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〈番外編〉皇太子殿下の苦悩
10.計画
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いろいろな意見は出たが、他にこちらが気がついていない貴族が絡んでいたとしても伯爵以下の人間で、中心人物は皇弟と侯爵であるという見解は一致していた。
「叔父上を捕まえるにはこの手紙だけでは心許ないな。叔父上の監視を強めた上で先にサモエド侯爵を抑える。その後、賭博場と武器庫、そこから出てきた証拠とともに叔父上から自白を引き出す。そんなところだろうか? 辺境伯はどう考える?」
サモエド侯爵さえ抑えてしまえば、計画を捻じ曲げてまで早めに謀反を実行しようとする者はいないだろう。謀反を起こすほどの人数を動かせる者が他にはいないのだ。手紙によると皇弟は受け身のようだし浮世離れしている人だから武人を率いることなど難しい。したがって、サモエド侯爵を拘束してしまえば、ゆっくり賭博場と武器庫を押さえても王都に危険はない。他の者に比べて侯爵については証拠が少なく強引な手段となってしまうが仕方ないだろう。
「概ね、殿下のおっしゃるとおりだと思います。私としては万全を期すためにサモエド侯爵の拘束を外に漏らさないようにしようと考えています。何も起こっていないこととするため、皇弟殿下の監視体制も変えない方が良いでしょう」
「そんな事が可能か?」
サモエド侯爵はまだ先の事とはいえ謀反を起こそうとしている中心人物だ。軍人を集めているに違いない。騒ぎを他の貴族に知られないためには侯爵が領地にいる時に拘束すべきだが、サモエドの領地は侯爵だけにそれなりに広い。
「問題はありません。殿下に立ち会って頂く必要はありますが、我が辺境伯軍がサモエド侯爵についてはお引き受けいたしましょう。きれいに片付けてご覧に入れますよ」
「それは心強いな」
ジェラルドが言うと辺境伯がニヤリと笑った。
「ただし、条件があります。辺境伯領から軍が出ていくということは領地の守りが薄くなるということです。侯爵の拘束に誰かが気がついて、その人間が何らかの理由で辺境伯領に押し寄せてくる可能性はゼロではありません。アメリアが心配なのです」
確かにジェラルドとしてもアメリアの安全は第一に考えたいと思う。謀反の計画でも皇后に据えるなどかなり重要視されている。特殊部隊が付いているとはいえ万全とは言い切れない。
「アメリアを早めに王都入りさせて王宮で保護しよう。部屋はすぐにでも用意させる」
「いいえ、私としてはそれでも心配が残ります」
「では、どうする?」
「殿下にはアメリアと婚約破棄をして頂きたい。殿下との関係がなくなればアメリアの安全は格段にあがります」
辺境伯は婚約破棄申請書を机の上においた。すでに辺境伯のサインはしてある。ジェラルドの父である皇帝がサインをすれば婚約破棄は成立する。
「待て! 婚約破棄がなぜアメリアの安全に繋がる? 謀反においてアメリアは辺境伯軍への脅しであり、叔父上の皇后にと企んでいる。私との関係がなくなろうとそれは変わらない」
辺境伯は本気で婚約破棄させるつもりのようだ。皇帝にサインをもらう前にジェラルドの所に来ただけましなのかもしれない。
「3年前にアメリアが襲われたのをお忘れですか? それともあれも我が軍に対しての脅しで、殿下は関係ないとでも? 侯爵が拘束された後、残党が考えるのは自分の保身でしょう。罪を軽くする権限を持つのは辺境伯軍ではなくジェラルド皇太子殿下、あなたです。アメリアのためですよ」
辺境伯はジェラルドを諭すように言った。ジェラルドと交渉するためにアメリアが人質にされる可能性は確かにある。
「……」
「それに全てが終わってから再婚約すればいいのです。アメリアがそうしたいと言うなら再婚約は可能ですよ。アメリアの事を信じて下さらないのですか?」
「そんな事はない、私は……」
「明日、皇帝陛下に謁見をお願いしております。それまでに覚悟をお決め下さい」
辺境伯は婚約破棄申請書を机の上においたまま執務室を出ていった。
ジェラルドも一度頭を冷やそうと立ち上がって扉に向かう。
「殿下、父が再婚約を許すとはとても思えません。父は今でもアメリアを辺境伯領の男と結婚させて手元に置きたいと考えています」
ヴィクトルがジェラルドの背中に向かって語りかける。
「王家から打診できない以上、婚約破棄をしたらアメリアとの結婚は難しいと考えた方がいいでしょう。それを防ぐためには、アメリアを領地から呼び寄せて話し合うべきです。それくらいしなければ、父が考えを変えるとはとても思えません」
ヴィクトルの言う通り、アメリアを領地から呼び寄せるのが最善だろう。ただ、その時間を辺境伯はジェラルドに与えるだろうか?
