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第8話 王都の街
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王都は早朝だというのに、多くの馬車が行き交っていた。市場に着くと、アランがおじさんと一緒にお店の準備をはじめる。非力な私は手伝っても邪魔なだけなので、馬におやつを食べさせ、ついでに癒やしの光魔法をかけてあげる。馬はお礼を言うようにすり寄ってきて、とってもかわいい。
「ジャンヌ、終わったよ」
「お疲れ様」
私が馬とじゃれ合っていると、アランが呼びにやってきた。二人で野菜を売り始めたおじさんのもとへ挨拶に行く。
「じゃあ、行ってきますね」
「おう、明日の夕方にここでな」
「はい、よろしくお願いします」
おじさんは今日と明日の二日間、ここで野菜を売って私達の街に帰る。帰りも乗せてくれるとのことでありがたい。
「こちらも一緒だと安心だ。真似事かと思ったけど、ジャンヌは本当の聖女様みたいだな」
「お世辞でも嬉しいです」
出発前に魔獣避けの加護を贈ったのだが、魔獣に遭わずに王都まで来れたのは初めてらしい。街道沿いに出るような弱い魔獣にしか効果はないが、役に立ったようで何よりだ。
「いらっしゃい! 昨日採れたばかりの新鮮な野菜だよ!」
おじさんが接客を始めたので、私達は会釈だけしてその場を離れる。
人通りの多い市場を抜け出して、まずは冒険者ギルドに入った。そこで宿の手配を済ませて、再び賑わいを見せる街に出る。
「すごい大きな街だよな」
「アラン、はぐれないように気をつけてね」
「俺はジャンヌの方が心配だよ」
アランは言いながら、私の手を握って自分の方に引き寄せる。急ぎ足の紳士が私のいた場所を駆け抜けていった。
「ありがとう」
「ああ」
アランがそのまま歩き出すので、私はつい自分の手を見てしまう。もう大丈夫なのに、手は握られたままだ。
「アラン?」
「ジャンヌが迷子にならないようにな」
ゲーム内でいろいろな攻略対象者とお忍びデートをした街だ。攻略対象者の数だけ地図を繰り返し見ていたし、日々暮らしている街より地理には詳しい。ヒロインが襲われる治安の悪いエリアだって、もちろん把握している。
「分かったわ。アランが迷子にならないように、こうしていた方が良いわよね」
私は言い直して、アランの手をぎゅっと握る。こうしていると安心だけど、そんなことは言ってあげない。
アランは確かめるように握りあっている手を見ただけで、何も言って来なかった。
「腹減ったな」
「もう少しだから我慢して」
私は公園に入ってゲームの知識を頼りに進む。目当ての屋台は記憶通りの場所にちゃんとあった。
私達は、ヒロインがゲーム内で攻略対象者と食べるホットドッグを購入してベンチに落ちつく。課金アイテムでもあるサイダーまで買えて嬉しい。ゲームのように特別なストーリーが読めるわけではないが、ハート型のゼリーが入ったサイダーは私のミーハーな心をくすぐる。
「こうしていると、ジャンヌの話が本当だったんだって実感してくるよ」
アランはホットドッグを噛りながら周囲を見回している。木陰のベンチは居心地が良いのに人の視線が気にならず、お忍びデートにもぴったりだ。
「疑ってたの?」
「そうじゃないけどさ。簡単に理解できる話じゃないだろう?」
「それはそうよね」
中央公園の北側に美味しいホットドッグ屋があるなんて、王都に来たことのない私が知るはずもない。ようやく転生を証明出来たわけだが、証拠もなく信じて付き合ってくれていたアランはすごいと思う。
「これ、本当に美味しいな」
アランは、尊敬の眼差しを送る私に気づくことなく、幸せそうに二本目のホットドッグを食べ始める。気に入ったようで何よりだ。
「肉汁たっぷりで美味しいよね」
私も騎士団長の息子がゲーム内でおすすめしていたホットドッグが食べられて嬉しい。日本で食べ慣れていた懐かしい味がする。
「口元にケチャップついてるぞ」
「えっ、どこについてるの? 取ってよ」
私は言ってしまってからゲーム内のイベントを思い出して動揺する。王子や騎士団長の息子ならハンカチを取り出して拭ってくれるのだが、宰相の息子は自分の指で拭って……
「自分で取れよ。ハンカチぐらい持ってるだろう?」
「アランのケチ」
私はアランの反応にホッとしながら、自分のハンカチで口元を拭いた。宰相の息子と同じ事をアランにされたなら、平静ではいられない。
「小さい頃に取ってやろうとしたら、『子供扱いしないで!』って怒ったのはそっちだろう?」
「そんなことあったかな? 覚えてないわ」
動揺して素っ気なく返事をしてしまったが、本当に覚えていない。もっと小さい義妹と勘違いしているのではないだろうか?
