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〈番外編〉皇太子殿下の苦悩
15.指輪
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それは王都に帰って着た翌日の昼過ぎのことだった。
ジェラルドは普段のようにミカエルとヴィクトルと執務室にいた。ジェラルドとミカエルはそれぞれ溜まった通常業務を行い、ヴィクトルが護衛しながら、それを手伝っているという久しぶりの日常だ。ノックの音がしてヴィクトルが扉を開けると王宮騎士が少し青い顔をして立っていた。顔をよく見ると秘密の通路の出口である使用人の寮の前で門番をさせている男だった。
こんな所にやってくるのは珍しい。ミケは辺境伯領に帰ったはずであるし、この騎士が執務室を訪ねてくる理由がジェラルドには分からなかった。
おどおどしていて何も話さず中々執務室にも入って来ないので、ジェラルドは不思議に思うが、王宮騎士が手に持っている指輪に気づいて血の気が引いた。
「その指輪はどうした? アメリアが来ているのか?」
扉を閉めるのも待てずに、ジェラルドは王宮騎士の持っていた指輪を奪いとった。
金と銀でできた台座にジェラルドがアメリアの瞳の色に合わせて厳選したアメジストが輝いている。間違いない。ジェラルドがアメリアに贈った指輪だ。
ジェラルドが秘密の通路を使ってアメリアを迎えに行こうと歩き出したが、すぐにミカエルがそれをとめた。
「落ち着いてよ、ジェラルド。話を聞いてからにした方がいい。なんか様子おかしいし……」
ミカエルがちらりと視線を送った王宮騎士は扉を開けてすぐに見たときより、さらに顔色が悪くなっている。落ち着きをなくしている王宮騎士をミカエルが宥めてソファーに座らせた。
「ジェラルドも座って。そんなに威圧してたら話せないでしょ」
ミカエルはジェラルドを騎士の向かいに座らせると監視するかのように自分も隣に座った。ジェラルドは中々話さない騎士に苛立ちを隠せない。
やっと聞き出せたのはアメリアが一週間ほど前に王宮を訪れジェラルドに会いたがっていたのに、アメリアを偽物と言って追い返してしまったという信じられない事実だった。
アメリアは王都の外れの安宿に泊まっていると話したという。
「なんで保護しなかったんだ」
ジェラルドの剣幕に王宮騎士が縮み上がる。危険を感じたのかヴィクトルがいつでもジェラルドを止められる位置に移動していた。
「ミケをアメリアだと思ってたんだ。責めても仕方ないよ」
ミカエルがジェラルドを宥める。
アメリアが領地に帰ったため使用人の寮の警備は重要度が下がった。その場を任せていた騎士は信頼できたのでジェラルドが学園に入学するとともに別の仕事に移らせていた。現在の騎士はミケとの連絡役として残していた者でミケが影武者である事は説明していない。
ジェラルドがイライラしている間にアメリアを呼びに人を行かせていたらしい。話を聞き終えてジェラルドも追いかけようとしたが、卒業パーティーの事が意味をなさなくなるとヴィクトルとミカエル2人がかりで説得されて、再びソファーに座り込んだ。
ミカエルは王宮騎士を別室に連れて行き詳細を聞き出している。
ジェラルドが執務室を落ち着きなくウロウロする中、ヴィクトルがさり気なく出口の扉を塞いでいた。
どのくらいそうしていただろう。扉をノックして近衛騎士が入ってきた。目立たないために私服を着ているがアメリアとも面識のある騎士だ。アメリアを迎えに行った騎士だろうがアメリアはそこにはいない。
「それが……」
先程の王宮騎士以上に真っ青な顔をした近衛騎士が言葉をつまらせる。
「何だ、早く言え!」
「アメリア様とお会いすることができませんでした。アメリア様が泊まっていたはずの宿屋は……火事で跡形もなく消えて……」
報告が終わる前に出口付近にいたヴィクトルがすごい勢いで部屋を出ていった。ジェラルドもその後を追う。
ジェラルドが廊下に出ると別室にいたはずのミカエルと鉢合わせしたが無視して横を走り抜ける。
「ジェラルドをとめて!」
ミカエルの声で近くにいた近衛騎士と隠密部隊までどこからか出てきてジェラルドを止めに入る。抵抗虚しくジェラルドは執務室に戻された。
「落ち着いてよ。何があったの? ヴィクトルさんは?」
ヴィクトルはそのまま王宮を出ていったようだ。ジェラルドがソファーに座りこむと近衛騎士がミカエルに状況を説明している。
アメリアが泊まっていると伝言を残した宿屋は一週間ほど前、アメリアが王宮を訪ねて来た翌日の夜明け前に火事で全焼してしまっていた。武器を持った者が多勢入ってきて火をつけたようなのだ。
宿屋の関係者は幸い全員無事で近所に避難しており、アメリアの特徴を話して確認をとったがそんな人物は泊まったことがないと言われてしまったという。とりあえず、他の者は周辺の聞き込みを続け、一人が報告に戻ってきたらしい。
ジェラルドは隠密部隊の数人にヴィクトルを追わせ、ヴィクトルの指示で捜索にあたるようにと伝えた。近衛騎士には警備騎士団に向かわせ火事についての詳細を調べさせている。
ミカエルが関わった全ての近衛騎士、王宮騎士にアメリアについて箝口令をしき情報が漏れないよう徹底させていた。
