5 / 44
第5話 イベント
しおりを挟む
私は冒険者の仕事で得たお金で買ったノートを床に広げた。災害龍以外に注意すべき出来事がないか、アランに書き出すように言われたからだ。昨年押し花作りに失敗したことをずっと隠していたので信用されていない。
「一番重要なのは攻略対象者を誘惑して、好感度をあげる方法よね。台詞の選択肢なんてないから、男の人の喜ぶ言葉とか覚えなきゃなのかな? ヒロインの台詞だと『ずっとそばに居てね』とか『あなたが無事で良かった』とかしか覚えてないのよね。ねぇ、アランはどんなことを言われたい?」
「ジャンヌに言われたい言葉……」
アランがボソリと呟いて考え込んでしまったので、私はじーっとその様子を見つめながら答えを静かに待つ。しばらくしてアランが閃いた様子で顔を上げたが、目が合うとハッとした様子で再び黙り込んでしまった。
「なに? 教えてよ」
「ば、ばか! 俺の好みなんて知っても意味ないだろう!?」
絶対に何か思いついたはずなのに、アランは睨みつけても教えてくれない。口を固く引き結んでいるので、何を言っても無理そうだ。
「アランのケチ! じゃあ、何を書けば良いのよ?」
「ケチって言うなよ。俺が知りたいのは、ジャンヌが危険な目に合わないかってことだよ。思い出したときには取り返しがつかない状態だったなんて笑えないだろう?」
「うーん、なるほど。何かあったかな?」
ゲームはヒロインが学園に編入してくるところから始まる。王子との出会いや男爵に引き取られた出来事などもアニメーションで見せられるが、詳しくは語られない。となると学園に通いだしてからが重要だが、巻き込まれ体質のヒロインは危険だらけだ。
【いじめ】【誘拐】【きょう迫状】
私は思い出せるイベントを順に書いていく。
「どうだろうって言った割に不穏な言葉が並んでるぞ。学園に入って本当に大丈夫なのか?」
「すこい! 全部読めたのね」
「いや、そこはどうでも良いよ」
アランもこの一年で簡単な読み書きが出来るようになっている。最初は私が教えてあげたのだが、今ではこっそり一人で本を読んで勉強しているようだ。
「これってね、攻略対象者と仲良くなるためのイベントなんだ。だから、誰かが助けてくれるから大丈夫なのよ。相手が決まっている場合と好感度が高い相手が来る場合が、あっ!」
私は重要な事を思い出して声を上げる。アランが慌てた様子で私の口元を手で塞いだ。
「大きな声出すな。院長が起きたらどうするんだよ!」
アランの小声の説教に、私は手でお詫びのポーズを作る。アランは疲れた顔をしながら、塞いでいた手を離してくれた。
「ごめん。助けてもらえない事もあるって思い出したの」
私はノートに『病気で倒れる』と大きく書いてさらに目立つようにグリグリとまるで囲んだ。ついでに夏休み前のテスト後と時期も書いておく。
「学園の授業は夏休みと冬休みと春休みに区切られた三学期制だって前に話したでしょ?」
「ああ。三学期の終わりに災害龍の討伐に行くんだよな?」
「うん、そうよ。災害龍を討伐するのにも好感度が大切になってくるんだけど、それとは別に夏休み前と冬休み前にも好感度チェックがあるの」
私が説明していると、アランの顔が青くなっていく。
「それって、まさか……」
「違う違う、死なないわよ。病気になって苦しむだけ」
私は繊細な弟分に慌てて否定する。ヒロインは貴族ばかりの学園でストレスを貯め、一学期の試験終了とともに体調を崩して倒れてしまう。好感度の高い攻略対象者がいれば、看病してもらえる乙女ゲームらしいイベントだ。
「苦しむだけって何だよ。全然良くないじゃないか」
「確かに、ちょっと嫌かもね」
ゲームとして遊ぶ分には切なさもあって楽しめたが、現実では出来れば苦しみたくない。しかも、攻略に失敗した場合は助けは来ず、ヒロインは孤児院に逃げるように帰って学園には戻って来ないのだ。
「やっぱり、肝心なことを忘れてたじゃないか。『攻略対象者』の経歴とか『ミニゲーム』の進め方より、どう考えても重要だろう」
「だから、いま話したじゃない。ゲームだと、わざと好感度を上げないようにしないと行けないルートなんだもん。普通なら忘れるわよ」
アランは私の言い訳をほとんど無視してノートの文字をバシバシ叩く。
「それで? 防ぐ方法は?」
「うーん。好感度が高い人がいれば、寝込んだヒロインに『聖女の花』っていう薬を持ってきてくれるのよ。どこで探してくるんだろうね」
これについてはゲーム内では語られていない。好感度トップの攻略対象者が『必ず助けるから待っていてほしい』みたいなことを言い残して寮母にヒロインを任せて一度退席する。
ヒロインが寂しくて泣きそうになっている所に戻って来るのだが、どのくらい時間がかかったかも描写されていなかった。乙女ゲームとしては、どうでも良いことだったのだろう。
「一番重要なのは攻略対象者を誘惑して、好感度をあげる方法よね。台詞の選択肢なんてないから、男の人の喜ぶ言葉とか覚えなきゃなのかな? ヒロインの台詞だと『ずっとそばに居てね』とか『あなたが無事で良かった』とかしか覚えてないのよね。ねぇ、アランはどんなことを言われたい?」
