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4.安らげる場所
エピローグ
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― 数週間後 ―
やっと外出の許可を得たアメリアは、王都の一等地にある可愛い建物のテラス席で、季節限定のパンケーキを頬張っていた。
卒業パーティーでの出来事は、アメリアの安全を確保するために行った芝居であって、婚約破棄は行わないと、公式に王家から発表がされた。
それで元通りになるはずだったが、辺境伯だけは今でも婚約を解消すべきだと主張している。アメリアが過労で倒れた事を持ち出して、皇太子妃はアメリアには難しいと言うのだ。
「油断しなければ出し抜かれる事はない。あらゆる可能性を想定して……」
ジェラルドにどうしようかと相談してみたら、よく分からない答えが返ってきた。アメリアは少し不安になったが、本当に説得に困ったらアメリアの母である辺境伯夫人を味方に付ければいい。
(お父様はお母様の言う事なら何でも聞くもの。)
アメリアはペンブローク辺境伯家で一番強いのは、おっとりしていて剣を握ったこともない辺境伯夫人だと思っている。めったに意見を言うことのない夫人が主張した事は、辺境伯家では絶対に通る。
「アメリアは新婚旅行先の希望あるか?」
「ゆっくりできる場所がいいな。」
パンケーキを食べるアメリアの向かいにはジェラルドが座っている。相変わらず忙しく働くジェラルドだが、アメリアのために時間を作ってくれたのだ。
辺境伯の反対はあるが、説得と並行して、具体的な結婚に向けての準備も2人で始めている。結婚式の翌日からはジェラルドも、しばらく休みが取れるらしく、新婚旅行に行く予定だ。
「じゃあ、王家の別荘にでも行くか? 湖のほとりにある別荘。アメリア、もう一度行きたいって言ってただろ。」
アメリアは婚約した8歳のときからジェラルドの学園入学まで、毎年夏に王家の別荘に招待されていた。その中でも一番気に入っていたのが、湖のほとりにある別荘なのだ。
「うん。覚えててくれたのね。ありがとう。」
「じゃあ、湖のほとりの別荘で決まりだな。」
アメリアが頷くと、ジェラルドは微笑んで優雅にコーヒーを飲んだ。美しい所作にアメリアはつい見惚れてしまう。
「どうした?」
不思議そうな顔をするジェラルドに、アメリアは「何でもない」と言って、誤魔化すようにパンケーキにクリームをたっぷりつけて食べた。
「本当に美味しそうに食うよな。」
ジェラルドは見ているだけなのに、胸焼けしたような顔をしている。
「だって、美味しいんだもん。やっぱり、ジェラルドと一緒に食べるパンケーキが一番美味しいね。」
「俺は食べてないけどな。」
「じゃあ、食べなよ。はい。」
アメリアはフォークに刺したパンケーキをジェラルドの口元に持っていく。ジェラルドはブツブツ言い訳をしながら、パクリと食べた。
「やっぱり、俺には甘すぎる。」
文句を言いながらも、ジェラルドは楽しそうだ。アメリアも、そんなジェラルドを見ていると幸せな気持ちになる。
今回のことで、アメリアはこんなふうに過ごす事はもうできないのだと覚悟していた。ずっと、当たり前だった日常が、どんなに大切でどんなに壊れやすいものなのかも知った。
皇太子妃になれば忙しくて2人で過ごす時間も減ってしまうだろう。だからこそ、ジェラルドと過ごす日常を、これからも大切にしていきたいとアメリアは思う。
「ジェラルド、こんなふうにずっと仲良く暮らしていこうね。」
「なんか、プロポーズみたいだな。」
アメリアが黄金色の瞳を見上げると、ジェラルドは天使のような微笑みを浮かべて、アメリアを見つめていた。この笑顔をずっと一番近くで見ていたいなとアメリアは思った。
「ジェラルド、『皇太子殿下の恋人』の2巻が発売されたの知ってる? 駆け落ち先がバレて恋人と別れさせられた皇太子殿下は、仕方なく元婚約者と結婚するんだけどね、新婚旅行先の湖で恋人と運命の再会をするの。再会のときの皇太子殿下のセリフがね……ってジェラルド聞いてる?」
「……」
本編 終
やっと外出の許可を得たアメリアは、王都の一等地にある可愛い建物のテラス席で、季節限定のパンケーキを頬張っていた。
卒業パーティーでの出来事は、アメリアの安全を確保するために行った芝居であって、婚約破棄は行わないと、公式に王家から発表がされた。
それで元通りになるはずだったが、辺境伯だけは今でも婚約を解消すべきだと主張している。アメリアが過労で倒れた事を持ち出して、皇太子妃はアメリアには難しいと言うのだ。
「油断しなければ出し抜かれる事はない。あらゆる可能性を想定して……」
ジェラルドにどうしようかと相談してみたら、よく分からない答えが返ってきた。アメリアは少し不安になったが、本当に説得に困ったらアメリアの母である辺境伯夫人を味方に付ければいい。
(お父様はお母様の言う事なら何でも聞くもの。)
アメリアはペンブローク辺境伯家で一番強いのは、おっとりしていて剣を握ったこともない辺境伯夫人だと思っている。めったに意見を言うことのない夫人が主張した事は、辺境伯家では絶対に通る。
「アメリアは新婚旅行先の希望あるか?」
「ゆっくりできる場所がいいな。」
パンケーキを食べるアメリアの向かいにはジェラルドが座っている。相変わらず忙しく働くジェラルドだが、アメリアのために時間を作ってくれたのだ。
辺境伯の反対はあるが、説得と並行して、具体的な結婚に向けての準備も2人で始めている。結婚式の翌日からはジェラルドも、しばらく休みが取れるらしく、新婚旅行に行く予定だ。
「じゃあ、王家の別荘にでも行くか? 湖のほとりにある別荘。アメリア、もう一度行きたいって言ってただろ。」
アメリアは婚約した8歳のときからジェラルドの学園入学まで、毎年夏に王家の別荘に招待されていた。その中でも一番気に入っていたのが、湖のほとりにある別荘なのだ。
「うん。覚えててくれたのね。ありがとう。」
「じゃあ、湖のほとりの別荘で決まりだな。」
アメリアが頷くと、ジェラルドは微笑んで優雅にコーヒーを飲んだ。美しい所作にアメリアはつい見惚れてしまう。
「どうした?」
不思議そうな顔をするジェラルドに、アメリアは「何でもない」と言って、誤魔化すようにパンケーキにクリームをたっぷりつけて食べた。
「本当に美味しそうに食うよな。」
ジェラルドは見ているだけなのに、胸焼けしたような顔をしている。
「だって、美味しいんだもん。やっぱり、ジェラルドと一緒に食べるパンケーキが一番美味しいね。」
「俺は食べてないけどな。」
「じゃあ、食べなよ。はい。」
アメリアはフォークに刺したパンケーキをジェラルドの口元に持っていく。ジェラルドはブツブツ言い訳をしながら、パクリと食べた。
「やっぱり、俺には甘すぎる。」
文句を言いながらも、ジェラルドは楽しそうだ。アメリアも、そんなジェラルドを見ていると幸せな気持ちになる。
今回のことで、アメリアはこんなふうに過ごす事はもうできないのだと覚悟していた。ずっと、当たり前だった日常が、どんなに大切でどんなに壊れやすいものなのかも知った。
皇太子妃になれば忙しくて2人で過ごす時間も減ってしまうだろう。だからこそ、ジェラルドと過ごす日常を、これからも大切にしていきたいとアメリアは思う。
「ジェラルド、こんなふうにずっと仲良く暮らしていこうね。」
「なんか、プロポーズみたいだな。」
アメリアが黄金色の瞳を見上げると、ジェラルドは天使のような微笑みを浮かべて、アメリアを見つめていた。この笑顔をずっと一番近くで見ていたいなとアメリアは思った。
「ジェラルド、『皇太子殿下の恋人』の2巻が発売されたの知ってる? 駆け落ち先がバレて恋人と別れさせられた皇太子殿下は、仕方なく元婚約者と結婚するんだけどね、新婚旅行先の湖で恋人と運命の再会をするの。再会のときの皇太子殿下のセリフがね……ってジェラルド聞いてる?」
「……」
本編 終
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