【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ

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〈番外編〉皇太子殿下の苦悩

19.再会

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― 3日後 ―

 執務室で黙々と机に向かって仕事をしていたジェラルドにミカエルが声をかける。

「ジェラルド、少し休みなよ。最近見てられないんだけど。ヴィクトルさんからも言って下さいよ」

 ヴィクトルは静かに護衛を続けている。

 ミカエルは最近そればっかりだ。いつもは一緒になって注意するヴィクトルもアメリアが行方不明で余裕がないのか静かなため尚更ミカエルは煩かった。

「僕はこれから賭博摘発の会議に行ってくるから、あまり根詰めないでよね」

 ミカエルは言いながら書類を抱えて部屋を出ていった。

 賭博場摘発はミカエルとルイスを中心に近衛の少数精鋭で当日のことは議論をしつくしてきた。今日は実働部隊として動く警備騎士団も含めた初めての会議となる。情報が漏れることを恐れてぎりぎりまで少数にしか話すことが出来なかったのだ。ミカエルは今日からは賭博摘発にかかりきりになるだろう。

 とにかく、この一週間が勝負だ。ジェラルドはどんな事態になってもすぐに対応するためにも休むことなく仕事を続けた。





 ジェラルドが集中しているとノックがしてヴィクトルが近衛騎士を一人部屋に入れた。騎士は随分急いできた様子だ。

「ミカエル様より至急の伝言をお預かりしています」

 会議に出ていたミカエルからの伝言とはなんだろうか。ヴィクトルと顔を見合わせる。

「話せ」

「そのままお伝えします。『アルロをみつけた。オーレルが連れて行くから執務室にいてほしい』との事にございます」

 ジェラルドはガタリと音を立てて立ち上がる。普段なら恥ずべき行動だが気にしていられなかった。『アルロ』はジェラルドがアメリアに付けた偽名だ。それはミカエルもよく知っている。言葉が出てこないジェラルドより先にヴィクトルが騎士に詰め寄る。

「どういう事だ! アルロは無事か! どこでみつけた!?」

「か、会議室にいた方だと思います。警備騎士団の制服を着ていました。詳しい事は私には……」

 騎士はタジタジになりながらもそれだけ言って出ていこうとする。

「待て。私をアルロの所に案内しろ」

 落ち着いてきたジェラルドが言うと、さっきは大きい声を出していたヴィクトルが慌ててとめる。

「状況が分かりません。私が連れてきますので、殿下はこちらでお待ち下さい」

 普段のヴィクトル相手なら行かせたが、今のヴィクトルは冷静ではない。今度はジェラルドが引き止めて混乱を避けるためにもミカエルの伝言通り執務室で待つことにした。

 困惑していた近衛騎士を返して、落ち着きのないヴィクトルの事を座らせると、ジェラルドもソファーに腰を下ろした。ジェラルド自身も落ち着かなくて執務室の扉を何度もチラチラと見てしまう。2人とも何も話さないまま時が流れた。

 どのくらい時間がたっただろうか。一瞬だったような長かったようなジェラルドには分からない。静まりかえった執務室の扉の向こう側から話し声が漏れてきた。何を言っているのかまでは分からなかったので、確かめようとジェラルドが立ち上がる。

「私が行きます」

 ヴィクトルが言うと扉を開けた。

「廊下で何を騒いでるんだ」

「ヴィクトルお兄様!」

 ヴィクトルに応えたのは間違いなくアメリアの声だった。ジェラルドはすぐに扉に向かう。

 懐かしいミルクティー色の髪が見えて考えることなく執務室に引き込んだ。

「あのオーレルさん……きゃっ」

 バタン

 アメリアが何か言ったようだが、気にする余裕もない。ジェラルドはアメリアをギュッと抱きしめる。アメリアは驚いていたようだったが、すぐに力を抜いてジェラルドに身を任せた。

 3年ぶりのアメリアはジェラルドが思っていたより小さくて細かった。ジェラルドはアメリアの存在をただ確かめていたくて抱きしめ続けた。

「ジェラルド?」

 ただ、ぎゅっと抱きしめているとアメリアがジェラルドを見上げてくる。

「アメリア、本当にアメリアなんだな。無事で良かった」

 ジェラルドはアメリアを感じていたくて、いつもそうしていたようにアメリアの頬を撫でた。

 アメリアの美しい紫色の瞳から涙がポロポロと流れ落ちている。ジェラルドは慰めたくて目尻にそっと触れた。

「ジェラルド? 顔色悪いよ。仕事忙しいの?」

 こんなときなのにアメリアはジェラルドの事を心配している。この数ヶ月辛い思いをしてきたはずなのに責めることすらしなかった。

 アメリアが心配そうな顔をしながら背伸びをして顔を寄せてくるので、ジェラルドは手加減もできずに噛み付くようにアメリアの唇を奪った。

 いつもより激しい口づけにアメリアは少しふらついている。ジェラルドはそんなアメリアを支えながらも離してやる事はできなかった。

 しばらくアメリアの唇を味わっていると、アメリアが耐えられなくなったのかジェラルドの胸を押してくる。仕方がないので離してやるとアメリアが顔を真っ赤にしながら潤んだ瞳でジェラルドを睨んできた。ジェラルドはあまりに可愛いアメリアの反応にアメリアの頭を優しく撫でた。

「今のは俺だけのせいじゃないだろ」

 そう言ってジェラルドはもう一度触れるだけの口づけをした。

「アメリア、愛してるよ。不安にさせてゴメンな」

 再び泣き出してしまったアメリアをジェラルドは落ち着くまではギュッと抱きしめ続けた。
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