61 / 72
〈番外編〉皇太子殿下の苦悩
25.部屋
しおりを挟む
ジェラルドは謁見の間を出て、沈んだ気持ちを持て余しながら歩いていると、自然とアメリアの休む寝室に足が向いてしまった。
(少し様子を見るだけなら……)
ジェラルドは積み上がった仕事を思い浮かべながらもアメリアの寝室の扉を開けた。
皇太子妃の寝室で眠るアメリアの側には侍女が1人いるだけだった。ジェラルドが入っても護衛は姿を現さない。ジェラルドがアメリアのもとを訪れてもいいということだろうか。
(何で俺が護衛に気を使ってるんだよ。)
ジェラルドは婚約者なのだから護衛に入室許可をとる必要などもちろんない。どうも気弱になっているらしい。ジェラルドは心の中で苦笑した。
ジェラルドが近づくとアメリアの世話をしていた侍女が立ち上がりジェラルドに場所を譲る。もう日が高く登っているが侍女の話ではあれからアメリアは目を覚ましていないらしい。
侍女が部屋を出ていくとジェラルドはアメリアの枕元に置いてある椅子に座った。アメリアは夜中に別れたときより顔が赤い気がする。
アメリアのおでこを冷やしていた布をとって触れると、馬車の中にいた時より熱がかなり上がってしまっているようだった。ジェラルドが手を離そうとするとアメリアがぼんやりと目を開いた。
「悪い、起こしたな。具合はどうだ? 何か飲むか?」
ジェラルドはアメリアを覗き込んで聞くが紫色の瞳はとろんとしている。
「ここどこ?」
アメリアはゆっくりと部屋を見回している。
「お前の部屋。」
ジェラルドはついそう言ってしまってアメリアから視線をそらす。
「え?」
アメリアはジェラルドの言った意味が分かっていないようだ。まだ半分眠っているようなアメリアに詳しく説明する事もないだろう。
「どうでもいいだろ。お前過労で倒れたんだ。ここは安全だから安心してゆっくり休め。お前の護衛もちゃんと側にいる。」
ジェラルドはつい投げやりな言い方をしてしまってすぐに後悔する。アメリアが不安にならないようにゆっくりとミルクティー色の髪を撫でた。
ジェラルドの言葉に安心したのかアメリアはすぐにまた眠ってしまった。ジェラルドはアメリアのおでこに冷やしなおした布をそっとのせる。しばらく、眠っているアメリアの髪を撫でているとジェラルドの波立った心も不思議と落ち着いてきた。ずっとアメリアに癒やされている訳にもいかない。侍女にアメリアを任せるとジェラルドは静かに部屋を出ていった。
(少し様子を見るだけなら……)
ジェラルドは積み上がった仕事を思い浮かべながらもアメリアの寝室の扉を開けた。
皇太子妃の寝室で眠るアメリアの側には侍女が1人いるだけだった。ジェラルドが入っても護衛は姿を現さない。ジェラルドがアメリアのもとを訪れてもいいということだろうか。
(何で俺が護衛に気を使ってるんだよ。)
ジェラルドは婚約者なのだから護衛に入室許可をとる必要などもちろんない。どうも気弱になっているらしい。ジェラルドは心の中で苦笑した。
ジェラルドが近づくとアメリアの世話をしていた侍女が立ち上がりジェラルドに場所を譲る。もう日が高く登っているが侍女の話ではあれからアメリアは目を覚ましていないらしい。
侍女が部屋を出ていくとジェラルドはアメリアの枕元に置いてある椅子に座った。アメリアは夜中に別れたときより顔が赤い気がする。
アメリアのおでこを冷やしていた布をとって触れると、馬車の中にいた時より熱がかなり上がってしまっているようだった。ジェラルドが手を離そうとするとアメリアがぼんやりと目を開いた。
「悪い、起こしたな。具合はどうだ? 何か飲むか?」
ジェラルドはアメリアを覗き込んで聞くが紫色の瞳はとろんとしている。
「ここどこ?」
アメリアはゆっくりと部屋を見回している。
「お前の部屋。」
ジェラルドはついそう言ってしまってアメリアから視線をそらす。
「え?」
アメリアはジェラルドの言った意味が分かっていないようだ。まだ半分眠っているようなアメリアに詳しく説明する事もないだろう。
「どうでもいいだろ。お前過労で倒れたんだ。ここは安全だから安心してゆっくり休め。お前の護衛もちゃんと側にいる。」
ジェラルドはつい投げやりな言い方をしてしまってすぐに後悔する。アメリアが不安にならないようにゆっくりとミルクティー色の髪を撫でた。
ジェラルドの言葉に安心したのかアメリアはすぐにまた眠ってしまった。ジェラルドはアメリアのおでこに冷やしなおした布をそっとのせる。しばらく、眠っているアメリアの髪を撫でているとジェラルドの波立った心も不思議と落ち着いてきた。ずっとアメリアに癒やされている訳にもいかない。侍女にアメリアを任せるとジェラルドは静かに部屋を出ていった。
127
お気に入りに追加
1,176
あなたにおすすめの小説
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
牢で死ぬはずだった公爵令嬢
鈴元 香奈
恋愛
婚約していた王子に裏切られ無実の罪で牢に入れられてしまった公爵令嬢リーゼは、牢番に助け出されて見知らぬ男に託された。
表紙女性イラストはしろ様(SKIMA)、背景はくらうど職人様(イラストAC)、馬上の人物はシルエットACさんよりお借りしています。
小説家になろうさんにも投稿しています。
辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~
紫月 由良
恋愛
辺境に領地を持つマリエ・オリオール伯爵令嬢は、貴族学院の食堂で婚約者であるジョルジュ・ミラボーから婚約破棄をつきつけられた。二人の仲は険悪で修復不可能だったこともあり、マリエは快諾すると学院を早退して婚約者の家に向かい、その日のうちに婚約が破棄された。辺境=田舎者という風潮によって居心地が悪くなっていたため、これを機に学院を退学して領地に引き籠ることにした。
魔法契約によりオリオール伯爵家やフォートレル辺境伯家は国から離反できないが、関わり合いを最低限にして独自路線を歩むことに――。
※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています

