【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ

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〈番外編〉皇太子殿下の苦悩

23.帰路

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 アメリアは寒そうに肩を震わせていて、声をかけるまでジェラルドが近くにいることにも気づいていなかった。ジェラルドが慌ててジャケットを脱いで渡すと、アメリアは袖を通して安心した顔をした。建物の中は騎士たちの熱気でジャケットを脱いでも暑いくらいだ。ジェラルドは、なおも震えるアメリアを支えて馬車に戻った。

 馬車の座席に並んで座ると、アメリアは不安そうにジェラルドにしがみついてくる。震えていたのは何かあったからなのだろうか?

「俺に甘えてくるなんて、熱でもあるのか?」

 ジェラルドが軽口を叩いてみると、アメリアが睨みながら文句を言ってくる。その様子にジェラルドは逆に少しだけホッとした。顔が赤くなってきているので本当に熱があるのかもしれない。そう思って、ジェラルドがアメリアのおでこにそっと触れると想像以上に熱かった。

「やっぱり、熱っぽいじゃないか。」

 動揺を悟られないように気をつけながら抱き寄せると、アメリアはぼんやりとした様子でジェラルドに身体を預けてきた。いつから体調が悪かったのだろうか? まったく気がつかなかった自分が情けない。

 声をかけながらアメリアの背中をそっと擦ってやると安心したのかすぐに眠ってしまった。ジェラルドはつらそうなアメリアを起こさないようにゆっくりと自分の膝の上に寝かせた。

 ジェラルドが馬車に乗せてある膝掛けをたぐり寄せてかけてやると、眠るアメリアの表情が少しだけ緩む。熱は上がってきているが他に気になる症状はない。王宮まで連れて行ってから医者に見せても問題ないだろう。ジェラルドは静かに息を吐き出してアメリアを支えながら王宮へと向かった。


 馬車が王宮へと着くとジェラルドはアメリアを起こさないように慎重に横抱きにして馬車を降りた。

「皇太子妃の寝室の準備をさせろ。医者も呼んでおけ。」

 護衛していた隠密部隊の一人が一瞬だけ姿を見せると去っていった。

「アメリアの護衛はいるか? 王宮に入りたいなら出てこい。」

 クロとトビが音もなく姿を現す。クロは無表情だがトビは明らかにジェラルドを嫌悪感たっぷりに睨んでいる。

「皇太子殿下、お嬢様は私が運びます。」

 クロがそれは自分たちの当然の権利と言いたそうにジェラルドの前に立ちはだかってアメリアに手をのばす。

 この護衛たちはジェラルドが皇太子であろうが気にしないようだ。アメリアに熱を出させた事が不満なのか、これまでのアメリアへの対応が不満なのか分からないが明らかに不敬な態度をとる。

「王宮に入りたくないなら私は構わない。」

 ジェラルドも護衛とはいえ他の男にアメリアを託すつもりはない。ジェラルドが譲らないと分かるとクロは殺気を立てたまま身を引いた。ジェラルドの後ろをついて来るようだ。

「ジェラルド?」

 アメリアがジェラルドの服を握りしめて掠れた声を出す。

「どうした?」

 ジェラルドが声をかけてアメリアを覗き込むが、寝言だったのか起きた様子はなかった。

 辺境伯の言うとおり護衛はどこまでもアメリア中心のようだ。アメリアがジェラルドを呼んだのを聞いてからは殺気もしまい静かについてきた。

 皇太子妃の寝室はアメリアがいつ王宮入りしても良いように用意していた。アメリアの好きな淡いオレンジ色で統一してある。アメリアにつく侍女も選出してあったので、皇太子妃の部屋にジェラルドが入ったときには侍女たちがきちんと待っていた。

 アメリアはギュッとジェラルドの服を握りしめている。それを見ると少し躊躇してしまうが、ジェラルドは一旦アメリアを侍女に任せて部屋を出た。アメリアをドレスのまま寝かせるわけにはいかない。ジェラルドも隣にある自分の私室でこれからの予定のために皇太子らしい服装に着替える。皇太子妃の部屋へ戻ると、アメリアもゆったりとした服を着せられており医者が診察しているところだった。

「先生、こんな夜中にすみません。アメリアはどうですか?」

「過労でしょうな。慣れない生活で疲れが溜まっていたのでしょう。お若いですし、ゆっくり休めばすぐに元気になりますよ」

 ジェラルドも小さい頃からお世話になっている宮廷医はジェラルドを安心させるように笑顔を見せると、また来ますと言って出ていった。

 アメリアは苦しそうに眠っている。ジェラルドは目を覚ますまでアメリアの側にいたかったが、今日は報告が次々上がって来るだろうし行かなくてはいけない場所もある。

「ゴメンな」

 寝ているアメリアの髪を撫でると、ジェラルドはアメリアを護衛と侍女に任せて執務室へと向かった。
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