「少し一人で考えてくる。ミカエル、何かあれば私室まで来てくれた」
ジェラルドはミカエルの応えを聞く前に執務室を出ていった。
「叔父上を捕まえるにはこの手紙だけでは心許ないな。叔父上の監視を強めた上で先にサモエド侯爵を抑える。その後、賭博場と武器庫、そこから出てきた証拠とともに叔父上から自白を引き出す。そんなところだろうか? 辺境伯はどう考える?」
サモエド侯爵さえ抑えてしまえば、計画を捻じ曲げてまで早めに謀反を実行しようとする者はいないだろう。謀反を起こすほどの人数を動かせる者が他にはいないのだ。手紙によると皇弟は受け身のようだし浮世離れしている人だから武人を率いることなど難しい。したがって、サモエド侯爵を拘束してしまえば、ゆっくり賭博場と武器庫を押さえても王都に危険はない。他の者に比べて侯爵については証拠が少なく強引な手段となってしまうが仕方ないだろう。
「概ね、殿下のおっしゃるとおりだと思います。私としては万全を期すためにサモエド侯爵の拘束を外に漏らさないようにしようと考えています。何も起こっていないこととするため、皇弟殿下の監視体制も変えない方が良いでしょう」
「そんな事が可能か?」
サモエド侯爵はまだ先の事とはいえ謀反を起こそうとしている中心人物だ。軍人を集めているに違いない。騒ぎを他の貴族に知られないためには侯爵が領地にいる時に拘束すべきだが、サモエドの領地は侯爵だけにそれなりに広い。
「問題はありません。殿下に立ち会って頂く必要はありますが、我が辺境伯軍がサモエド侯爵についてはお引き受けいたしましょう。きれいに片付けてご覧に入れますよ」
「それは心強いな」
ジェラルドが言うと辺境伯がニヤリと笑った。
「ただし、条件があります。辺境伯領から軍が出ていくということは領地の守りが薄くなるということです。侯爵の拘束に誰かが気がついて、その人間が何らかの理由で辺境伯領に押し寄せてくる可能性はゼロではありません。アメリアが心配なのです」
確かにジェラルドとしてもアメリアの安全は第一に考えたいと思う。謀反の計画でも皇后に据えるなどかなり重要視されている。特殊部隊が付いているとはいえ万全とは言い切れない。
「アメリアを早めに王都入りさせて王宮で保護しよう。部屋はすぐにでも用意させる」
「いいえ、私としてはそれでも心配が残ります」
「では、どうする?」
「殿下にはアメリアと婚約破棄をして頂きたい。殿下との関係がなくなればアメリアの安全は格段にあがります」
辺境伯は婚約破棄申請書を机の上においた。すでに辺境伯のサインはしてある。ジェラルドの父である皇帝がサインをすれば婚約破棄は成立する。
「待て! 婚約破棄がなぜアメリアの安全に繋がる? 謀反においてアメリアは辺境伯軍への脅しであり、叔父上の皇后にと企んでいる。私との関係がなくなろうとそれは変わらない」
辺境伯は本気で婚約破棄させるつもりのようだ。皇帝にサインをもらう前にジェラルドの所に来ただけましなのかもしれない。
「3年前にアメリアが襲われたのをお忘れですか? それともあれも我が軍に対しての脅しで、殿下は関係ないとでも? 侯爵が拘束された後、残党が考えるのは自分の保身でしょう。罪を軽くする権限を持つのは辺境伯軍ではなくジェラルド皇太子殿下、あなたです。アメリアのためですよ」
辺境伯はジェラルドを諭すように言った。ジェラルドと交渉するためにアメリアが人質にされる可能性は確かにある。
「……」
「それに全てが終わってから再婚約すればいいのです。アメリアがそうしたいと言うなら再婚約は可能ですよ。アメリアの事を信じて下さらないのですか?」
「そんな事はない、私は……」
「明日、皇帝陛下に謁見をお願いしております。それまでに覚悟をお決め下さい」
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