【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ

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〈番外編〉皇太子殿下の苦悩

13.噂の姫君

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 日が高くなってきた頃には侯爵の本邸は包囲され、しばらくするとジェラルドのもとに侯爵を囚えたとの報告がきた。

 ジェラルドが近衛を連れて向かうと、侯爵家の応接室には拘束された侯爵が座っていた。侯爵は近くの兵士相手に大きな声を上げていたが、部屋の中はそれほど荒らされた様子もない。あまり抵抗しなかったのだろう。

 エドガーがすぐにジェラルドの元へやってきて、侯爵から聞き出した事を報告していく。その間も侯爵は必死の形相で訴えていた。

「私は3年前のアメリア様の襲撃には関わっていない。それだけは信じてくれ。辺境伯軍の姫君には手を出してない」

 よっぽど辺境伯軍に恐怖心があるようだ。謀反の計画でアメリアを人質にとるつもりだったはずだが、それについてはバレていないと思っているのだろうか。

 エドガーの聞き取りによると3年半前、捜査の手が伸びている事を知った侯爵は一時的に計画を止めた。それが気に食わなかった皇弟ノーマンが単独行動をとってアメリアを捕えようと襲ったのだという。

 実際に動いたのは皇弟にあずけていた侯爵の手の者で、気がついた侯爵が犯行がバレない様に尻拭いをしたようだ。

 これだけ辺境伯軍を恐れてペラペラ話すなら、エドガーに尋問をすべて任せてしまっても問題なさそうだ。ジェラルドがそう伝えるとエドガーは辺境伯軍で請け負うと言った。

 そんな相談をしているうちに他の場所の制圧を終えたヴィクトルとミカエルが報告にやってくる。問題なくそちらも終了したようだ。

「サモエド侯爵、お前は辺境伯領に移送してそちらで尋問を受けてもらう。侯爵としての矜持があるなら抵抗せずにきちんと話せ」

 ジェラルドが言うとサモエド侯爵は睨みつけてきた。

「私が手綱を引かなくなったらノーマン様がどのように動くかわかりませんよ。皇太子殿下の魔の手からアメリア様をお救いすると言っていましたからね。私を捕まえて本当に良いのですか?」

 侯爵は嫌な笑みを浮かべて笑い出す。

「魔の手?」

「救う?」

「皇太子殿下がアメリア様にひどい仕打ちをしてきたからいけないのですよ。嫌がるアメリア様を無理やり木に登らせたり、アメリア様のかばんにカエルをつめて泣かせたり、泣き叫ぶアメリア様を無理やり3階からロープでおろしたりもしたそうじゃないですか。子供の頃のことだとしてもひどすぎる。ノーマン様はアメリア様を救うのが私に協力する条件だと言っていました。私が抑えなければノーマン様は早々にアメリア様を囚えていたことでしょう」

 ジェラルドとヴィクトルが無意識にミカエルを見てしまう。ミカエルは真っ赤になって俯いていた。

「エドガー殿、アメリア様を蔑ろにする皇太子殿下の味方など何故するのですか? 辺境伯軍は我々と共に新しい王国を作るべきです」

 なおも侯爵は叫んでいる。ジェラルドはあまりに事実と違う噂を信じ切っている様子に反論する気も起きない。アメリアとの関係を誤解していたから辺境伯軍が味方につくと信じて疑わなかったのかもしれない。

 アメリアは平気でスルスルと木には登る事ができる。万が一、辺境伯領が戦火になったときに木の上に隠れる可能性があるから訓練したと言っていたが、たぶん高いところが好きなのだ。

 ジェラルドとアメリアが木に登るとそれを見上げてミカエルが「危ないよ」とか「僕は登らないからね」とか「高いところ怖くないの?」とか毎回不安そうに声をかけてきていた。

 カエルを詰めたのもミカエルのかばんだが、ジェラルドと一緒にカエルを探していたアメリアが、かばんから出てきて飛び回るすごい数のカエルを見てミカエルより驚いて途中から泣き出したので半分は本当だ。余談だが3匹のカエルで3カエルにしようと話していたのに、調子に乗って30匹のカエルにしたジェラルドのせいだ。
 
(あのとき、泣きながら抱きついてきたアメリアは可愛かった)

 アメリアは落ちついた後にこんなに多いなんて聞いてないと言って怒り出してミカエルがオロオロしながら宥めていた。

 3階からのロープはミカエルにも出来るならアメリアにやらせても安全だと思ったジェラルドが、試しにミカエルにやらせたら泣き叫んでしまったのだ。もちろん、先にジェラルドが試して問題なかったからやらせたのだが、あまりの叫び声にジェラルドの方が驚いた。泣きながらも降りて来れたのでアメリアにも後でやらせた。

 思い出してみると、本当にミカエルはジェラルドのせいで苦労している。今でもジェラルドの側で働いてくれているのは奇跡と言っても良いかもしれない。

 ジェラルドは改めて心の中でミカエルに感謝した。

「つ、連れて行け」

 ミカエルの指示で侯爵が軍人に連れられて部屋を出ていく。残されたジェラルド達はしばし無言になった。

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