「ジャンヌに言われたい言葉……」
アランがボソリと呟いて考え込んでしまったので、私はじーっとその様子を見つめながら答えを静かに待つ。しばらくしてアランが閃いた様子で顔を上げたが、目が合うとハッとした様子で再び黙り込んでしまった。
「なに? 教えてよ」
「ば、ばか! 俺の好みなんて知っても意味ないだろう!?」
絶対に何か思いついたはずなのに、アランは睨みつけても教えてくれない。口を固く引き結んでいるので、何を言っても無理そうだ。
「アランのケチ! じゃあ、何を書けば良いのよ?」
「ケチって言うなよ。俺が知りたいのは、ジャンヌが危険な目に合わないかってことだよ。思い出したときには取り返しがつかない状態だったなんて笑えないだろう?」
「うーん、なるほど。何かあったかな?」
ゲームはヒロインが学園に編入してくるところから始まる。王子との出会いや男爵に引き取られた出来事などもアニメーションで見せられるが、詳しくは語られない。となると学園に通いだしてからが重要だが、巻き込まれ体質のヒロインは危険だらけだ。
【いじめ】【誘拐】【きょう迫状】
私は思い出せるイベントを順に書いていく。
「どうだろうって言った割に不穏な言葉が並んでるぞ。学園に入って本当に大丈夫なのか?」
「すこい! 全部読めたのね」
「いや、そこはどうでも良いよ」
アランもこの一年で簡単な読み書きが出来るようになっている。最初は私が教えてあげたのだが、今ではこっそり一人で本を読んで勉強しているようだ。
「これってね、攻略対象者と仲良くなるためのイベントなんだ。だから、誰かが助けてくれるから大丈夫なのよ。相手が決まっている場合と好感度が高い相手が来る場合が、あっ!」
私は重要な事を思い出して声を上げる。アランが慌てた様子で私の口元を手で塞いだ。
「大きな声出すな。院長が起きたらどうするんだよ!」
アランの小声の説教に、私は手でお詫びのポーズを作る。アランは疲れた顔をしながら、塞いでいた手を離してくれた。
「ごめん。助けてもらえない事もあるって思い出したの」
私はノートに『病気で倒れる』と大きく書いてさらに目立つようにグリグリとまるで囲んだ。ついでに夏休み前のテスト後と時期も書いておく。
「学園の授業は夏休みと冬休みと春休みに区切られた三学期制だって前に話したでしょ?」
「ああ。三学期の終わりに災害龍の討伐に行くんだよな?」
「うん、そうよ。災害龍を討伐するのにも好感度が大切になってくるんだけど、それとは別に夏休み前と冬休み前にも好感度チェックがあるの」
私が説明していると、アランの顔が青くなっていく。
「それって、まさか……」
「違う違う、死なないわよ。病気になって苦しむだけ」
私は繊細な弟分に慌てて否定する。ヒロインは貴族ばかりの学園でストレスを貯め、一学期の試験終了とともに体調を崩して倒れてしまう。好感度の高い攻略対象者がいれば、看病してもらえる乙女ゲームらしいイベントだ。
「苦しむだけって何だよ。全然良くないじゃないか」
「確かに、ちょっと嫌かもね」
ゲームとして遊ぶ分には切なさもあって楽しめたが、現実では出来れば苦しみたくない。しかも、攻略に失敗した場合は助けは来ず、ヒロインは孤児院に逃げるように帰って学園には戻って来ないのだ。
「やっぱり、肝心なことを忘れてたじゃないか。『攻略対象者』の経歴とか『ミニゲーム』の進め方より、どう考えても重要だろう」
「だから、いま話したじゃない。ゲームだと、わざと好感度を上げないようにしないと行けないルートなんだもん。普通なら忘れるわよ」
アランは私の言い訳をほとんど無視してノートの文字をバシバシ叩く。
「それで? 防ぐ方法は?」
「うーん。好感度が高い人がいれば、寝込んだヒロインに『聖女の花』っていう薬を持ってきてくれるのよ。どこで探してくるんだろうね」
これについてはゲーム内では語られていない。好感度トップの攻略対象者が『必ず助けるから待っていてほしい』みたいなことを言い残して寮母にヒロインを任せて一度退席する。
ヒロインが寂しくて泣きそうになっている所に戻って来るのだが、どのくらい時間がかかったかも描写されていなかった。乙女ゲームとしては、どうでも良いことだったのだろう。
0
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説
【二部開始】所詮脇役の悪役令嬢は華麗に舞台から去るとしましょう
蓮実 アラタ
恋愛
アルメニア国王子の婚約者だった私は学園の創立記念パーティで突然王子から婚約破棄を告げられる。
王子の隣には銀髪の綺麗な女の子、周りには取り巻き。かのイベント、断罪シーン。
味方はおらず圧倒的不利、絶体絶命。
しかしそんな場面でも私は余裕の笑みで返す。
「承知しました殿下。その話、謹んでお受け致しますわ!」
あくまで笑みを崩さずにそのまま華麗に断罪の舞台から去る私に、唖然とする王子たち。
ここは前世で私がハマっていた乙女ゲームの世界。その中で私は悪役令嬢。
だからなんだ!?婚約破棄?追放?喜んでお受け致しますとも!!
私は王妃なんていう狭苦しいだけの脇役、真っ平御免です!
さっさとこんなやられ役の舞台退場して自分だけの快適な生活を送るんだ!
って張り切って追放されたのに何故か前世の私の推しキャラがお供に着いてきて……!?
※本作は小説家になろうにも掲載しています
二部更新開始しました。不定期更新です
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
婚約破棄を望む伯爵令嬢と逃がしたくない宰相閣下との攻防戦~最短で破棄したいので、悪役令嬢乗っ取ります~
甘寧
恋愛
この世界が前世で読んだ事のある小説『恋の花紡』だと気付いたリリー・エーヴェルト。
その瞬間から婚約破棄を望んでいるが、宰相を務める美麗秀麗な婚約者ルーファス・クライナートはそれを受け入れてくれない。
そんな折、気がついた。
「悪役令嬢になればいいじゃない?」
悪役令嬢になれば断罪は必然だが、幸運な事に原作では処刑されない事になってる。
貴族社会に思い残すことも無いし、断罪後は僻地でのんびり暮らすのもよかろう。
よしっ、悪役令嬢乗っ取ろう。
これで万事解決。
……て思ってたのに、あれ?何で貴方が断罪されてるの?
※全12話で完結です。
悪役令嬢の居場所。
葉叶
恋愛
私だけの居場所。
他の誰かの代わりとかじゃなく
私だけの場所
私はそんな居場所が欲しい。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※誤字脱字等あれば遠慮なく言ってください。
※感想はしっかりニヤニヤしながら読ませて頂いています。
※こんな話が見たいよ!等のリクエストも歓迎してます。
※完結しました!番外編執筆中です。
【完結】悪役令嬢のトゥルーロマンスは断罪から☆
白雨 音
恋愛
『生まれ変る順番を待つか、断罪直前の悪役令嬢の人生を代わって生きるか』
女神に選択を迫られた時、迷わずに悪役令嬢の人生を選んだ。
それは、その世界が、前世のお気に入り乙女ゲームの世界観にあり、
愛すべき推し…ヒロインの義兄、イレールが居たからだ!
彼に会いたい一心で、途中転生させて貰った人生、あなたへの愛に生きます!
異世界に途中転生した悪役令嬢ヴィオレットがハッピーエンドを目指します☆
《完結しました》
平和的に婚約破棄したい悪役令嬢 vs 絶対に婚約破棄したくない攻略対象王子
深見アキ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢・シェリルに転生した主人公は平和的に婚約破棄しようと目論むものの、何故かお相手の王子はすんなり婚約破棄してくれそうになくて……?
タイトルそのままのお話。
(4/1おまけSS追加しました)
※小説家になろうにも掲載してます。
※表紙素材お借りしてます。
【完結】悪役令嬢になるはずだった令嬢の観察日記
かのん
恋愛
こちらの小説は、皇女は当て馬令息に恋をする、の、とある令嬢が記す、観察日記となります。
作者が書きたくなってしまった物語なので、お時間があれば読んでいただけたら幸いです。
ふたりは片想い 〜騎士団長と司書の恋のゆくえ〜
長岡更紗
恋愛
王立図書館の司書として働いているミシェルが好きになったのは、騎士団長のスタンリー。
幼い頃に助けてもらった時から、スタンリーはミシェルのヒーローだった。
そんなずっと憧れていた人と、18歳で再会し、恋心を募らせながらミシェルはスタンリーと仲良くなっていく。
けれどお互いにお互いの気持ちを勘違いしまくりで……?!
元気いっぱいミシェルと、大人な魅力のスタンリー。そんな二人の恋の行方は。
他サイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる