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〈番外編〉皇太子殿下の苦悩
11.婚約破棄
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ジェラルドは婚約破棄についてじっくり考えたくて自室へと戻った。
ヴィクトルの忠告は正しいと思う。もし、婚約破棄をするとしたらジェラルドからの申し出ということになる。そうなると再婚約はジェラルドから申し込むことは出来ない。
ジェラルドがアメリアに話をすれば、きっとアメリアは再婚約したいと言ってくれるだろう。アメリアとは離れていてもお互いを思い合っているとジェラルドは信じている。
けれど、結婚は家と家がするものだ。辺境伯と皇帝の承認が必要になる。辺境伯が再婚約に応じなければ、ジェラルドとアメリアが願っても実現しないのだ。
(しかし、婚約破棄せずに動いてアメリアに何かあったら……)
たとえ、アメリアと結婚することが叶わなくなっても元気でいてくれる方がよっぽどいい。それでも、ジェラルドはアメリアの隣に自分以外の男が並んでいるなんて想像すらしたくなかった。
(どうすればいいんだ)
ジェラルドはだらしなくソファーに寝っ転がった。こんなことを昼間からするなんて、いつぶりのことだろうか。ジェラルドは12歳で本格的に仕事を初めてからいつも忙しくしていた。
(そういえば仕事を初めたばかりの頃、アメリアが会いに来てくれていたのにソファーで寝てしまった事があったな)
仕事をはじめた頃は皇太子とはいえ周りは年上ばかりで能力をいつも試されているようだった。重圧に負けてベッドに入ってからも仕事の事が抜けずに夜もあまり眠れていなかった。そんな事をぼんやり思い出していて、ジェラルドはガバっと起き上がる。本棚に向かうと分厚い他国の辞書の後ろに隠すようにしまわれていた箱を取り出した。
ソファーに戻って箱を開けると見覚えのある表紙が出てきた。
『皇太子殿下の恋人』
6年前ソファーで眠ってしまっていたジェラルドが目を覚ますと、幸せそうな顔をしてアメリアが本を読んでいた。声をかけたら小説について熱弁された事を思い出す。そのとき渡されたのがこの小説だ。
「あのね、聞いてよ、ジェラルド! 皇太子殿下が真実の愛に気づいて婚約破棄するんだけど、皇帝陛下が恋人との結婚を許してくれないの。それで皇太子の地位を捨てて恋人と一緒に手をつないで逃げるのよ。その時のセリフが……」
「どこが素敵なんだよ。そんな不吉な小説なんて読むか!」
怒鳴ってしまったときのアメリアの寂しそうな顔を思い出すと情けない気持ちになった。
結局アメリアの前でゴミ箱に捨てた本をジェラルドはすぐに拾って読んだ。皇太子殿下とヒロインの容姿を知ってアメリアがどんな気持ちで読んでいたのかを想像して真っ赤になりながら。
ジェラルドは読んだ事を知られたくなくて謝ることもできずに本を箱に入れて見えない場所に隠したのだ。
(思い出すと情けないな)
ジェラルドは苦い思いで『皇太子殿下の恋人』をペラペラとめくる。
中盤の山場「卒業パーティー」皇太子殿下は自分が浮気したにも関わらず、婚約者を多勢の人の前でさらし者にするひどいシーンだったとジェラルドはよく覚えている。
(アメリアは素敵な場面とか思っているのかもな)
このシーンを再現すれば婚約破棄の書類を提出しなくても婚約破棄したと世の中に勘違いさせられるのではないだろうか。
アメリアも大好きな小説の見せ場なのだし、若い女性が多勢いる卒業パーティーで再現すれば、その出来事はあっという間に広がるだろう。
それに、小説を完全に再現すれば、全てが無事に解決してアメリアに話したときに本気で破棄しようとしていたと誤解されにくい。アメリアを罵倒するなんて、とても自分の考えた言葉ではしたくないし丁度いい台本だ。
ジェラルドはそう決めると辺境伯に話す前に父である皇帝陛下に話をつけにいった。卒業パーティー後ざわつく世間に対して沈黙を保ってもらわなくてはいけない。王家が公式に発言すれば、書類がなくても婚約破棄が真実になってしまうからだ。
了承を得ると辺境伯を呼び出した。最初は渋っていた辺境伯だったがジェラルドの考え抜いた説得に負けて了承した。
ジェラルドと辺境伯はアメリアが狙われていると知って不安にさせないために、アメリアにはすべて終わるまで何も知らせないことにした。
アメリアは3年も領地から出られずにいる。影武者が領地に戻って来たなら王都に遊びに来たがる可能性もある。アメリアを領地で退屈させないためにお気に入りのパンケーキカフェを辺境伯領に出店させることをジェラルドは辺境伯に頼んだ。
辺境伯領には安全対策のため領外の人間の出店はとても難しい。常連でジェラルドと顔見知りのカフェ店主もジェラルドが出資するから辺境伯領に出店して欲しいと伝えると喜んで了承してくれた。
