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第20話 新たな暮らし

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 私はいくつかの街を渡り歩き、故郷に雰囲気の似た街に落ち着いた。移住して一年が経った頃からは、冒険者ギルドの勧めで光魔導師が数年前まで暮らしていた一軒家を借りて住んでいる。冒険者として魔獣と対峙することはなく、治癒薬の販売と、ギルドから紹介があった人物の治療が主な仕事だ。

 この街に住み始めてすぐの頃にはビクビクしていたが、襲撃を受けることもなく、警戒はしつつも暮らしは穏やかだ。

 ドンドンドン

「はーい! 今、行きます!」

 二階の居住スペースでお茶を飲んでいると、一階の玄関を叩く音が聴こえてくる。知り合いもほとんどいないので、私の家の扉が叩かれるのは急患が来たときくらいだ。私は急いで階段を降りて扉を開き、一階の診療所スペースに入った。明かりを付けて診察用のベッドの横を通り玄関の扉を開ける。

「お待たせ致しました」

「聖女様ですね。お話があるのですが、よろしいですか?」

 玄関前にいたのは女神を信仰する神殿の神官だった。眼の前に立つ三人の男性に怪我をしている様子はない。

 神殿の者に会うのは、アランが魔法契約を結んだとき以来だ。私は失礼だとは思いつつ三人を観察する。

 真ん中に立つ老齢の男性は祖国の神官と同じ衣装を着ている。神殿内でそれなりの立場にある人間なのだろう。後ろに控える二人の若い男性は、衣装から見習いであると推測できた。

「私は治癒魔法が得意なだけで、聖女様と呼んで頂けるような人間ではありません」

「あなたがそう仰るなら、そういうことにしておきましょう」

 老齢の神官は優しい微笑みを浮かべている。いかにも私益を捨てて神に仕える者の慈悲深い笑顔だが、なぜか背中がヒヤリとした。

 この人たちを信じて良いのだろうか? せっかちな私は、その答えを知る手っ取り早い方法を取ることにした。

「……とにかく、中に入って下さい」

 私は扉を大きく開けて診療所の中へと促す。

「聖女様、我々が入れるように加護を解除して下さいますかな?」

 老齢の神官が落ち着いた笑顔で私を見つめる。一般の人は何も感じずに通過する扉だが、私の敵となりうる人間は入れないように加護がかけられている。ちなみに二階に上がれるのは私が心を許した者だけだ。

「私の害にならなければ入れるはずですよ?」

 老齢の神官は眉を少し動かしただけだったが、後ろの見習い男性のうち一人が気不味そうに視線を彷徨わせた。神官は思案する様子を見せたので、完全に敵対する気で訪れたわけではないのかもしれない。ただ、疚しいところがあることは確かだろう。

「どうやら、警戒心の強い方のようですな。それでは外で話しませんか?」

「入れないなら、この場で要件を言って頂けますか?」

 私としては今すぐ帰ってもらいたいが、納得してもらえないと外出時に待ち伏せされる可能性もある。

 この者たちとは関係ないが、ヒロインが神官を選んで攻略した場合には、派閥の違う老齢の神官が敵となる。神に遣える神官だからと言う理由だけで犯罪まがいのことをしないとは言い切れない。

 しかも、私がヒロインとして男爵に引き取られていたなら、ゲームの本編が始まる始業式まで一ヶ月と迫っている。よくある小説のように何か強制的にゲームのシナリオに戻される可能性も考えてしまい、どうしても慎重になってしまう。

「椅子を持ってきますね」

 私は黙って悩み出した神官を横目に、患者家族用の丸椅子を運ぶことにした。
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