「ジャンヌは小さかったからな」
アランはしみじみと言いながら、自分の指についたケチャップを舐める。私は慌ててアランから視線を外して、食べかけのホットドッグを意味もなく眺めた。
せっかくゲーム画面を頭から追い出したのに、目の前で宰相の息子と同じようなことをしないでほしい。
「ジャンヌ、終わったよ」
「お疲れ様」
私が馬とじゃれ合っていると、アランが呼びにやってきた。二人で野菜を売り始めたおじさんのもとへ挨拶に行く。
「じゃあ、行ってきますね」
「おう、明日の夕方にここでな」
「はい、よろしくお願いします」
おじさんは今日と明日の二日間、ここで野菜を売って私達の街に帰る。帰りも乗せてくれるとのことでありがたい。
「こちらも一緒だと安心だ。真似事かと思ったけど、ジャンヌは本当の聖女様みたいだな」
「お世辞でも嬉しいです」
出発前に魔獣避けの加護を贈ったのだが、魔獣に遭わずに王都まで来れたのは初めてらしい。街道沿いに出るような弱い魔獣にしか効果はないが、役に立ったようで何よりだ。
「いらっしゃい! 昨日採れたばかりの新鮮な野菜だよ!」
おじさんが接客を始めたので、私達は会釈だけしてその場を離れる。
人通りの多い市場を抜け出して、まずは冒険者ギルドに入った。そこで宿の手配を済ませて、再び賑わいを見せる街に出る。
「すごい大きな街だよな」
「アラン、はぐれないように気をつけてね」
「俺はジャンヌの方が心配だよ」
アランは言いながら、私の手を握って自分の方に引き寄せる。急ぎ足の紳士が私のいた場所を駆け抜けていった。
「ありがとう」
「ああ」
アランがそのまま歩き出すので、私はつい自分の手を見てしまう。もう大丈夫なのに、手は握られたままだ。
「アラン?」
「ジャンヌが迷子にならないようにな」
ゲーム内でいろいろな攻略対象者とお忍びデートをした街だ。攻略対象者の数だけ地図を繰り返し見ていたし、日々暮らしている街より地理には詳しい。ヒロインが襲われる治安の悪いエリアだって、もちろん把握している。
「分かったわ。アランが迷子にならないように、こうしていた方が良いわよね」
私は言い直して、アランの手をぎゅっと握る。こうしていると安心だけど、そんなことは言ってあげない。
アランは確かめるように握りあっている手を見ただけで、何も言って来なかった。
「腹減ったな」
「もう少しだから我慢して」
私は公園に入ってゲームの知識を頼りに進む。目当ての屋台は記憶通りの場所にちゃんとあった。
私達は、ヒロインがゲーム内で攻略対象者と食べるホットドッグを購入してベンチに落ちつく。課金アイテムでもあるサイダーまで買えて嬉しい。ゲームのように特別なストーリーが読めるわけではないが、ハート型のゼリーが入ったサイダーは私のミーハーな心をくすぐる。
「こうしていると、ジャンヌの話が本当だったんだって実感してくるよ」
アランはホットドッグを噛りながら周囲を見回している。木陰のベンチは居心地が良いのに人の視線が気にならず、お忍びデートにもぴったりだ。
「疑ってたの?」
「そうじゃないけどさ。簡単に理解できる話じゃないだろう?」
「それはそうよね」
中央公園の北側に美味しいホットドッグ屋があるなんて、王都に来たことのない私が知るはずもない。ようやく転生を証明出来たわけだが、証拠もなく信じて付き合ってくれていたアランはすごいと思う。
「これ、本当に美味しいな」
アランは、尊敬の眼差しを送る私に気づくことなく、幸せそうに二本目のホットドッグを食べ始める。気に入ったようで何よりだ。
「肉汁たっぷりで美味しいよね」
私も騎士団長の息子がゲーム内でおすすめしていたホットドッグが食べられて嬉しい。日本で食べ慣れていた懐かしい味がする。
「口元にケチャップついてるぞ」
「えっ、どこについてるの? 取ってよ」
私は言ってしまってからゲーム内のイベントを思い出して動揺する。王子や騎士団長の息子ならハンカチを取り出して拭ってくれるのだが、宰相の息子は自分の指で拭って……
「自分で取れよ。ハンカチぐらい持ってるだろう?」
「アランのケチ」
私はアランの反応にホッとしながら、自分のハンカチで口元を拭いた。宰相の息子と同じ事をアランにされたなら、平静ではいられない。
「小さい頃に取ってやろうとしたら、『子供扱いしないで!』って怒ったのはそっちだろう?」
「そんなことあったかな? 覚えてないわ」
動揺して素っ気なく返事をしてしまったが、本当に覚えていない。もっと小さい義妹と勘違いしているのではないだろうか?
「ジャンヌは小さかったからな」
アランはしみじみと言いながら、自分の指についたケチャップを舐める。私は慌ててアランから視線を外して、食べかけのホットドッグを意味もなく眺めた。
せっかくゲーム画面を頭から追い出したのに、目の前で宰相の息子と同じようなことをしないでほしい。
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