隠密部隊と近衛騎士が監視していて外に出れないジェラルドにはこれ以上できる事もなく執務室で報告を待った。
ジェラルドは普段のようにミカエルとヴィクトルと執務室にいた。ジェラルドとミカエルはそれぞれ溜まった通常業務を行い、ヴィクトルが護衛しながら、それを手伝っているという久しぶりの日常だ。ノックの音がしてヴィクトルが扉を開けると王宮騎士が少し青い顔をして立っていた。顔をよく見ると秘密の通路の出口である使用人の寮の前で門番をさせている男だった。
こんな所にやってくるのは珍しい。ミケは辺境伯領に帰ったはずであるし、この騎士が執務室を訪ねてくる理由がジェラルドには分からなかった。
おどおどしていて何も話さず中々執務室にも入って来ないので、ジェラルドは不思議に思うが、王宮騎士が手に持っている指輪に気づいて血の気が引いた。
「その指輪はどうした? アメリアが来ているのか?」
扉を閉めるのも待てずに、ジェラルドは王宮騎士の持っていた指輪を奪いとった。
金と銀でできた台座にジェラルドがアメリアの瞳の色に合わせて厳選したアメジストが輝いている。間違いない。ジェラルドがアメリアに贈った指輪だ。
ジェラルドが秘密の通路を使ってアメリアを迎えに行こうと歩き出したが、すぐにミカエルがそれをとめた。
「落ち着いてよ、ジェラルド。話を聞いてからにした方がいい。なんか様子おかしいし……」
ミカエルがちらりと視線を送った王宮騎士は扉を開けてすぐに見たときより、さらに顔色が悪くなっている。落ち着きをなくしている王宮騎士をミカエルが宥めてソファーに座らせた。
「ジェラルドも座って。そんなに威圧してたら話せないでしょ」
ミカエルはジェラルドを騎士の向かいに座らせると監視するかのように自分も隣に座った。ジェラルドは中々話さない騎士に苛立ちを隠せない。
やっと聞き出せたのはアメリアが一週間ほど前に王宮を訪れジェラルドに会いたがっていたのに、アメリアを偽物と言って追い返してしまったという信じられない事実だった。
アメリアは王都の外れの安宿に泊まっていると話したという。
「なんで保護しなかったんだ」
ジェラルドの剣幕に王宮騎士が縮み上がる。危険を感じたのかヴィクトルがいつでもジェラルドを止められる位置に移動していた。
「ミケをアメリアだと思ってたんだ。責めても仕方ないよ」
ミカエルがジェラルドを宥める。
アメリアが領地に帰ったため使用人の寮の警備は重要度が下がった。その場を任せていた騎士は信頼できたのでジェラルドが学園に入学するとともに別の仕事に移らせていた。現在の騎士はミケとの連絡役として残していた者でミケが影武者である事は説明していない。
ジェラルドがイライラしている間にアメリアを呼びに人を行かせていたらしい。話を聞き終えてジェラルドも追いかけようとしたが、卒業パーティーの事が意味をなさなくなるとヴィクトルとミカエル2人がかりで説得されて、再びソファーに座り込んだ。
ミカエルは王宮騎士を別室に連れて行き詳細を聞き出している。
ジェラルドが執務室を落ち着きなくウロウロする中、ヴィクトルがさり気なく出口の扉を塞いでいた。
どのくらいそうしていただろう。扉をノックして近衛騎士が入ってきた。目立たないために私服を着ているがアメリアとも面識のある騎士だ。アメリアを迎えに行った騎士だろうがアメリアはそこにはいない。
「それが……」
先程の王宮騎士以上に真っ青な顔をした近衛騎士が言葉をつまらせる。
「何だ、早く言え!」
「アメリア様とお会いすることができませんでした。アメリア様が泊まっていたはずの宿屋は……火事で跡形もなく消えて……」
報告が終わる前に出口付近にいたヴィクトルがすごい勢いで部屋を出ていった。ジェラルドもその後を追う。
ジェラルドが廊下に出ると別室にいたはずのミカエルと鉢合わせしたが無視して横を走り抜ける。
「ジェラルドをとめて!」
ミカエルの声で近くにいた近衛騎士と隠密部隊までどこからか出てきてジェラルドを止めに入る。抵抗虚しくジェラルドは執務室に戻された。
「落ち着いてよ。何があったの? ヴィクトルさんは?」
ヴィクトルはそのまま王宮を出ていったようだ。ジェラルドがソファーに座りこむと近衛騎士がミカエルに状況を説明している。
アメリアが泊まっていると伝言を残した宿屋は一週間ほど前、アメリアが王宮を訪ねて来た翌日の夜明け前に火事で全焼してしまっていた。武器を持った者が多勢入ってきて火をつけたようなのだ。
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ジェラルドは隠密部隊の数人にヴィクトルを追わせ、ヴィクトルの指示で捜索にあたるようにと伝えた。近衛騎士には警備騎士団に向かわせ火事についての詳細を調べさせている。
ミカエルが関わった全ての近衛騎士、王宮騎士にアメリアについて箝口令をしき情報が漏れないよう徹底させていた。
隠密部隊と近衛騎士が監視していて外に出れないジェラルドにはこれ以上できる事もなく執務室で報告を待った。
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