【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ

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〈番外編〉皇太子殿下の苦悩

ペンブローク辺境伯の苦悩

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 影武者ミケの卒業式を家族席で見守った辺境伯は、卒業パーティーが始まるのを待たずに最低限の護衛を連れて領地へと旅立った。

 王都を出てから1週間以上がたち、あと数日で領地につくと思って馬を走らせていると前方から走ってきた馬が辺境伯の前で止まる。

「旦那様、お早いお帰りですね」

 馬に乗っていたのは辺境伯軍特殊部隊の隊長フウだった。辺境伯は嫌な予感がして出来れば報告を聞きたくないと思った。

「お嬢様が護衛を連れて王都へと向かわれました」

 辺境伯の気持ちに反してフウはサラッと報告する。辺境伯は想像通りの報告に頭を抱えるしかなかった。

「フウ、一人で追っているのか?」

「はい、他の者だとクロやトビには敵いませんので足手まといになります」

「優秀なのも考えものだな」

 辺境伯がため息をつくとフウは苦笑した。

「普通なら追いついても良い頃なのですが、クロとトビは普段使う道を避けたのだと思います」

 フウは闇雲に探して無駄に刺激してまかれるよりは、王都で待ち伏せすべきだと判断して最短の道を走っているようだ。

「旦那様はいかが致しますか?」

「私は一度領地に帰って急ぎの仕事を片付けて必要なら王都に向かう。先に行ってアメリアの居場所だけ把握しておけ。安全が保たれている間は手を出さなくていい。騒ぎになるのは避けたい」

 アメリアが安全な状況ならフウ相手でもクロとトビは何をするか分からない。領内なら隠蔽も簡単だが王都で騒ぎを起こしたら隠し通せるか疑問もある。

 フウは辺境伯の考えを理解すると馬で王都の方向に走り去っていった。辺境伯は何度目かのため息をつきながら領地へと馬を走らせる。

(あのじゃじゃ馬が。一体誰に似たんだか)

 エドガーが領地にいるならすぐに引き換えしても良かったが、今はサモエド侯爵の捕物に駆り出されている。現在の辺境伯領が安全だとしても、流石に辺境伯とエドガー共に不在の時間は長く取りたくはなかった。





 領地で仕事をしているとフウからの報告が上がってくる。

 アメリアは皇太子に会いに行ったが会えなかった事。アメリアが宿屋で襲われたこと。擦り傷一つなく無事である事。新聞を使用して警告を送った事。アメリアはなぜか騎士団に逃げ込んだ事などが書かれていた。

(騎士団? アメリアは何をやっているんだ?)

 娘の行動なのに他の誰の行動より読みにくい。おそらく皇太子はまだサモエド侯爵領にいるか帰路の途中で会えていないのだろう。

(可愛い娘を奪われるんだ、少しぐらい殿下にも苦い想いをして頂いても良いだろう)

 そうすれば、同時にアメリアにお灸をすえることも出来る。のほほんとした娘がどれくらい辺境伯の思いを汲み取るかは難しいところではあるがそれはそれで仕方ない。

 辺境伯は自らが王都に出向く必要はないと判断してフウに指令を出した。

 アメリアが音をあげるまではそのままにしておく事。辺境伯領から人を送るのでクロやトビに気がつかれないようにアメリアの警護を強化する事。

 クロとトビが相手となれば特殊部隊にとっては良い演習になる。若手の実力派を集めて辺境伯自ら鼓舞して王都へと向かわせた。特殊部隊の若手は『クロとトビに気づかれないように』と聞いて自分の実力が披露出来ると喜ぶ者が多かった。あの2人はアメリアが絡まないと本気を出さないので貴重な機会なのだろう。

 宿屋はアメリアさえ泊めなければ被害に合っていない。匿名という形で念のため間に人を数人挟んで再建に必要な額と慰謝料を寄付した。

 ヴィクトルを経由して皇太子から来た問い合わせには適当にあしらう手紙を送った。後はフウがうまく伝えるだろう。



 その後のフウからの定期連絡にはアメリアが楽しそうに騎士団で働いている事が書かれていた。

 どんな場所でも周りを味方につけるアメリアの才能には驚くばかりだ。エドガーも似たところがあるがそれ以上だろう。

(やっぱり、あの小僧にやるのはもったいない)

 そう思っていたはずなのに何回目かの連絡で皇太子とアメリアが再会したと知った辺境伯は安堵してしまった自分に舌打ちをした。
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