【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ

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おまけ

『皇太子殿下の恋人2』ジェラルドとアメリアの場合〈前〉

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〈ジェラルドの場合〉

 市民たちへのお披露目を終えるとそのまま普通の馬車に乗り換えて湖のほとりにある別荘へと向かう。

 公式行事の移動でも狭い密室である馬車の中で堂々と2人きりでいられる状況にジェラルドはやっと結婚できたのだと実感が湧いてきた。

(後は小説のような喧嘩をしないで別荘に向かえばいいだけだな。)

 ジェラルドは隣のアメリアにいつもより優しく話しかけてみたが「うん?」とか「えーっと」とか反応が乏しい。

「アメリア?」

 すぐに相槌すらしなくなったと思ったらジェラルドの肩にもたれかかるようにしてアメリアは眠ってしまっていた。

 小説の内容に引きずられてアメリア相手に緊張しながら話しかけた自分が馬鹿馬鹿しくなる。

 今日までの1ヶ月の間、結婚のお祝いに国内外の貴族が多勢シャルト王宮を訪れた。アメリアはお祝いの言葉を受け取ったり、外国の要人を接待したり、連日パーティーに参加したりと忙しい日々を過ごしてきた。今日も朝早くからドレスの着付けをしていたのだろう。

「よく頑張ったな。」

 眠るアメリアに声をかける。

 ジェラルド自身もこの1ヶ月はかなり忙しかった。眠っている相手とは喧嘩することもできないし小説の内容を馬鹿みたいに心配する必要もない。

 ジェラルドは距離が近すぎて寝顔があまり見えない事を少しだけ残念に思いながら穏やかな時間を過ごした。





〈アメリアの場合〉

 市民たちへのお披露目を終えるとそのまま普通の馬車に乗り換えて湖のほとりにある別荘へと向かう。

 公式行事の移動にも関わらず狭い密室である馬車の中に2人きりにされてアメリアは緊張しながらもやっと結婚できたのだと実感が湧いてきた。

(せっかく久しぶりにジェラルドとゆっくり話せるし時間を有効に使わなきゃ。)

 何を話そうかウキウキしながら乗り込んだはずだったのに、ほどよい揺れといつもより優しいジェラルドの声は子守唄のようで気がつくと眠ってしまっていた。

「あれ?」

 目が覚めると馬車の中は真っ暗で灯りもついていない。

「ジェラルド!」

 不安になって呼んだ声は想像していたより大きくなってしまった。

 ジェラルドがアメリアの声で肩を少し揺らしたので、アメリアが頭を預けていたのがジェラルドの肩だったのだと今更気がついた。

「どうした?」
 
 ジェラルドの声は眠そうで起こしてしまったのだとわかる。

「起こしてごめんね。目が覚めたら暗かったからびっくりしただけなの。」

「ああ、そうか。ちょっと待ってろ。」

 ジェラルドに寄りかかって眠っていたのに不安になって名前を呼んでしまった自分にアメリアは恥ずかしくなる。

 赤くなった顔を見られたくないと思ったが、アメリアが何か言うより先にジェラルドが馬車の中の明かりを灯した。

「もうすぐ着くかもしれないな。」

 ジェラルドは赤くなったアメリアの頬をなでながら言った。

 日没前後に別荘に着く予定になっていたので到着していてもおかしくない時間のはずだ。途中休憩を何度か挟むはずだったが、アメリアは眠っていたので実際はどうだったのか分からない。

「俺も寝てて気が付かなかった。俺たちが眠っていたから起こさないようにゆっくり進んでくれてるのかもな。」

 アメリアが休憩はとったのかと聞いてみるとジェラルドは恥ずかしそうに笑った。

 アメリアが乱れた髪を整えるとすぐに馬車が止まって別荘に着いた。

 2人が起きるまで別荘の近くを回っていたのかもしれない。きっと様子を見に来た人もいたことだろう。

 ジェラルドもその事に思い至ったようで耳が少し赤くなっている。

 周囲の様子に気がつきもせずに眠っていた恥ずかしさを誤魔化すように、アメリアとジェラルドは顔を見合わせてクスリと笑い合う。

 アメリアはジェラルドの手を借りて馬車をおり、懐かしい別荘の中へと入っていった。

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