時間が戻った令嬢は新しい婚約者が出来ました。
屋月 トム伽
恋愛
ifとして、時間が戻る前の半年間を時々入れます。(リディアとオズワルド以外はなかった事になっているのでifとしてます。)
私は、リディア・ウォード侯爵令嬢19歳だ。
婚約者のレオンハルト・グラディオ様はこの国の第2王子だ。
レオン様の誕生日パーティーで、私はエスコートなしで行くと、婚約者のレオン様はアリシア男爵令嬢と仲睦まじい姿を見せつけられた。
一人壁の花になっていると、レオン様の兄のアレク様のご友人オズワルド様と知り合う。
話が弾み、つい地がでそうになるが…。
そして、パーティーの控室で私は襲われ、倒れてしまった。
朦朧とする意識の中、最後に見えたのはオズワルド様が私の名前を叫びながら控室に飛び込んでくる姿だった…。
そして、目が覚めると、オズワルド様と半年前に時間が戻っていた。
レオン様との婚約を避ける為に、オズワルド様と婚約することになり、二人の日常が始まる。
ifとして、時間が戻る前の半年間を時々入れます。
第14回恋愛小説大賞にて奨励賞受賞

婚約破棄に乗り換え、上等です。私は名前を変えて隣国へ行きますね
ルーシャオ
恋愛
アンカーソン伯爵家令嬢メリッサはテイト公爵家後継のヒューバートから婚約破棄を言い渡される。幼い頃妹ライラをかばってできたあざを指して「失せろ、その顔が治ってから出直してこい」と言い放たれ、挙句にはヒューバートはライラと婚約することに。
失意のメリッサは王立寄宿学校の教師マギニスの言葉に支えられ、一人で生きていくことを決断。エミーと名前を変え、隣国アスタニア帝国に渡って書籍商になる。するとあるとき、ジーベルン子爵アレクシスと出会う。ひょんなことでアレクシスに顔のあざを見られ——。

0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。
アズやっこ
恋愛
❈ 追記 長編に変更します。
16歳の時、私は第一王子と婚姻した。
いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。
私の好きは家族愛として。
第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。
でも人の心は何とかならなかった。
この国はもう終わる…
兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。
だから歪み取り返しのつかない事になった。
そして私は暗殺され…
次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。
【完結】身勝手な旦那様と離縁したら、異国で我が子と幸せになれました
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
腹を痛めて産んだ子を蔑ろにする身勝手な旦那様、離縁してくださいませ!
完璧な人生だと思っていた。優しい夫、大切にしてくれる義父母……待望の跡取り息子を産んだ私は、彼らの仕打ちに打ちのめされた。腹を痛めて産んだ我が子を取り戻すため、バレンティナは離縁を選ぶ。復讐する気のなかった彼女だが、新しく出会った隣国貴族に一目惚れで口説かれる。身勝手な元婚家は、嘘がバレて自業自得で没落していった。
崩壊する幸せ⇒異国での出会い⇒ハッピーエンド
元婚家の自業自得ざまぁ有りです。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/10/07……アルファポリス、女性向けHOT4位
2022/10/05……カクヨム、恋愛週間13位
2022/10/04……小説家になろう、恋愛日間63位
2022/09/30……エブリスタ、トレンド恋愛19位
2022/09/28……連載開始

婚約を破棄され辺境に追いやられたけれど、思っていたより快適です!
さこの
恋愛
婚約者の第五王子フランツ殿下には好きな令嬢が出来たみたい。その令嬢とは男爵家の養女で親戚筋にあたり現在私のうちに住んでいる。
婚約者の私が邪魔になり、身分剥奪そして追放される事になる。陛下や両親が留守の間に王都から追放され、辺境の町へと行く事になった。
100キロ以内近寄るな。100キロといえばクレマン? そこに第三王子フェリクス殿下が来て“グレマン”へ行くようにと言う。クレマンと“グレマン”だと方向は真逆です。
追放と言われましたので、屋敷に帰り準備をします。フランツ殿下が王族として下した命令は自分勝手なものですから、陛下達が帰って来たらどうなるでしょう?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる