
私のせいで、楽しそうに喋っていたアランまで黙り込んでしまった。魔獣たちの遠吠えがやけに響く。これでは緊張が二倍になっただけだ。
よく考えたら、ヒロインが野営をするのはゲーム終盤、災害龍に相対する直前だ。私はなんて大胆な行動をとってしまったのだろう。内心焦るが、今更どうすることも出来ない。
「つ、月が綺麗だな」
私がオロオロしていると、アランが台詞でも読むかのように言って私の肩を抱く。ゲームの攻略対象者の一人と同じような行動なのに、私は予想もしていなくて、心臓が驚くほど早くなる。
「ほ、本当ね」
私は何とか返事をした。アランは前世の有名な作家なんて知らないはずだから、深い意味はないのだろう。
月は薄い雲に覆われていてよく見えないが、そこにあることだけは分かる。アランと寄り添って見ているのだから、今までで一番綺麗な月であることは間違いない。
私は煩く鳴る心臓の音を意識しないために、あれこれと頭の中で考えてみたが、効果はなさそうだ。逃げ出してしまいたいが、加護の外は魔獣だらけでどうしようもなかった。
「ジャンヌ」
優しく呼ばれて視線を向けると、焚き火に照らされたアランは、いつになく熱の籠もった瞳でこちらを見ていた。アランの大きな手が私の髪を弄び、耳に優しくかける。
アランがゆっくりと近づいて来るので、私は静かに瞳を閉じた。
パチパチ カコン
静寂の中で薪が倒れる音が響く。驚いて目を開けると、アランがハッとしたように私から距離をとった。
「ごめん、ジャンヌ」
アランは呟くように言ったが、火の弱くなった焚き火の前では表情までは読み取れない。アランは何に謝ったのだろう。口づけしようとしたことなら、謝ってほしくはなかった。
私は、アランが薪を焚べ直して火を安定させるのを黙って見つめていた。
「俺、ジャンヌにまだ話せていないことがあるんだ。街に帰ったら全部話すから、俺に時間をくれるか?」
作業を終えたアランがこちらを見ずに言う。アランが苦しそうに言うので、胸騒ぎがしてしょうがない。
「構わないわよ」
本当は不安だから、今すぐ話してほしい。でも、振り返ったアランの顔が緊張で強張っていて本音は言えなかった。ここは安全な街の中とは違う。動揺させてアランを危険に晒したくはない。
「ありがとう。怖がらせるような話ではないから安心して良いからな」
「分かったわ」
そんなことを言われても、このタイミングで放たれた言葉に安心できるはずもない。
「そろそろ先に休ませてもらうわね」
今日の見張りはアランが先だ。私は少し早いがテントの中に移動して、そのまま眠れない夜を過ごした。
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