ミケはアメリアに内緒での婚約破棄を嫌がっていたが、説得に負けて当日も演じてくれることになった。
こうして、シャルト学園卒業パーティーで前代未聞の婚約破棄が行われたのだった。
ヴィクトルの忠告は正しいと思う。もし、婚約破棄をするとしたらジェラルドからの申し出ということになる。そうなると再婚約はジェラルドから申し込むことは出来ない。
ジェラルドがアメリアに話をすれば、きっとアメリアは再婚約したいと言ってくれるだろう。アメリアとは離れていてもお互いを思い合っているとジェラルドは信じている。
けれど、結婚は家と家がするものだ。辺境伯と皇帝の承認が必要になる。辺境伯が再婚約に応じなければ、ジェラルドとアメリアが願っても実現しないのだ。
(しかし、婚約破棄せずに動いてアメリアに何かあったら……)
たとえ、アメリアと結婚することが叶わなくなっても元気でいてくれる方がよっぽどいい。それでも、ジェラルドはアメリアの隣に自分以外の男が並んでいるなんて想像すらしたくなかった。
(どうすればいいんだ)
ジェラルドはだらしなくソファーに寝っ転がった。こんなことを昼間からするなんて、いつぶりのことだろうか。ジェラルドは12歳で本格的に仕事を初めてからいつも忙しくしていた。
(そういえば仕事を初めたばかりの頃、アメリアが会いに来てくれていたのにソファーで寝てしまった事があったな)
仕事をはじめた頃は皇太子とはいえ周りは年上ばかりで能力をいつも試されているようだった。重圧に負けてベッドに入ってからも仕事の事が抜けずに夜もあまり眠れていなかった。そんな事をぼんやり思い出していて、ジェラルドはガバっと起き上がる。本棚に向かうと分厚い他国の辞書の後ろに隠すようにしまわれていた箱を取り出した。
ソファーに戻って箱を開けると見覚えのある表紙が出てきた。
『皇太子殿下の恋人』
6年前ソファーで眠ってしまっていたジェラルドが目を覚ますと、幸せそうな顔をしてアメリアが本を読んでいた。声をかけたら小説について熱弁された事を思い出す。そのとき渡されたのがこの小説だ。
「あのね、聞いてよ、ジェラルド! 皇太子殿下が真実の愛に気づいて婚約破棄するんだけど、皇帝陛下が恋人との結婚を許してくれないの。それで皇太子の地位を捨てて恋人と一緒に手をつないで逃げるのよ。その時のセリフが……」
「どこが素敵なんだよ。そんな不吉な小説なんて読むか!」
怒鳴ってしまったときのアメリアの寂しそうな顔を思い出すと情けない気持ちになった。
結局アメリアの前でゴミ箱に捨てた本をジェラルドはすぐに拾って読んだ。皇太子殿下とヒロインの容姿を知ってアメリアがどんな気持ちで読んでいたのかを想像して真っ赤になりながら。
ジェラルドは読んだ事を知られたくなくて謝ることもできずに本を箱に入れて見えない場所に隠したのだ。
(思い出すと情けないな)
ジェラルドは苦い思いで『皇太子殿下の恋人』をペラペラとめくる。
中盤の山場「卒業パーティー」皇太子殿下は自分が浮気したにも関わらず、婚約者を多勢の人の前でさらし者にするひどいシーンだったとジェラルドはよく覚えている。
(アメリアは素敵な場面とか思っているのかもな)
このシーンを再現すれば婚約破棄の書類を提出しなくても婚約破棄したと世の中に勘違いさせられるのではないだろうか。
アメリアも大好きな小説の見せ場なのだし、若い女性が多勢いる卒業パーティーで再現すれば、その出来事はあっという間に広がるだろう。
それに、小説を完全に再現すれば、全てが無事に解決してアメリアに話したときに本気で破棄しようとしていたと誤解されにくい。アメリアを罵倒するなんて、とても自分の考えた言葉ではしたくないし丁度いい台本だ。
ジェラルドはそう決めると辺境伯に話す前に父である皇帝陛下に話をつけにいった。卒業パーティー後ざわつく世間に対して沈黙を保ってもらわなくてはいけない。王家が公式に発言すれば、書類がなくても婚約破棄が真実になってしまうからだ。
了承を得ると辺境伯を呼び出した。最初は渋っていた辺境伯だったがジェラルドの考え抜いた説得に負けて了承した。
ジェラルドと辺境伯はアメリアが狙われていると知って不安にさせないために、アメリアにはすべて終わるまで何も知らせないことにした。
アメリアは3年も領地から出られずにいる。影武者が領地に戻って来たなら王都に遊びに来たがる可能性もある。アメリアを領地で退屈させないためにお気に入りのパンケーキカフェを辺境伯領に出店させることをジェラルドは辺境伯に頼んだ。
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ミケはアメリアに内緒での婚約破棄を嫌がっていたが、説得に負けて当日も演じてくれることになった。
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