【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ

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〈番外編〉皇太子殿下の苦悩

4.襲撃

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「アメリアが襲撃にあった?」

 学園入学の1週間前、辺境伯がジェラルドの執務室にやって来たと思ったら開口一番血の気が引くような事を言ってくる。

「アメリアは無事なのか? 怪我は?」

 ジェラルドは動揺を悟らせないように必死で声を抑えようとしたができていない。震えそうになる手を机の下に隠した。

「まさか、アメリアから何も聞いておられないのですか? 襲撃は2ヶ月ほど前ですよ。アメリアに信用されてないんですね」

 辺境伯がニヤリと挑発するように笑う。ジェラルドは2ヶ月前から今日まで数回アメリアに会っている。アメリアがその間に怪我をしている様子はなかった。

 ジェラルドはホッと息を吐き出して辺境伯から次々と飛んでくる嫌味を軽く受け流した。

 辺境伯は事件の詳細をジェラルドに伝えた。襲撃があったのは2ヶ月前王宮に向かっている時だったという。アメリアの乗った馬車が襲われたが護衛が対処したためアメリアに怪我はなかった。

 2ヶ月前の王宮へ向かっている時。

 ジェラルドには心あたりがあった。庭で令息に囲まれていたアメリアを思い出す。確認すると間違いなくあの日だった。

(それで遅くなったのか)

 襲撃で怖い思いをしたアメリアになんて態度をとってしまったのだろう。自分の態度のせいでアメリアは襲撃について話せなくなってしまったのかと思うと情けなくなる。

 それもこの襲撃はおそらくジェラルドに責任がある。

「辺境伯、犯人は叔父上か?」

「アメリアの護衛を中心に躍起になって首謀者を探しましたが、誰の差し金かは分かっていません。ただ、感触としてはおそらくそうでしょうな」

 辺境伯が当然のように言った。

「襲撃に居合わせたアメリアの護衛と直接話がしたい。ここに呼んでくれ」

 辺境伯が面倒くさそうな顔をしてのらりくらりとジェラルドをかわし、呼ばなくて済まそうとしてくる。

「皇太子命令だ。連れてこい」

 ジェラルドもあまり言いたくはない台詞だが辺境伯でさえ断ることの出来ない『命令』を出す。

 それでも辺境伯は渋っている。

「父上、私から殿下に伝えましょうか?」

 静かに護衛に徹していたヴィクトルが言った。

「いや、私から話そう」

 辺境伯はため息をつくとやっと観念したように話し出した。

「これから話すのは辺境伯軍にとっては広めてほしくない恥ずかしい話です。聞かなかった事にして頂けますか?」

 ジェラルドは頷いた。

 アメリアの護衛たちはアメリアが襲われたことで犯人を必死に探した。しかし、当日はアメリアの安全を優先していて動けなかったため、初動が遅れた。翌日調べ始めた時には巧妙に隠されていて首謀者まで辿ることができなかったのだという。

 そのため、辺境伯に恨みを持っている人物に片っ端から聞きにいった。

「もちろん、我が軍の特殊部隊が得意とするです。あー、ご安心下さい。殿下が調べても何も出てこないと思いますよ。プロですから」

 流石のジェラルドでも顔が引きつってしまう。安心出来る点などどこにもないが調べても罪には問えないということだろう。

 このままでは皇弟はじめ現在名前が上がっている人物に復讐するのも時間の問題だった。背景がわからないまま武器密輸の犯人が行方不明になってはジェラルドも辺境伯も困る。護衛の2人は領地に追いやり情報も遮断してしまった。その状況なら確かにジェラルドでも同じ事をするだろうと納得がいく。

「いや~、さすがの私も参りました。アメリアを敵に回したら私であっても命が危ない。皇太子殿下もお気をつけ下さい」

 辺境伯は不敬にもなりかねない事を平気で言って笑った。

「それで、今まで黙っていたのに私に話に来た理由はなんだ?」

 忘れるところだったと辺境伯が言って執務室に呼び入れたのはミルクティー色の髪と紫色の瞳を持つ少女だった。瞳の色はアメリアより少し赤味がかった色をしているが本人に会ったことがなければ特徴としてはアメリアと一致している。

「影武者か」

「ミケと申します。よろしくお願いいたします。皇太子殿下」

 ミケはアメリアらしい笑顔を浮かべてアメリアらしく挨拶した。すでに教育済みのようだ。

「アメリアはすでに領地に入っています。今日からは彼女がアメリアです。そのつもりで対応お願いします」

「学園にはこの者が通うのか?」

「はい、事件解決まではそのようにさせて頂きます」


 辺境伯が出ていった後、ジェラルドは静かに息を吐く。アメリアは学園に通うのを楽しみにしていた。毎日会えると笑っていたのにそれも叶わない。安全のため手紙すら送れない状況でアメリアが不安な日々を過ごすのかと思うとジェラルドは自分の不甲斐なさに苦しくなった。
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