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第5話 イベント

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 私は冒険者の仕事で得たお金で買ったノートを床に広げた。災害龍以外に注意すべき出来事がないか、アランに書き出すように言われたからだ。昨年押し花作りに失敗したことをずっと隠していたので信用されていない。

「一番重要なのは攻略対象者を誘惑して、好感度をあげる方法よね。台詞の選択肢なんてないから、男の人の喜ぶ言葉とか覚えなきゃなのかな? ヒロインの台詞だと『ずっとそばに居てね』とか『あなたが無事で良かった』とかしか覚えてないのよね。ねぇ、アランはどんなことを言われたい?」

「ジャンヌに言われたい言葉……」

 アランがボソリと呟いて考え込んでしまったので、私はじーっとその様子を見つめながら答えを静かに待つ。しばらくしてアランが閃いた様子で顔を上げたが、目が合うとハッとした様子で再び黙り込んでしまった。

「なに? 教えてよ」

「ば、ばか! 俺の好みなんて知っても意味ないだろう!?」

 絶対に何か思いついたはずなのに、アランは睨みつけても教えてくれない。口を固く引き結んでいるので、何を言っても無理そうだ。

「アランのケチ! じゃあ、何を書けば良いのよ?」

「ケチって言うなよ。俺が知りたいのは、ジャンヌが危険な目に合わないかってことだよ。思い出したときには取り返しがつかない状態だったなんて笑えないだろう?」

「うーん、なるほど。何かあったかな?」

 ゲームはヒロインが学園に編入してくるところから始まる。王子との出会いや男爵に引き取られた出来事などもアニメーションで見せられるが、詳しくは語られない。となると学園に通いだしてからが重要だが、巻き込まれ体質のヒロインは危険だらけだ。

【いじめ】【誘拐】【きょう迫状】

 私は思い出せるイベントを順に書いていく。 

「どうだろうって言った割に不穏な言葉が並んでるぞ。学園に入って本当に大丈夫なのか?」

「すこい! 全部読めたのね」

「いや、そこはどうでも良いよ」

 アランもこの一年で簡単な読み書きが出来るようになっている。最初は私が教えてあげたのだが、今ではこっそり一人で本を読んで勉強しているようだ。

「これってね、攻略対象者と仲良くなるためのイベントなんだ。だから、誰かが助けてくれるから大丈夫なのよ。相手が決まっている場合と好感度が高い相手が来る場合が、あっ!」

 私は重要な事を思い出して声を上げる。アランが慌てた様子で私の口元を手で塞いだ。

「大きな声出すな。院長が起きたらどうするんだよ!」

 アランの小声の説教に、私は手でお詫びのポーズを作る。アランは疲れた顔をしながら、塞いでいた手を離してくれた。

「ごめん。助けてもらえない事もあるって思い出したの」

 私はノートに『病気で倒れる』と大きく書いてさらに目立つようにグリグリとまるで囲んだ。ついでに夏休み前のテスト後と時期も書いておく。

「学園の授業は夏休みと冬休みと春休みに区切られた三学期制だって前に話したでしょ?」

「ああ。三学期の終わりに災害龍の討伐に行くんだよな?」

「うん、そうよ。災害龍を討伐するのにも好感度が大切になってくるんだけど、それとは別に夏休み前と冬休み前にも好感度チェックがあるの」

 私が説明していると、アランの顔が青くなっていく。

「それって、まさか……」

「違う違う、死なないわよ。病気になって苦しむだけ」

 私は繊細な弟分に慌てて否定する。ヒロインは貴族ばかりの学園でストレスを貯め、一学期の試験終了とともに体調を崩して倒れてしまう。好感度の高い攻略対象者がいれば、看病してもらえる乙女ゲームらしいイベントだ。

「苦しむだけって何だよ。全然良くないじゃないか」

「確かに、ちょっと嫌かもね」

 ゲームとして遊ぶ分には切なさもあって楽しめたが、現実では出来れば苦しみたくない。しかも、攻略に失敗した場合は助けは来ず、ヒロインは孤児院に逃げるように帰って学園には戻って来ないのだ。

「やっぱり、肝心なことを忘れてたじゃないか。『攻略対象者』の経歴とか『ミニゲーム』の進め方より、どう考えても重要だろう」

「だから、いま話したじゃない。ゲームだと、わざと好感度を上げないようにしないと行けないルートなんだもん。普通なら忘れるわよ」

 アランは私の言い訳をほとんど無視してノートの文字をバシバシ叩く。

「それで? 防ぐ方法は?」

「うーん。好感度が高い人がいれば、寝込んだヒロインに『聖女の花』っていう薬を持ってきてくれるのよ。どこで探してくるんだろうね」 
 
 これについてはゲーム内では語られていない。好感度トップの攻略対象者が『必ず助けるから待っていてほしい』みたいなことを言い残して寮母にヒロインを任せて一度退席する。

 ヒロインが寂しくて泣きそうになっている所に戻って来るのだが、どのくらい時間がかかったかも描写されていなかった。乙女ゲームとしては、どうでも良いことだったのだろう。
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