【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ

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〈番外編〉皇太子殿下の苦悩

22.潜入

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 潜入当日、オーレルから役目を奪ったジェラルドは馬車を降りて賭博場に向かって歩いていた。アメリアは緊張の為か不安そうにジェラルドの腕をギュッと抱きしめている。この様子ならあまり無茶をしないのではないかと少しだけジェラルドは期待してしまった。

 会場に入るとノナンとルイスがそれぞれ令嬢に見えなくもない少年を連れて潜入しているのを確認する。問題なく馴染んでおり、向こうもジェラルドたちの姿をチラリと確認していた。

 会場を一周すると予定していたあたりの椅子に座る。しばらくやることもないので、ジェラルドは普段恥ずかしくて言えないような口説き文句をアメリアに言って反応を楽しんだ。アメリアは全部演技だと思っていそうだがそれは仕方ない。

 予定時刻が迫ってくる頃には人は一段と多くなっていた。さり気なく周囲を確認するが、アメリアを害する程の実力者はいないようなので少しホッとする。

 急に騒がしくなって扉が乱暴に開く。

 ミカエルとヴィクトルを先頭に近衛が数人、続いて警備騎士団の者たちが多勢入ってきた。

「皇太子殿下の名のもとにこの場を改めさせて頂く。全員立ち上がって手を上げろ。怪しい動きをした者は命の保証はしない。」

 ミカエルが声を張り上げている間にも一部の人間が逃げようと走り出す。

 アメリアは近くで走り出した相手に何やらボールを投げつけている。

 男の首元にボールが当たって砕けると受け身も取らずにその場でバタンと男が倒れた。たぶん辺境伯軍の特殊部隊の武器だろうが威力がすごすぎる。アメリア自身も少し驚いているし、アメリアに害がないのか心配になった。

 会場はすぐに制圧された。

 アメリアが騎士と賭博場の男が剣を構えて睨みあっているところに加勢しようとした以外は、概ねジェラルドの予想通りに終わった。

 アメリアを手近な椅子に座らせて念の為、軽く怪我の有無を確認する。

「怪我なんてしてないわ。」

 アメリアは確認さえも嫌がったがジェラルドは無視をした。

「アメリア、さっき何を投げてたんだ?」

 ジェラルドはアメリアの隣の椅子に座ると聞いた。

「これだけど、何なのかは知らないわ。」

 アメリアはポケットからボールの残りを無造作に出した。ジェラルドは破裂しないかヒヤヒヤしたが、アメリアはとっても安全なのだと言って、かなり恐ろしい性能を説明した。

「分かった。とにかく危ないからもう持ち歩くなよ。」

 ジェラルドは周囲が落ち着いていることを確認するとアメリアに了解をとって残り破棄した。

 ミカエルが声をかけてきたのでアメリアに大人しくしておくようにと釘を指してその場を離れる。ここからが本来のジェラルドの仕事だ。

「どうだ?」

「貴族たちが関わった証拠の書類は流石に出てこないね。でも、この辺りで幅を利かせている黒い噂のあった商人たちはほとんど捕まえられそうだよ。」

 ミカエルがにっこり笑って押収品の一部を見せた。

「そうか、予定通りに対応させろ。」

 この後、待機している近衛が証拠が出た者たちを捕まえに行くことになっている。これまでの捜査で目星はついていたので、必要な書類にはジェラルドが予め承認のサインをしてある。

 入れ代わり立ち代わりジェラルドとミカエルのところに報告は来るがこれ以上大きな動きはなさそうだ。

「俺は先に戻るが構わないか?」

 ジェラルドはアメリアをチラリと見た。てっきり何か手伝うと言って動き出すかと思っていたが大人しく座っていて逆に不安になる。

「うん、ジェラルドの決断が必要になる事もなさそうかな。」

 ミカエルもジェラルドがアメリアを気にしているのは気づいていたのだろう。

「悪いが頼む。」

「大丈夫だよ。この後まだ長いんだしジェラルドは仮眠を取るなり一度休みなよ。」

 すっかりミカエルの母親のような小言が定着してしまっている。

「ああ、そうさせて貰うよ。」

 ジェラルドは適当に返事を返した。

 ミカエルはジェラルドが休むつもりのないことに気づいているのか苦笑している。ジェラルドはそんなミカエルを残してアメリアの元に戻った。

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