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〈番外編〉皇太子殿下の苦悩

14.理由

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「どういう事ですか? 皇太子殿下。説明して下さい」

 当時の事を知らないエドガーが真剣な表情でジェラルドに聞いてくる。

「兄上、冷静に考えればアメリアの事じゃないと分かるでしょ。木には自分から登るし、殿下がアメリアにカエルを仕掛けるわけないし、ロープで降りる事もアメリアは平気でする」

「じゃあ?」

 エドガーが心底不思議そうに3人の顔を見回す。

「たぶん宰相の息子が弱いと思われたくなくて父が少し噂を捻じ曲げたんだと思う……」

 ミカエルが恥ずかしそうに言う。

「いや、うちの父もアメリアの事を普通の令嬢にしたがっていたから……」

 ヴィクトルも言葉を重ねるがミカエルへのフォローにはなっていない。

(宰相たぬき辺境伯きつねが協力したっていうのが正解だろ。辺境伯の目論見がアメリアを令嬢らしく見せるためかどうかは疑問だけどな)

 ジェラルドは余計な事は言わずに息を吐く。辺境伯が噂を曲げたのだとしたら、ジェラルドとアメリアの相性が悪いと周囲に思わせるためだった可能性が高い。やはり、ジェラルドとは結婚させたくないのだろう。

 ジェラルドが皇弟にアメリアとの事を相談したときに決まって、令嬢には優しくしろとかジェラルドと同じ事ができると思っては可愛そうだとか言われたのもこういう噂が原因だったのかもしれない。

(俺の事より噂を信じてたってことだよな)

 ジェラルドは皇弟を信じていた3年前の自分が馬鹿らしくなった。

(今後、俺が噂に手を加えるときはこういう可能性にも考慮しなくてはいけないな)

 宰相と辺境伯にもさり気なく釘をささなくてはならない。面倒な仕事が増えたジェラルドは静かにため息をついた。





 エドガーは囚えた者たちと辺境伯軍の大半を連れてペンブローク辺境伯領に帰っていった。サモエド侯爵が言っていた皇弟のアメリアに対する執着も少し気になる。侯爵の話が本当ならばアメリアとの偽装婚約破棄が逆効果になる可能性も考えられる。辺境伯領には簡単に入る事は出来ないが、念の為アメリアの警護を強化するようにとエドガーに頼んでおいた。

 残りの辺境伯軍は侯爵たちが変わらず領地にいるかのように偽装してくれる予定だ。辺境伯軍の特殊部隊が中心になって行うようだが、見た目だけでいうならとても軍人には見えない者が多い。

 ジェラルドを含む王都から来た者は侯爵を捜索した3ヶ所について今度は書類などの証拠品の捜索を行っていった。しかし、武器密輸入や皇弟とのつながりになる物的証拠はまったく出てこなかった。かなりきちんと処分していたのだろう。

 逆に思いもよらぬ成果もあった。サモエド侯爵は領内の収入を大幅に低く王国に報告していた事がわかったのだ。

 近年、侯爵領では鉄が採掘されていたようなのだ。すべて秘密裏に進めていて国に税金を納めていない。この事に関しては今の時点でも罪に問える。他の件が片付く前に万が一侯爵拘束が世間に露呈してしまったときには納税違反で捕まえたと公表する事になるだろう。

 おそらく、採掘された鉄鉱石をそのまま外国に流して武器購入に充てていたものと思われる。

 賭博場だけで資金を賄うのは難しいとは思っていたが、侯爵領の監視も山の中までは出来ていなかった。

 思わぬ成果で採掘現場などにも行ったジェラルドたちは、侯爵領で予定を大幅に超える日数過ごすことになった。
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